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青葉の城:紺碧のメイドと孤独な天才


 クリームイエローのセンチュリーが、青葉台の鬱蒼とした緑に囲まれた正門を潜る。重厚な門扉があるじを迎え入れるように音もなく左右に開き、屋敷の全貌が姿を現した。


「お帰りなさいませ、一輝様。玲子様、絵美里様」


 車を停めると、母屋から二十代半ばのメイド・春奈が軽やかな足取りで現れた。彼女が着るメイド服は、知的な輝きを放つ紺色。一輝は、大型クーラーボックスに手を伸ばそうとした彼女を制した。


「これは俺が持つ。春奈さんはトランクの方を頼む」

「畏まりました」


 エントランスホールでは、年配のメイド長・友江を筆頭に、数人のメイドたちが整列し、最敬礼で一行を迎える。


「友江さん、これは厨房へ。食材が入っている。それと、絵美里をよろしく頼む」 「心得ております。絵美里様、ようこそお越しくださいました」


 メイドたちのテキパキとした動きは、まるで精緻な時計仕掛けのようだった。制服の色――紺、青、あるいは別の色――によって役割が分かれているらしく、その規律正しさが、この屋敷の底知れない格調を物語っていた。


 応接間。ラフな部屋着に着替えた一輝がソファに身を沈めると、淀みない所作で新たなダージリンが差し出された。


「私、荷物を片付けてくるね」


 絵美里が立ち上がると、メイドの恭子が手元のリモコンを操作した。すぐさま、青色の制服を纏った年若きメイドが部屋に入り、絵美里を客室へと案内していく。


 玲子がハイヤーで帰路についた後、静まり返ったリビングに、一輝の静かな声が響く。


「恭子さん、泉美は?」

「お部屋に籠っていらっしゃいます。昼食も、お運びしましたが手付かずで……」 「そうか。今日の遅番は誰だ?」

「わたくしと春奈、梨美でございます」

「……分かった。料理長に、俺たちは外で済ませると伝えてくれ。代わりに、君たちにも寿司を届けるように手配しておく」

「はい! 仰せのままに」


 夜の帳が降りる頃、一輝・泉美・絵美里の三人は、老舗寿司屋『次郎丸』のカウンターにいた。

 絵美里は、隣に座る女性に目を奪われていた。ヴィンテージジーンズを無造作に着こなしながらも、隠しきれないカリスマ性を放つ女性――『泉ブランド』の創立者であり、一輝の妹・泉美。

 彼女は一言も発さず、大トロ、ウニ、ケイジ、鮑といった最高級のネタだけを、まるで祈るような執念で繰り返し食べ続けていた。その姿は、美しくもどこか危うい。


 一方、主のいない青葉台の屋敷では、メイドたちが戦慄していた。


「主任、恭子さん……お寿司が届きました。『次郎丸』のおまかせ三人前です!」 「えっ、あの『次郎丸』……!? 一人前三万円は下らない、予約困難な超名店じゃないの……」


 一輝からの、さりげなくも破格な差し入れ。メイドたちはしばし放心し、それから主への深い敬意と共に、極上の味に舌鼓を打った。


 屋敷に戻る車内。

 極上の酒と寿司に酔い潰れた泉美を、一輝はお姫様抱っこで軽々と抱き上げた。


「絵美里、先に入ってろ。こいつを部屋まで運んでくる」


 階段を上がる一輝の背中を見送り、絵美里もまた、案内されるままに浴室へ向かった。


 用意された浴室は、もはや「風呂」という概念を超えた、大理石が贅沢に配されたプライベート・スパだった。十一月の冷えた身体を湯船に沈めると、絵美里はふと考える。

 自分を守ってくれるこの「お兄さん」は、一体どれだけの世界を背負っているのだろうか。


 湯気の中に浮かぶ、黄金色のセンチュリーと、一輝の優しい笑顔。

 絵美里はそっと瞳を閉じ、神龍寺という巨大な城の、心地よい静寂に身を委ねた。




湯上がり、絵美里は客室の大きな窓から青葉台の静かな夜景を眺めていた。神龍寺家の風呂は、まるで高級ホテルのスパのような広さで、身も心も浮き立つような心地よさでしたが、同時にこの屋敷の「重み」も肌で感じていました。


その時、ドアが軽く二回ノックされ、返事をする間もなく一人の女性が入ってきました。


「……まだ起きてたんだ」


先ほどまで酔い潰れていたはずの泉美でした。湯上がりなのか、髪を無造作に拭きながら、シルクのガウンを羽織っています。カウンターで見た時よりもずっと、その瞳には鋭い知性が宿っていました。


「泉美さん。お酒、もう大丈夫なんですか?」

「あんなの、喉を湿らせただけ。……ねえ、一輝お兄ちゃんのこと、どう思ってる?」


泉美は絵美里のベッドの端に腰を下ろし、どこか遠くを見るような目をしました。


「お兄ちゃんが、どうしてあんなに『完成された人間』に見えるか、不思議に思ったことない?」

「……はい。何でもできて、凄く強くて。でも、時々少しだけ、寂しそうな顔をする気がして」


絵美里の言葉に、泉美は自嘲気味に口角を上げました。


「それはね、彼が一度、自分を完全に捨てたからだよ。……一輝お兄ちゃんには、大学卒業後に結婚するはずだった婚約者がいたの。優樹菜さんっていう、本当に綺麗な人」

「婚約者……」

「でも、彼女は式の直前に投身自殺をした。理由は今も誰も知らない。お兄ちゃんは壊れたわ。自暴自棄になって、遺産も地位も全部捨てて、たった一人でヨーロッパへ飛んだ」


泉美はガウンのポケットから細い煙草を取り出そうとして、絵美里の顔を見て思い直し、指先で弄ぶだけに留めました。


「そこからの十数年。彼が何をしてきたか知ってる? 私が『泉ブランド』を立ち上げられたのは、彼がいたからなの。彼が世界中の紛争地や裏社会を渡り歩いて、傭兵として、時には暗殺拳の門下生として、あるいは軍の教官やボディガードとして稼いだ血塗られた資金が、私のブランドの資本金になった。彼は使い走りも、料理人も、何でもやったわ」


絵美里は息を呑みました。一輝のあの中東やアジアを放浪したという話の裏には、想像を絶する硝煙と血の匂いが立ち込めていたのです。


「お兄ちゃんが料理が上手いのは、戦場で誰かに振る舞うためじゃない。生き延びるために、現地の厨房に潜り込んで身を守る術だったのよ。今のあのお兄ちゃんは、一度死んだ男が、地獄を一周して戻ってきた姿なの」


「どうして……私にそんな話を?」


絵美里の問いに、泉美はふいにお姉さんのような優しい顔を見せました。


「一輝お兄ちゃんが、誰かのために自ら『金バッジ』を使い、ここまで必死に守ろうとするのは、優樹菜さんが死んで以来初めてだからよ。……絵美里ちゃん。あのお兄ちゃんを、もう一度この世界に繋ぎ止めておいて。彼、放っておくとまたどこか遠い、死に近い場所へ行っちゃいそうだから」


泉美はそれだけ言うと、ふらりと立ち上がり、部屋を出ようとしました。


「おやすみ。明日は、私の秘蔵の服を一着あげる。アンジェラに負けないくらい、無敵になれる服をね」


ドアが閉まった後、絵美里は一人、一輝が淹れてくれた温かな紅茶の余韻の中に座り込んでいました。窓の外で鳴る冬の風の音が、一輝が見てきた荒野の咆哮のように聞こえた気がしました。



この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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