Burnin' X'mas
TM−Revolutionの同名の曲の歌詞を元に書き上げました。
思い込みかもしれませんが、こんな感じかな、と。
もうすぐ聖夜と言うことで、街は完全にその色に染まっている。
本来なら、俺たちもその色に染まっているはずだった……。
「ねぇ〜、いるぅ? 辰哉ぁ〜」
週末の夜、俺が一人で部屋でゲームをしていると突然ドアホンが鳴った。
慌ててでると、そこにはしたたかに酔った真知子が立っていた。
「いるじゃなぁい、いるんならいるって返事しなよぉ〜」
俺がドアを開けるとほぼ同時に真知子は部屋になだれ込んできた。俺が支えてやらないと立てないくらいに酔っている。
「どうしたんだよ、まっちゃん……」
真知子はのろのろとブーツを脱ごうとしていた。酔った女にロングブーツは敵のようだ。
仕方なく俺はブーツを脱がせてやった。
真知子は足が綺麗だと自分でも分かっているから、いつもミニスカートしかはかない。
酔っているせいもあって、ブーツを脱がせる一瞬、その奥がちらっと見えたような気がした。
(はっ!)
つい、にやけそうになったのだが、我に返った俺は顔を引き締め、真知子を支えてもう一度立たせてやった。
ほったらかしにされたゲームは、当然ながらゲームオーバーになっていた。
真知子を座らせ、俺はキッチンにスポーツドリンクを取りに行った。
(真知子のヤツ……どうしたってんだ、あんなに酔って……)
俺が真知子のことを心配するのも、ミニスカートの奥が見えても喜べなかった理由も、同じことからだ。
真知子は、俺の親友である健児の彼女であり、さらに俺の彼女である智美の親友だからであった。
「ほれ、まっちゃん、これ飲みな」
俺は真知子にスポーツドリンクを差し出した。真知子は手を伸ばし、それを受け取ろうとした。
俺は真知子が持ってるものだと思い、手を離したらまだそれは宙に浮いた状態だった。
「きゃぁぁー」
中途半端な悲鳴を真知子があげた。やはり反応が少し遅い。
「ごめんごめん、タオル貸すから……」
俺は今度は真知子にタオルを放り投げた。
「ん〜、綺麗に拭けないよぉ〜、辰哉ぁ〜」
仕方なく、俺は真知子にこう言った。
「悪かったよ、まっちゃん、濡れたままだと風邪ひいちゃうかも知れないし、シャワー浴びてきなよ」
のろのろと歩いてゆく真知子の背中を見ながら、俺は考えていた。
(今日は週末……健児のヤツと一緒じゃないのか? ま、俺も一人だけどサ……。しかし、まっちゃんはいつ見ても綺麗だよなぁ……)
週末に彼女にほったらかしにされた俺は、やけでゲームをしていたのだが、真知子がなだれ込んできたことで少しだけ、気分が晴れた。
もちろん、こんな夜更けに女が現れることに対して、なんの下心も抱かなかったと言えば嘘になるが。
「さんきゅ〜、辰哉。ちょっと酔いも醒めたかなぁ」
振り向いた俺は目を疑った。
真知子はまるで自分の部屋にいるかのように、バスタオルで身体を巻いただけの姿で俺の前に現れたのだ。
「まっちゃん……?」
「あっ? あ、ごめんごめん……ちょっと刺激が強すぎたかなぁ?」
そう言うと真知子は風呂場に戻った。
「辰哉ぁ、ジャージ貸してよ。濡れた服、洗濯する間さぁ」
「そこら辺にあるの着ててくれ」
真知子はさっきとうって変わったラフな姿で現れた。
真知子は俺の横にすとんと座り、俺の顔を見てこう言った。
「健児がいないのよぉ、辰哉知らない〜?」
「は? 健児? なんでまっちゃんが知らないんだよ。あいつ、今日はどっか行くって言ってたぜ?」
「そっかぁ……」
「あぁ、確かな」
「ねぇ、辰哉。今日は智美は来ないの? 来るの?」
「あん? 智美だぁ?」
俺をほったらかした女の名前を出されて、俺は少しいらだった声で答えた。
「そ、智美。来るんだったら、あたしいない方がいいじゃない?」
にこっと笑う真知子の唇から、八重歯が見えた。
「け、勝手にしろや。あいつぁ、今日は来ねぇよ。どこにいるかしらねぇ」
「ふーん……智美、来ないんだぁ?」
俺の顔を見続ける真知子は、ひょっとしたら俺を誘っているのかもしれなかった。
「ねっ? 辰哉、飲もうよ、今日はさぁ」
そう言うと真知子は冷蔵庫からビールの缶を二本持ってきた。
ブシュッと音を立てて缶を開けると、一本を俺に渡し、そして叫んだ。
「かんぷわぁーーい」
(まだ飲むのか、こいつは……)
俺の部屋にあったつまみをほとんど出したが、真知子はまだ飲み足りないようだった。
仕方なく手軽なつまみを作って出してやった。
流石にまた酔いが回ってきたのだろう、真知子は少しだけおとなしくなってきた。
「ねぇ〜、辰哉ぁ〜」
「ん? なんだ、まっちゃん」
真知子は酔いが回って頬が赤い。瞳も心なしか潤んでいるように見える。
普通の時に見ても吸い込まれそうな魅力のある瞳なのに、さらに吸い込まれそうに見えてしまう。
必死にその瞳の魅力と戦う俺に、真知子はこんな言葉を投げてきた。
「辰哉、知ってるんじゃないのぉ〜、健児クンのいるとこぉ〜」
「はっ? 健児の居場所? んっと……。あ……」
俺は健児が呟いていた言葉を思いだした。
『俺、週末にいつもの公園で待ち合わせてるんだわ』
誰とだったかは分からないが、確かにそう言っていたのだ。
「まっちゃん……健児、公園で待ち合わせているって……」
それを聞いた真知子は呟くようにこう言った。
「公園……? 智美もそう言ってたよぉ?」
(何?)
