表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

第七話 「サイリン街」

 僕は懐中電灯をかざして、周りを照らす。


「下水道なんて、居るとは思えないけどなぁ。僕が猫だったら、屋根の上で日向ごっこしたいもん」


 薄暗くて、腐乱臭がする。僕は、肝試しの気分で奥へ進んだ。


「うっ、臭いがキツくなってきたな。そろそろ引き返そうか……」


 奥へ進む度、強烈さが増す臭いに流石に帰りたくなる。しかし、ちょうどその時、人の気配を感じた。下水道の管理者だろうか。


「誰かいるんですか? いたら返事してくださーい」


 声は返って来ず、ただ自分の声が下水道に反響した。代わりに、少し遠くの方に、ゴミの堆積物が集まっている場所があった。一応、そこに猫が隠れているかも知れないので、近づいて照らして見ると


「うわっ、なんだこれ?!」


 ゴミの山ではない、人の山であった。それも、全て死体の。僕は動揺で、汚い地面に腰をつきそうになる。


「生きてますか……なんて、生きてる訳ないよな。えーと、誰かに伝えた方が良いのかな?」


 明らかに見てはいけない物を見てしまった。こんな経験は初めてだ。僕はサイリン街の恐ろしい裏社会を知ってしまう。


「それに、臭いの原因はこれだったのか……どうしよう」


 ようやく少し冷静になる。そして、最善の行動を考えた結果……


「見なかったことにして帰ろう……面倒事には関わりたくない」


 僕は走って引き返すことに決めた。


 ◇


 チップは屋根の上で、早めの昼寝を取っていた。


「猫なんて、どっちでもいいわー」


 アルマ達に悪いとは全く思っていない。精霊に罪悪感など、ない。人間とは別の生き物だから、勿論感じるものも違う。


「まぁ、ホントーは見つけようと思えば、一瞬なんだけどねー」


 大きな欠伸をして、また眠りについた。


 ◇


 リーネは街の人に、目撃情報を尋ねている。


「昨日か今日、黒い猫を見ませんでしたか?」


「あぁ。さっきいた子かい?その子なら、あっちの方に行ったよ」


「分かりました、ありがとうございます」


 情報を集めていくと、噴水から北東の方面に、屋根伝いに移動したことが分かった。


(情報が正しいなら、チップが見つけていても、おかしくないのだけれど)


 リーネはチップが不安だったので、向かうことにした。そうして、街を歩いていると


「きゃーー!!」


 突然、目の前の女性が叫んだ。ちょうど後ろを歩いていたリーネは、状況を把握していた。


「あの人、窃盗犯です!! 黒いフードの男!!」


 街の人の視線が一気に、その男に集まる。それでも、窃盗犯は走って逃げ切るつもりだ。


「待て!! そこの黒い男!!」


 ギルドの一員と思われる冒険者が、窃盗犯を追いかける。リーネも追いかけようと思ったが、自他共に認める鈍足なので、それは断念した。


「大丈夫ですか? お怪我ありませんか?」


 代わりに、被害にあった女性へ声をかける。


「ありがとうねぇ、まだ若いのに勇気があるのねぇ」


 そう言って、女性は深く頭を下げる。


「あっ、感謝されることは何もしていないです。それに、盗まれた物は……」


「大丈夫じゃないねぇ。あれが持っていかれて外部に流出すれば、この街が危うい」


「それって結構まずいことでは……?」


 割と本気で心配するリーネだったが、女性はニッコリと笑っている。


「私に任せんしゃい。私の名前はマルダ・エスカルネ。一応、ギルドマスターをやらせてもらっているよぉ」


「じゃあ任せました。お体に気をつけて下さいね」


 リーネは驚く素振りを見せない。 

 

