第一話 仲間というよりネット友達
『カチカチカチカチ―――』
『カリカリカリカリ―――』
都心から少し離れた6畳1間のアパートの一室から絶え間無くパソコンのハードディスクに書き込む音とキーボードをたたく音が聞こえてくる。
机にはディスプレイが5個並べてあり椅子にはまだ二十代前半くらいの男が座っている。
しばらくすると画面にこう表示された。
「DO YOU WANT TO COPY? Y/N」
男はフラッシュメモリーをパソコンに差し込む。
「これで、、、チェックメイト」
そして人差し指を大きく振りかぶり
『カチッ』
Yキーを押す。
すると画面にNow Copyingと表示されメーターが徐々に増え始めた。
「これでしばらくは持つやろ、、、。あっ、そういえばそろそろ来る時間や」
男はだるそうに立ち上がりながらそういった。
そう、この男、、、俗に言うクラッカーなのだ。
俺の名前は多田 昌史。
普段は大学に通っているが、今日みたいな休みの日はパソコンのパーツを買うためにピザ屋で宅配のバイトをしている。
この頃パソコンのハッキングにすっかりはまっている、と言ってもまだ始めたばかりだからほとんど何もできないに近い。
しかし家のパソコンではスペックが足りず処理落ちしてしまうためCPUやメモリを増やすためにバイトを始めた。
ところでハッキングとクラッキングは別物だと知っていただろうか?
ハッキングとはいかに早くパスワードを解除できるかというもので犯罪ではないが、クラッキングとは他人のパソコンなどに不正アクセスをするという犯罪行為のことである。
「はい、じゃあこれ最後に届けて今日は終わりにしていいよ」
おっと、、もう焼けたのか。
「はいっ」
俺は上司に元気良く返事をして配達を始めた。
バイクを走らせること20分、ようやく目的地に着いた。
「ここか、、、」
そこはよくあるアパートだった。
「えーっと、203号室の山崎さんっと」
階段を上り扉の前に立つ。
いつもこの時が一番緊張する。
毎回クラスの前で発表するような気分に襲われる。
今日も思いきってベルを鳴らす。
『ピーンポーン』
やがて数秒後
『ガチャ』
鍵が開く音がして
「はい、、、」
そこには上にTシャツ一枚というラフな恰好をした男がいた。
しかし俺の目には背後の機器しか移っていなかった。
『ピーンポーン』
「おっ、来たやんけ」
頼んだものは定番のマルゲリータとピリッと辛いがそれが病み付きになるハバネロピザである。
毎日こうやって宅配の生活だが飽きたことは一度もない。
食べ物に興味がない&見た目を裏切らず料理が苦手なのである。
玄関に行く。
「はい、、、」
待望の食料に期待を膨らませつつ扉を開けると配達員がいた。
「えっと、マルゲリータ一つとハバネロピザ一つで3120円やったっけ?」
「、、、」
ん?
様子が変や。
どないしたんやろ?
俺は配達員の目線の先にある物を追う。
「あ、、、」
背後にあるパソコンのディスプレイ見られたぁぁぁぁぁぁ!!
「、、、」
「えっと、、これはそのー、、、」
「、、、」
まずい、、、
しかし並大抵の一般が見てもきっと何をしてるかすらわからないだろう。
だから大じょ―――
「スゲーっ!!みづほ銀行の個人データを書き変えてやがるっ!しかも使ってるクラックのソースはアメリカのダニエル・ジャクソンが独自に開発したアルゴリズムが組み込まれてる!これなら逆探知されても日本全国からランダムに選ばれたパソコンに変更される、これぞ完璧なク・ラ・ッ・キ・ン・グ☆燃えてキターッ!!!ハアハア、、、」
全然大丈夫じゃなかったーっ!!
何でわかんねんっ!?
しかも目がいってたし、、、。
こ、、、こいつ、、何者や?
少なくとも普通やないな。
しかしそんなことを考えていると
「あれっ!?おらへんっ!!」
いつの間にか視界から配達員が消えていた。
「どこ行きやがった、、、」
嫌な予感を感じながら後ろを振り返ると、、、いた。
ディスプレイに向かって何かしている。
「ちょっ、お前何してんねんっ!?」
慌てて駆け寄り止めにかかる。
「ハアハア、、ちょっと服を脱がすだけだから。さあ、俺の前に全てをさらけ出すがいいぃぃぃぃぃぃ!!」
「人のパソコンをやましい女みたいに扱うなっっ!!」
「君にはそう見えないのかい?まだまだだね」
だめだこいつ、早くなんとかしないと。
ってか、むしろそういうふうに見えたら最後やろ、、、
ディスプレイにソースファイルを展開させたりプロパティーを見たりしている。
とにかく早くやめさせないと
「いいねいいねえー、サイコーだよぉー!!」
「やめれ!!」
「ええじゃないか」
「下手な大阪弁使うなっ!」
「おおー、ここはこうなってるのか、、、」
「人の話完全スルーッ!?」
「え?なんか言ったー?」
「こいつ今すぐ亡き人にしてやりたいわー、、」
そんな配達員にイライラしていると
「あっ、ヤベッ、時間過ぎちゃった、3120円になります」
「今頃っ!?」
「はーやーくーしーてーよー」
ムカッ!