俺はその言葉を聞いた瞬間、両手で真知子の身体を掴み、思い切り揺さぶっていた。
「それはホントか、智美も待ち合わせって!?」
「うん、うん……辰哉ぁ、痛いよぉ……」
(!)
あまりのことに俺は真知子を掴んだ手に力を入れすぎていたらしい。力一杯揺さぶられて、真知子は少しおびえてしまった。
「ごっ、ごめん、まっちゃん……」
慌てて手を離し、飛び退いた俺に、真知子は再びすり寄ってきた。
「大丈夫だよ、辰哉……」
その瞳といい、身のこなしといい、少し酔った真知子はまるで猫のようだった。
「ねぇ、辰哉……智美、健児クンと一緒にいるのかなぁ……」
「んぐ……」
(こ、こいつは……)
どう考えても誘われているとしか考えられないような状況になってしまって、俺は固まった。
「辰哉は智美のこと信じてる?」
「俺は……そう言うお前はどうなんだよ? 健児のこと信じてないのか?」
「あたしぃ? あたしは……いいんだ……べつに……」
少し寂しげな目をした真知子の顔が寄ってきた。一瞬脳裏に智美の顔が浮かんだが、俺は無理矢理それを振り払った。
「まっちゃん……」
真知子の片にそっと手を置き、そのまま唇を重ねようとしたその瞬間。
俺の携帯が鳴った。
慌てて真知子のそばから離れて、俺は電話にでた。
『もしもし……辰ちゃん……?』
電話の向こうからは聞き慣れた声が小さく聞こえてきた。
「今どこにいる! 何してんだ!」
『怒鳴らないで話を聞いてよ……』
「怒鳴られるようなことしてるのはお前だろうが!」
と電話に向かって怒鳴った次の瞬間、それはひったくられて真知子の手の中にあった。
「智美? 今健児クンと一緒なの? どうなの?」
真知子がそう尋ねても、返事はなかったようだ。真知子は俺に携帯を突っ返した。
見るともう切られていた。
真知子はしばらくの間黙って俺の顔を見ていた。
そして、何も言わないまま、ぽろぽろと涙をこぼした。
「健児クン、智美と一緒にいるんだよ、きっと……もうあたしのことはどうでもいいんだよ……」
そう言う真知子の肩を優しく抱いてやることしか、俺には出来なかった。
「辰哉、まだ飲めるでしょ? もっと飲もう?」
そう言った真知子の肩に回した手に少し力を入れて、俺は真知子の身体を引きよせた。
さっきよりももっとスムーズに、唇が重なり合いそうになった瞬間。
また携帯が鳴った。
今度は俺が取るよりも先に真知子が取った。
「ちょっと、今どこにいるのよ!」
さっきの俺よりも激しい口調で携帯に怒鳴っている真知子。コレ以上はまずいと思った俺はさっさと真知子の手から携帯をひったくった。
「健児、テメェ今どこにいんだ?」
『どこにって、いつもの店よ』
「何をいけしゃぁしゃぁと。智美もそこにいんのか?」
電話の向こうの健児の声は俺と反対にとても冷静だった。
『いるよ。今日はさっちゃんに頼まれてココに来てンだもの』
「何だって? 智美に頼まれて? どういうことだ?」
『それは……なんつうか……』
急に健児の言葉が歯切れ悪くなった。俺はそれを聞きながらいらだちで手が震えていた。
「はっきり言えよ!」
『いや……。ちょっとココでは……』
俺の手のふるえはどんどんひどくなっていく。
「だったら俺ン家に来い! 待ってっから今すぐ来い!」
『分かった、すぐ行く……』
「智美も連れてくんだぞ!」
俺はそう言うと、電話を切った。
さっきと逆で、俺は何も言わずに真知子の顔を見ながら涙を流した。
真知子は優しく俺の頭を撫でてくれた。
「泣かないでよ、辰哉……」
そして俺と真知子は暫くこのまま、無言でいた。
ドアホンが鳴った。俺より先に真知子がドアを開けに行っていた。
「健児クン……」
健児はそう言って駆け寄った真知子を押しのけ、部屋の奥にいた俺に向かってこう言った。
