深夜の設計図、あるいは異世界のカフェ・プロジェクト
リーゼロッテがようやく帰り、離宮に静寂が戻った。シオンは自室の机に向かい、羽ペンを走らせる。本日の「最速の実技試験」や「リーゼや三女アイリスとの茶会」の余韻など、今の彼には設計図を描くための心地よいノイズに過ぎない。
「……ふむ。ついに機は熟した。あの空き地を、ただの遊び場から『因果の安息地』へとデバッグする時だ。……ふふ。今の俺、白紙の上に新世界を創造する『孤独な創世神』って風格だな」
シオンは手帳に詳細なレイアウトを書き込み始めた。
まず、空き地の大部分を占めるのは、【野菜・薬草畑】だ。単なる食料生産の場ではない。因果操作を微かに介入させた土壌で、見たこともないほど瑞々しい野菜や、夜になると淡く発光する幻想的な薬草を育てる。
「……大地のエネルギー(バグ)を濃縮した野菜。それを食べた者は、一瞬だけ世界の真理に触れることができる……。よし、設定は完璧だ」
そしてその一角に建てるのは、【木造の可愛いカフェ小屋】。あえて宮殿のような豪華さではなく、温もりのある木材を使い、蔦や花が壁を這うようなデザインにする。
「……屋外には、花々に囲まれたテラス席を配置。客は、光る薬草の微かな輝きを照明代わりに、私の綴ったポエム……いや、至高のランチを堪能するのだ」
シオンは、光る薬草が揺れる中、子供たちが収穫を手伝い、リーゼが呆れながらも紅茶を楽しみ、アイリス姉上が黙々と読書をする光景を思い描き、満足げに筆を置いた。
「……よし。この設計図、まさに『世界の中心で愛を叫ぶ聖域』。……明日はこのイメージを現実の座標(空き地)へと出力しに行こう。……今の俺、夢の続きを現実で見る、最強のドリーマーだな」
心地よい高揚感の中、シオンはベッドに潜り込んだ。夢の中でも、彼は自分のカフェで、誰よりも高い椅子に座り、世界で一番甘いポエムを詠い続けていた。