怒りを抑えつつ代金を渡し、ピザを受け取る。
「じゃあこのパソコンに俺のメアド登録しといたから、また今度会おうよ?」
「やだよお前になんか!!」
「そうやって今まで女を振ってきたのねっ!?」
「アホかっ!!?」
「あっ、、、そんな地味だと告白すらされたことないか」
「余計なお世話や!!」
「じゃあまた」
「話し聞けやっ!?」
配達員は玄関で
「あっ、ついでに俺は多田 昌史。よろしく。」
「俺は、、、って教えるかっ!!!」
「いや、これに書いてあるから、山崎さん」
「うっ、、、」
それは領収書だった。
多田はそのままバイクに乗って走り去って行ってしまった。
「何やったねん」
山崎はしばらく呆然としていた。
「ピザ冷めてもうてるやん、、」
「ふうー、、、今日は燃えたなー」
家に帰った俺の顔が思わずにやける。
「今度の休日にでもまた行くか、、、」
俺は帰りに買ったCPUをパソコンに取り付け始めるのだった。
『カチカチカチカチ―――』
『カリカリカリカリ―――』
「そおいえば、あれから今日で一週間やなー、、、」
あれからは一度も連絡が無く家にも来なかった。
「ってなんで俺は待ち焦がれる乙女みたいになってんねんっ!!」
べつに来て欲しいとかやないしぃー。
逆に来られなくて安心してるくらいやし?
「あー、、、、ちょっと疲れたわー、、、」
休憩しようとソファーに向かうと―――
『ピーンポーン』
「あ゛あ゛?誰や、こんな時に?」
疲れた体にムチを打ちドアを開けると―――
「ヤッホーッ!!」
・ ・ ・
『バタンッ』
今一番会いたくないやつがいた。
「あれ、、、疲れ過ぎてついに幻覚まで見えるようになってもうたんかなー、、、少し寝んとな」
『ガンガンガン!!』
今度はドアを叩く音がする。
あまりにしつこいためしょうがなく重い体を最後の力を振り絞って動かし今にも倒れるんじゃないかと思うくらい疲れていたがなんとか一歩づつ踏み締めて何時間かかるかもわからない道のりを頑張ってものの数秒で駆け抜けマウスやキーボードで疲れ果てて握力が10も残っていないんじゃないかと思う手でノブをにぎりしめ今なら地球も回転させられるんじゃないかというくらいの力を込めてゆっくりと鋼鉄でできたドアという人生の壁をこじ開けるかの如く半分だけ開ける。
「なんや?」
「よお、来てみたぜ」
やはり幻覚じゃなかった。
「帰れ」
「酷っ!!この前来るって言ったじゃん!?」
「あれはお前が一方的にした約束やろ!」
「あれ、そうだっけ?まあいいじゃん、上がるよー」
そのまま上がろうとする多田を止める。
「待てや、許可しとらんやろ!?」
「大丈夫大丈夫なんとかなるさ」
「ならへんっ!!」
なんてフリーダムなやつ!!
はあー、しかし引く気もないらしい。
どおしよ、、、
「じゃあ上がってもええからパソコンいじりなや?」
「オッケー、何も問題はないさ」
「ありありやろ、、、」
多田を上がらせた後、パソコンにロックをかけて寝ることにした。
「じゃあ俺は疲れたから寝るわ」
「おおー、わかった」
ロックかけてるし大丈夫やろ。
ああー、、、眠い、、、
俺はそのまま夢の世界に落ちたのであった―――
さあーて、うるさいやつ(山沢だか山木だっけ?)も寝たところだしさっそくパソコンの中身を見てみようか。
そうしてパソコンのディスプレイを見て驚愕した。
「ばっ、ばかなっ!?ロックがかかってるだとっ!!」
それは山崎が寝る前にかけたロックだった。
しかししばらくすると多田は余裕の表情で満ちていた。
「HAHAHA☆こういうこともあろうかと、、、準備万端なのだっ!!」
リュックからフラッシュメモリーを取り出すとパソコンに差し込む。
「今こそ日頃の成果を示す時だっ!!」
するとディスプレイにソースファイルが表示され―――
「そーれポチッとなっ」
『カチッ』
Enterキーを押すと画面に凄まじい速度で英数字が書き込まれ―――
しばらくすると
『ピッ』
と短い電子音がして「UNLOCK」と表示された。
「よっしゃあー!!」
俺は小さくガッツポーズをとる。
今まで勉強してきた甲斐があったな、と歓喜に浸る。
「それでは失礼します―――」
俺はマイドキュメントからファイルを物色し始めたのであった。
『カチカチカチカチ―――』
俺はキーボードを叩く音で目がさめた。
「、、、あれ?なんでキーボードの音が?」
おもむろにパソコンを見ると―――
やつがいた。
パソコンの前に鎮座し、何かをしている。
「まさかっ!!」
ディスプレイにはソースファイルが表示されておりロックは解除されていた。
「多田っ!!」
すると多田は振り返り
「よお、やっと起きたか」
と爽やかに言い返してきたのだった―――
今回の作品は前回連載を中断して消したもののリニューアルです。
なので最初は内容的に同じですが、ちょこちょこ付け足したりしたので楽しんでいただければ幸いです。