十一月の凍てつく夜に
十一月下旬。東京の夜は、コートの襟を立てたくなるような湿った冷気に包まれていた。
一輝が絵美里のマンションの居間に足を踏み入れた瞬間、まず鼻を突いたのは、安っぽい芳香剤と使い古された油、そして大麻の甘ったるい残臭が混じり合った、吐き気を催すような澱んだ空気だった。
「……絵美里。君のパパはここを高級マンションとして買ったはずだが、いつから『冬眠し損ねた野良猫の集会場』になったんだ?」
一輝は顔をしかめ、脱ぎ捨てられたブランド物のジャケットを爪先でどかした。床には空のビール缶が転がり、テーブルには食べ残しのピザが、冷え切ってカピカピに干からびている。
その中心で、高校生らしき男女四人が、互いの体温で暖を取るように折り重なって高い鼾をかいていた。
「う……ん、お代わり……」
寝言をほざく少年の顔を、一輝は冷ややかな目で見下ろした。
「絵美里、ゴミ袋を三枚持ってこい。分別は不要だ。中身はすべて『粗大ゴミ』だからな」
一輝は手際よく窓を全開にした。十一月の鋭い夜風が室内へ乱入し、澱んだ空気を一気に凍り付かせる。
「ひえっ!? さ、寒い……」
寒さに身を震わせ、ようやく目を覚ました若者たちの襟首を、一輝は左右の手で一人ずつ掴み上げた。まるで冬場の重いコートをクローゼットへ片付けるような手軽さで、彼らを次々と玄関の外へ運び出す。
「おい、起きろ。不法占拠の時間は終了だ。土曜の夜なら、自分の家の布団で寝るんだな」
「あ……? んだよ、おっさん……」
寝ぼけ眼で悪態をつく少年の耳元で、一輝は極上の笑顔を浮かべ、指の関節をポキリと鳴らした。
「おっさんじゃない。清掃業者だ。……不燃ゴミとして出されたくなければ、自力で歩け」
一輝の背後から漂う、冗談では済まされない「本物の殺気」に、四人は一瞬で酔いを飛ばして震え上がった。廊下に投げ出された自分たちの荷物(という名のゴミ袋)を抱え、半泣きでエレベーターへと逃げ込んでいった。
さて、ここからが一輝の本領発揮だ。
窓を閉め、床に落ちた吸い殻やゴミを掃除機で吸い上げ、フローリングをピカピカに拭き上げる。かつて二十代の頃、日本を飛び出し、中東の砂漠やアジアの裏路地で「働かなければ食えなかった」時代のスキルだ。どんな過酷な環境でも、一輝はまず自分の居場所を清潔に保つことで生き抜いてきた。
一輝が仕上げにキッチンを片付けていると、背後から湿った温かい気配がした。
「……お兄さん、お疲れ様」
振り返ると、そこにはバスタオル一枚を巻いた絵美里が、湯気に包まれて立っていた。冷え切った夜気とは対照的な、上気した肌が照明の下で艶かしく光る。
「どう? 寒空の下で頑張ったご褒美に、私を食べてみる?」
彼女はいたずらっぽく笑い、バスタオルの合わせ目を、指先で危ういほど緩めてみせた。
「残念ながら、俺のメニューに『未成年』は載ってないんだ。腹を壊したくないからな」
一輝は視線一つ動かさず、手元のフライパンを振った。
「そんな格好でうろちょろしてると、カルボナーラのソースが跳ねるぞ。さっさと着替えてこい。それとも、俺がパジャマを着せてやろうか?」
「……お兄さんの意地悪! 鉄の心臓ね!」
絵美里は頬を膨らませ、床を力一杯踏み鳴らして自室へ戻っていった。
数分後、シルクのパジャマに身を包んだ彼女が戻ってくると、テーブルには本格的な香りを漂わせるパスタが並んでいた。
「うわあ……すごい。お店の匂い!」
「冷蔵庫に玲子さんが揃えてくれていた食材は、あいつらに食い散らかされていたからな。残った卵とチーズ、それにベーコン代わりの高級ハムでカルボナーラにした。味はどうだ?」
絵美里はフォークを手に取り、幸せそうに頬張った。
「美味しい……! お兄さん、本当に何でもできるんだね。……でも、そんなに苦労してまでアルバイトしなきゃいけなかったの?」
「神龍寺の看板を捨てて一歩日本を出れば、ただの東洋人だからな。傭兵から、皿洗いから砂漠の運送屋、中国では路店の料理人までやった。……おかげで、君のパパとも上海の裏路地で知り合えたわけだが。五年ほど前の話だ」
一輝は懐かしむように、コップの水をワインのように傾けた。
食事を終え、絵美里が父親と電話で「クリスマスからは一緒に住める」という約束を交わした頃、ようやく室内の空気は温まっていた。
「お兄さん、ありがとう。……もう一人のママになる人、玲子さんにもちゃんとお礼を言うね」
「ああ、それがいい」
一輝は「風呂を借りるぞ」と言い残し、脱衣所へ向かった。
一人残された居間で、絵美里は椅子から立ち上がり、大きく伸びをした。シルクのパジャマ越しに、十七歳とは思えないほど発育の良い双丘のラインが露わになり、トップにはツンとチェリーが存在を主張する。彼女は満足げに微笑むと、自分の部屋へと消えた。
その頃、エレベーターで地上へ降りた四人は、冷たい十一月の風に吹かれながら憎悪を募らせていた。
「クソ……何しやがんだあのオヤジ」
「学校で〆てやる。……澤田さんに頼んで、あのオヤジもボコボコにしてやるわよ」
「慰謝料、たんまり請求してやろうぜ」
土曜の深夜、人影のまばらな住宅街に、下劣な笑い声が響き渡った。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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