不登校の美学、あるいは午前の静寂(ティータイム)
昨夜の夜会での大騒動など、まるで遠い星の出来事であったかのように。
一限目の鐘が鳴り響く学園。本来ならFクラスの生徒として「魔力学」の講義に出席していなければならない時間、シオンは一人、誰もいない学生食堂のテラス席にいた。
「……ふむ。喧騒が去った後の食堂。ここは世界の余白が最も純粋に結晶化する場所だ。……ふふ。今の俺、システム(授業)から解脱した真の自由人って風格だな」
シオンは一切の罪悪感を見せることなく、優雅な手つきでティーカップを傾ける。
彼が注文したのは、この食堂で最も高価な「王室御用達ブレンド」。教師たちが声を荒らげて講義をしている間、彼はただ一人、朝の柔らかな光の中でポエムを紡いでいた。
『白き羊たちが教壇の檻に閉じ込められている間、私は紅茶の蒸気の中に銀河を見出す。……単位とは、私の魂を縛るにはあまりに脆弱な鎖だ』
「……殿下、またサボりですか。さすがに一限目から姿を消すと、リーゼロッテ様が怒髪天を突く勢いで探し回りますよ」
声をかけてきたのは、シオンに心酔し、いつの間にか「影の従者」を自称し始めたFクラスのテオだった。彼はシオンに命じられたわけでもないのに、どこからか最高級のスコーンを調達してきていた。
「……テオか。君も、私と共にこの贅沢な『無駄』を享受しに来たのかい? 授業という名のスクリプトを無視してこそ、物語は輝きを増すというものだ」
「は、はあ……。さすが殿下。サボることを『スクリプトの無視』と表現するその感性、痺れます!」
テオは感動しながらスコーンを供する。シオンは満足げに頷き、一口。
「……ふむ。このスコーンのサクサク感……。これは私の思考のパズルを完成させる、最後のピース(欠片)だ。……よし。今の俺、完全に『隠居生活を楽しむ伝説の英雄』そのものだな」
その後ろめたさの欠片もない堂々とした振る舞いに、通りかかった教師たちも「あ、あの王子はもう……異次元に住んでいる……」と目を逸らして通り過ぎていく。
だが、その平和な静寂を切り裂く、聞き覚えのある鋭い足音が響いた。
「シオン・ル・ロゴス!! あなた、こんなところで何やってるのよ!!」
テラスの入り口に、仁王立ちするリーゼロッテ。その背後には、怒りで見えない炎が揺らめいている。
「……やあ、リーゼ。君の登場はいつも、私の朝の旋律に刺激的なスパイス(毒)を加えてくれるね。……どうだい、君もこの『理』から解き放たれた紅茶を一杯。……ふふ。今の俺、激怒する婚約者をスマートにいなす余裕の伴侶」
「いなされてないわよ! 早く教室に来なさい、このポエム王子!!」
シオンは引きずられるようにして連行されたが、その表情はどこまでも晴れやかだった。
「自由とは、奪われる瞬間に最も美しく輝く……。ああ、今の台詞、手帳に書かなきゃ」




