金曜日のレモネード ― 刻まれた喪失と、琥珀色の晩餐
11月4日、17時過ぎ。
六本木の会長室に、量子コンピュータ搬入の報告を持って雅美が入ってきた。一輝はウルフツイストの髪を指で解きながら、数十枚の書類に目を通していく。
「もうこんな時間か。雅美、食事に行こう。今日は俺の奢りだ」
「……ありがとうございます。お供いたしますわ」
雅美がカーキ色チェックフリルピンタックブラウスにブラックポリレーヨンイージーワイドスラックスパンツにベージュピンク色のプラダ Re-Edition 2005 サフィアーノレザー バッグ。
着替えて現れた姿を見て、一輝はふと、五年前のあの日を思い出していた。
五年前。新宿の喧騒の奥。
帰国して間もない一輝は、親友・龍一に連れられ、場違いなキャバレーにいた。そこで出会ったのが、新人ホステスの「エミ」こと、雅美だった。
「私、お酒に弱くて……これしか飲めないんです」
彼女が差し出したのは、『金曜日のレモネード』。場違いに純粋なその飲み物と、生活費を稼ぐために東京外大での学びを隠して働く彼女の健気さに、一輝は数年ぶりに心が凪ぐのを感じた。
だが、その静寂は隣席のフランス人グループによって無残に引き裂かれた。
言葉の通じないことをいいことに放たれる、卑劣なフランス語のスラング。外大生の雅美がそれを指摘した時、事態は急転する。逆上した男が取り出したのは、軍用CACフォールディングナイフ。
龍一の部下たちが応戦する中、男は雅美を盾にし、逃際――その刃で、彼女の胸と腹を深く抉った。
「雅美……ッ!!」
崩れ落ちる彼女。床に広がる紅い海。その光景が、一輝の脳裏で「投身自殺した優樹菜」の最期の姿と重なり、火花を散らした。
一輝は迷わず自分の衣服を裂き、戦場で培った止血技術を駆使して彼女の傷口を圧迫した。救急車の中で彼女の手を握り続けた一輝の瞳は、かつての絶望と、今度こそは失わないという狂気的なまでの決意に満ちていた。
三時間に及ぶ緊急手術。肝臓の切除だけでは済まなかった。雅美を盾にしたナイフは、彼女の腹部深く、子宮をも修復不能なまでに傷つけていたのだ。
「一輝様……。私、もう……子供は、産めないのですね」
麻酔から覚めた雅美が、震える声でその事実を突きつけられた時の絶望。一輝はその細い手を、潰れそうなほど強く握りしめることしかできなかった。
「俺が、君の人生のすべてを引き受ける。……だから、泣かないでくれ」
数日後、特別個室で目を覚ました雅美の前に、一輝は妹の泉美を伴って現れた。
「驚いたよ、お兄ちゃん。……優樹菜お姉ちゃんに、そっくりだね」
泉美の呟きに、一輝は無言で花瓶の水を替えた。
「どうして、私なんかのためにここまで……」
震える声で問う雅美に、一輝は一瞬だけ、遠く、死よりも暗い場所を見つめる目をした。
「……助けられなかった大切な人に、君が似ていたからだ」
雅美が孤独な身の上であることを知った一輝は、自らアパートへ向かい、入院道具を揃えた。その日から、一輝と雅美の主従を超えた「共生」が始まったのだ。雅美にとって一輝は命の恩人であり、一輝にとって雅美は、過去の罪悪感を埋めるための唯一の「聖域」となった。
一輝にとって、それは贖罪だった。かつて投身自殺で失った婚約者・優樹菜。そして、自分の目の前で女としての未来を奪われた雅美。二人の女性の悲劇が一輝の中で重なり、彼は雅美を、自分の命に代えても守り抜く「唯一の半身」と定めたのだ。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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