 何故、彼女はこの腰の曲がった老婆がギルドマスターである事に疑いを持たないのか。街の人から見れば、会話の展開が早すぎて驚きである。


「またいつか会えると良いわねぇ」


 そう別れようとしたのも束の間、魔法がリーネの近くの店に着弾。一気に街が混乱の渦に包まれる。


「若い子や、名前は」


「リーネ・ミータです」


「リーネ。一旦ここは私に任せて、先に行きなさいな。猫を探しているのでしょう」


「あ、分かりました。ではまた!」


 そう言い残して、そそくさと戦闘現場の横を通り過ぎようとする。


(忘れてた……猫を探しにいかなきゃ)


 しかし、その時魔法が、リーネの足元狙って放たれた。それを一般防御魔法で受ける。  


「おい、そこから離れるな!!お前にも用がある」


 窃盗犯からの攻撃だ。よく見ると、冒険者が倒れている。一筋縄では逃げられなさそうだ。特にリーネの鈍足では。


「なんで私を狙うのかしら。貴方に恨まれることをした覚えはないわ」


「お前に用があるつってんだろ、静かに話聞いとけや! リーネ・ミータだな? お前の名前は」


「いつ知ったのかしら。さっきの会話聞こえてた?」


「合ってんだな。俺の名前はダレン・メータ。もうここまで聞いたら分かるだろ?」


「なんのことかしら?」


「かしらかしら、うるせぇな。とぼける振りをすんのはやめろ!」


「そんなこと言われても分からない事は分からないかしら」


 ダレンの怒りが沸点に達する。


「フラーレ!!」


 ダレンの周りに火の粉が舞う。


「エルフラーレ!!」


 即座に次の魔法を唱えた。火の粉が固まり、ファイアボールとなる。


「くらぇ!!」


 そのまま、全弾飛ばす。しかし、同様にアクアボールを生成していたリーネに敢えなく、撃ち落とされる。


「ちっ、相性悪りぃな。まぁ俺にはそんなの関係ねぇけどなぁ!! ファイアルラーゼ!!」


 炎が一直線にでる、火炎放射技。リーネはアクアボールを何発か撃つが、炎の勢いは止まらない。


「……っ!! 防ぎきれない……」


「マクロネーゼ」 


 空中に大きな空洞が出現し、炎がそこに吸い込まれていく。マルダ独自で生み出した強力な魔法。


「また別れ損ねたねぇ。リーネ」


「邪魔だ、ババア!!」


「若造が。少しは口を慎んだらどうだい」


 再びダレンの炎が、走って逃げるリーネ目掛けて放たれる。


「執拗に彼女を狙うねぇ。貴方の敵は私だよ。マクロネーゼ」


 炎の軌道が曲がり、空洞へ吸い込まれる。


「なんだその滅茶苦茶な魔法は!!」


 ダレンは戦闘を辞めて、その場から離れた。家の屋根の上を走って北東へ、逃げつつも先回りしてリーネを迎撃するつもりのようだ。


「待ちなさいな、若造。追いかけっこでは、お前に勝ち目は無いよ」


 そう言って、マルダは空を踏む様に飛んでダレンを追いかける。


「おいおい、そりゃチートだろ!!ババアまじで何者だぁ?」


「ただの一般女性だよ。見ての通りさ」


「どいつもこいつも、話通じねぇ頑固者だな!! そう言うのを老害って言うんだぜ」


「私に釣られて、前方不注意なんじゃ無いかい?」


 ダレンは、目の前の3発のアクアボールを、すんでのところで回避する。


「あら、体が柔らかいのねぇ、若いって良いわねぇ」


「教えてくれてサンキュー、なぁ!!」


 冒険者が倒れている、最初の戦闘地に残しておいた火の粉からファイアボールを生成し、ダレンの方に引き寄せる。直線状に重なったマルダを、背後から狙撃しようとする。


「視線で見え透いているわよ」


 マルダはノールックで、ファイアボールを空洞に吸い込ませる。


「狙いは良かったわねぇ。それに、無詠唱魔法が出来るなんて、将来有望じゃないの」











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