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アルバーナの軌跡  作者: シェイフォン
第二章 国の中枢は揺るぎない信念
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到着

 王都から南の国境付近の街まで約半日。

 そこでアルバーナ達一行はアンサーティーンから頂いた餞別の品を受け取り、大量の水や食料などを買い込んだ後一泊を取った。

 そして明朝。

 国境を越えたアルバーナ達に待ち構えていたのは想像を絶する光景だった。

「うわあ……」

「これはなんとも」

「酷いです」

「あわわ」

 上から順にメイリス、フレリア、アメリアそしてクークの順である。

 彼女達が絶句していたのは、荒野としか思えない場所に多くの難民がいたからである。

 悪臭が充満しているのは仕方ないにせよ、最も彼女達の心を苛んだのは難民たちの眼である。

 絶望。

 それ以外に言い現せる言葉が無い。

 瞳には全く光が無く、ただなすがままになるという諦観の念がありありと伝わってくる。

 しかもそれが老人でなく、青年や子供も同じ絶望を浮かべているとなるともはや何も言えなかった。

「……フレリア、難民ってこうなの?」

 恐る恐るメイリスはフレリアに尋ねる。

「いや……私は治安維持が主な任務だったから難民をこの目で見るのは初めてだ」

 メイリスの常識によると難民というのは死にたくないから逃げ出した人々であり、ゆえに何としてでも生きようという執念に満ちている。

 なので身なりが良い外来人である自分達に食べ物や施しを恵んでもらおうと大挙して集まる光景を予想していたのだが、実際はただこちらを一瞥して終わるだけである。

 まるで違う光景にメイリス達はただ戸惑うばかりであった。

 が、唯一動じない人物がいる。

「中々の虚無具合だな」

 アルバーナはメイリス達の驚愕をまるで意に介していない。

 それどころか今の状況を楽しんでいる様に思えた。

「少々落ち込み過ぎだが、まあそこは俺の演説しだいで何とかなるだろう」

 荒野どころか焦土状態であるこの難民達がどうして突然現れた若輩者である彼の演説で奮い立つと思うのか。

 何とも傲岸不遜なセリフだが、本当に何とかしてしまいそうに見えてしまうのがアルバーナである。

「あ~、アルバーナ?」

「ユラスで良いぞ、フレリア」

「誰が名前で呼ぶか!? 私は変わらずアルバーナと呼ぶぞ!」

 フレリアはアルバーナを名前で呼ぶことに抵抗があるのか顔を真っ赤にして反対する。

(自分は名前で呼ばれているのに?)

 呼ばれるのは良いけど呼ぶのは駄目、そのよく分からない線引きにメイリスは首を傾げた。

「話が逸れたな、俺からすれば無の方が良い。何も無い分純粋であり、爆発的な力を生み出す」

 アルバーナが言いたいのは、中途半端に拘るものがある人間はそれが邪魔をして思い通りに動いてくれない。

 だったら誇りも知恵も持っていない人間の方が後々モノになると言いたかった。

「アルバーナ、それは洗脳ではないか?」

 どちらにせよ己の思い通りに操る。

 人間はモノでないゆえにフレリアの指摘は正しい様に思えるが。

「……イズルード、洗脳は一概に悪いと言えない」

 メイリスがアルバーナの代わりに反論する。

「己の足で立つのも良い、誰かに支えられて立っても良い。大事なのは、自分の存在が周りの人間を立たせる希望になっているか否か」

 生まれつき障害がある人に職場で健常者と同じ成果を求めるのは酷であるが、例え健常者よりも成果が低くても周りの人間のやる気を促しているのなら、その人は健常者よりも偉大と見て良い。

「極論になるけど何も施さないで成果を出さず、周りの人間の気分を害するのならば。洗脳なり恐怖なりを与えて成果を出し、周りの人間に何らかの影響を与えるのならば褒められるべき」

「カナザール、それは酷過ぎないか?」

「だから極論と前置きした。人の感情は複雑怪奇ゆえに理想通りにいくはずがない」

 メイリスはフレリアの疑問を切った。

「――コホン。さて、始めるか」

 アルバーナは咳払いを一つする。

「師匠! この上に乗ると良いです!」

 マーガレットはどこから持ってきたのか木箱を抱えている。

「おお、それがあれば百人力だ。ありがとうマーガレット」

 木箱の上に立てばさらに自分が注目してくれる。

 此度行う演説は目立つことが最重要なためアメリアの提案は素直に嬉しかった。

「よし――聞け! 皆のもの!」

 そしてアルバーナは聞く者全てを振り向かせる力の入った声を張り上げた。

 

「俺の名はユラス=アルバーナ! この南諸国を平定し、国を創る者だ!」

 国を創る。

 その言葉を聞いた難民達は二つの反応に分かれた。

 圧倒的多数は単なるほら吹きだと興味を失うが、ごく少数は次は何を言うのかと期待を向ける者である。

「お前らは俺が嘘を付いていると蔑んでいるだろう!」

 アルバーナは羞恥も気後れも感じさせずに続ける。

「ゆえに俺は誓おう! 一ヶ月以内に俺はここに住む難民全員に住む場所と食糧を提供する! だからその時に再度問う! 俺が作る国の国民になれと!」

 断っておくが、アルバーナは何の後ろ盾もない商人の息子である。

 しかもここは他国であり、周辺の地理に明るいわけでもない。

 航海にあたり、食料や水も地図もなく、ただコンパスしか持っていない状況にも拘らずその自信はどこから湧いてくるのだろうか。

「「「「……」」」」

 事情を知っているメイリス達でさえアルバーナの言葉に心を動かされた。

 ならば無知である難民達だったらどのような心境になるのだろうか。

 その答えはアルバーナが降板した直後から現れた。

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