鉄の学園、黄金の静寂
11月4日、火曜日。
霜が降りるほどに冷え込んだ朝、絵美里は清菱女子学園の制服を身に纏い、一輝の前に現れた。紺のタータンチェックのプリーツスカートに、プラチナブルーのリボンタイ。チャコールグレーのジャケットにベージュのピーコートを羽織ったその姿は、冬の澄んだ空気のように初々しく、一輝がかつて失った「日常」の輝きを映しているようだった。
一輝は、ウルフツイストの髪を風に揺らし、愛車のドアを開けた。
陽光を浴びて、クリームイエローメタリックの巨大な車体が、蜂蜜のような深い黄金色の光を放つ。重厚なドアが閉まる音は、外界の不安をすべて遮断するシェルターの響きだった。
学園の正門付近は、異様な喧騒に包まれていた。登校中の生徒たちが足を止め、息を呑んで見守る先には、およそ女子学園には不似合いな黒塗りのベンツとワゴン車が居座っている。
その前でニヤニヤと笑うのは、昨夜追い出された三人の女子生徒と、他校の不良、そして自称・絵美里の恋人の「澤田」と思われる男だった。
「あいつだ! あのオヤジの車だよ!」
女子生徒の一人が、校門に滑り込んできた黄金色のセンチュリーを指差して喚き散らす。澤田が勝ち誇った顔でベンツの影にいる「誰か」に合図を送り、車に歩み寄ってきた。
一輝は軽く手を振り、野次馬の中から姿を現した青い瞳の少女――アンジェラに目配せを送った。
「すぐ終わる。絵美里、アンジェラと先に教室へ行ってなさい」
「でも……」
「大丈夫だ。約束しただろう?」
一輝の不敵な笑みに押され、絵美里はアンジェラに引かれるようにして校舎へ向かった。
澤田が肩を揺らしながら、黄金の車体の前に立った一輝に近づいてくる。
「おい、こっちに来いよ」
一輝は無言で男に従い、ワゴン車の前に立った。181cmの長身、B96の厚い胸板から放たれる威圧感は、ラフな出立ちであっても隠しようがない。不良たちは「これから何が起こるか」を想像し、卑屈な期待に顔を歪める。だが、次の瞬間、その光景は一変した。
ベンツのドアが開き、一人のスーツ姿の男が降りてきた。
「若……っ!」
澤田がペコペコと揉み手をしながら近づこうとした瞬間。
バキッ、という鈍い音が響いた。スーツの男の拳が、澤田の顔面にめり込み、彼はゴミ袋のようにワゴン車の足元へ転がった。
一輝はポケットに片手を突っ込んだまま、ゆっくりとサングラスを外した。
「お手数おかけいたしました、一輝様」
スーツの男――広域暴力団の幹部組員である桐賀が、深く、最敬礼で頭を下げた。
殴られた痛みも忘れ、澤田は白目を剥いて震え上がる。女子生徒たちも、自分たちが「何を」呼び寄せてしまったのかを察し、顔面を蒼白にして立ち尽くした。
「お前ら、よりによってこのお方に……。物を知らんにも程があるぞ」
後続の組員たちが女子生徒らをワゴン車へ押し込み、澤田をさらに蹴り飛ばす。
「いや、桐賀さん。こちらこそ面倒をかけたね。……それからこれ、龍一から頼まれていた調査資料だ。渡しておいてくれ」
一輝が上着の内ポケットから取り出した角封筒を渡す。
「必ず『若』に。……龍一も、一輝様にお会いしたがっています」
「ああ、今度龍一に電話をくれるよう伝えておいてくれ。また酒でも飲もう」 「しかと。……では、失礼いたします」
ベンツとワゴン車が霧を裂くように去っていく。
騒然としていた正門前は、まるで魔法が解けたかのような静寂に包まれた。心配のあまり戻ってきた絵美里とアンジェラが、呆然と一輝を見つめている。
「お金を、渡してたんじゃ……」
「まさか。あの方たちは昔からの知り合いでね。頼まれていた資料を渡しただけさ」
一輝は、ウルフツイストの髪を無造作に掻き上げ、少女のように目を丸くする絵美里の頭を優しく撫でた。
「さあ、教室に戻りなさい。午後には迎えに来るから」
一輝はクリームイエローの愛車のエンジンを始動させる。重厚なV12エンジンの鼓動が、学園の朝の空気を震わせた。一輝は教室に向かう二人の後ろ姿を見送り、黄金の軌跡を残して学園を後にした。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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