「辰哉! 何でさっちゃんが俺を呼んだか……!」
そのときすでに俺は健児の胸ぐらを掴んでこう叫んでいた。
「健児ィ! まっちゃんほったらかして何やってんだテメェ!」
「ちょ、ちょっと……健児クン」
「辰ちゃんってば……」
智美と真知子の二人が俺達の間に入ってきた。
「うるせぇな、だいたい何でお前が辰哉の部屋にいんだよ、真知子ォ!」
「健児と二人で何してたんだ? 智美」
話がごちゃごちゃになってきて、俺達は訳が分からなくなってきた。
健児がこう言った。
「あのな、俺はさっちゃんに頼まれて今日会ってたって言ったろ? あれ、お前のためなんだぜ?」
「へ?」
「もうすぐクリスマスじゃん。さっちゃん、お前にプレゼント何買ったらいいか分からないし、相談乗ってって言ってきたんだ」
「……」
「お前のためのプレゼントの話しだし、言っちまうとつまんねぇから黙ってたんだ……そんで妙な誤解うんでたら悪かったよ」
健児はそう言うと俺に頭を下げた。それを見て智美が慌ててこう言った。
「健ちゃんは悪くないんだよ、変なこと頼んだ私が悪いの、ごめんね、辰ちゃん……」
「……」
何を言っていいのか分からず俺はただ黙っているしかなかった。
「で、お前は何をしてたんだ? 真知子?」
「え……」
話を急に振られた真知子がうろたえていたので代わりに俺が答えた。
「そうやってお前が智美と一緒にいたりするから、ほったらかされたと思ってやけ酒飲んでたんじゃないか……」
「ほったらかすって、そんな……」
「だってそうじゃ無い……! 何時もそうだよ、健児クンは……」
「オイオイ……」
急に責められて健児が今度はうろたえた。
「お願いだから健児クンを責めないで、真知子……あたしが悪かったから……」
「でも……」
「ごめん、ホントごめん。この通り」
智美は必死に頭を下げていた。それを見た俺はこう言うしかなかった。
「智美、もうやめろ。ありがとな、こんな俺のために。いろいろ考えてくれて。な……」
俺の顔を見た智美は、やっと笑顔を見せ、俺に抱きついてきた。
「オッ、オイオイ……」
「辰ちゃん! 好きだよ!」
「やってらんねぇな、全く、この二人には……」
「ホントホント、お熱いことで……」
あきれ顔の健児と真知子に俺はこう言った。
「なに言ってんだ。まっちゃんだってさんざん健児のこと心配してたんだぞ」
「真知子……ごめんな……」
「ン、もういいんだ。智美のためだって分かってほっとしたよ」
と言うと二人はそっと唇を重ね合った。
俺はふと時計を見て、こう呟いた。
「もう12時過ぎてる……イブか……」
健児がこう続けた。
「じゃ、ちょっと早いけど、もうクリスマスパーティー始めようぜ」
「でも惜しかったなぁ……」
「ン? 何が惜しかったの、真知子?」
智美にそう聞かれて、真知子はいたずらっ子のように笑ってこう答えた。
「もう少し二人が来るのが遅かったら、辰哉とキスできたのに……」
「げっ!」
「何だと、テメェ、さっちゃんがいるのに何考えてンだこの!」
追いかけてくる健児から逃げながら俺は叫んだ。
「何でそんなこといまいうんだよぉ〜〜まっちゃんってば〜〜」
「クスクス……だって惜しかったんだもん……」
「ダメだよ、真知子には健ちゃんがいるでしょぉ」
そう言いながら智美は真知子に笑いかけた。真知子は舌を出し、照れ笑いを浮かべていた。
「はいはい……」
そして、凄くどたばたしたけど、今年も何時もと同じように、俺達は四人一緒にクリスマスの気分を味わうことが出来た。
何時もと同じように……。
いかがでしたでしょうか。
『ここをこうした方が』とか『こんなのおかしい』とかあったら、ぜひおしえてください。






