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異国の目、あるいは隠された光の幻影

魔法実技の授業後、Fクラスの生徒たちはシオンの「無の演武」に謎の感動と混乱を抱きながらも、どこか誇らしげに食堂へと向かっていった。

そんな喧騒をよそに、シオンはいつものように王宮図書館、いや、学園の大図書館へと足を運んでいた。

「……ふむ。魔力という名の『表紙』に囚われ、真の『内容』を読み解けぬ者ばかりか。この図書館の空気は、私の思索ポエムには丁度良い重厚さだ」

シオンは最奥の誰もいない書架の陰に潜り込み、禁書区画の結界(因果)をデバッグするための資料を捲っていた。

「……そちらの方。もしや、帝国第四王子シオン・ル・ロゴス殿下では?」

柔らかな、しかし芯の強い声が響いた。

シオンが顔を上げると、そこに立っていたのは、他国からの留学生。隣国アストラル皇国の第三皇女、イリス・アストラルだ。

銀の髪にアメジスト色の瞳を持つ彼女は、学園でもAクラスのトップに君臨する才女として名高い。

「……おや。私のような『余白』を、君はわざわざ読み解こうというのかい? 君の好奇心は、時に退屈な真実リアルと出会うかもしれないぞ」

シオンはいつものキザなポーズで応じるが、イリスはどこか見透かすような視線でシオンを見つめていた。

「昨日の魔法実技、拝見させていただきましたわ。貴方様の『無の境地』……あれは、凡庸な魔力使いには決して辿り着けない、ある種の『完成された魔法』に見えましたけれど?」

「……フッ。君の瞳は、時に幻影イリュージョンすらも真実と錯覚させるのか。私はただ、無意味な火遊びに興味がなかっただけのことだ」

シオンは不敵に微笑むが、内心では(まずい。この女、かなり勘がいいな。まさか、因果操作の片鱗に気づいているとでも言うのか……?)と警戒心を高めていた。

「幻影、ですか。ですが、あの時、貴方様が指を鳴らした瞬間……ほんの一瞬だけ、『時間』が止まったように感じた者が、私以外にもいたのですよ」

イリスは、シオンの足元に咲く小さな花を指差した。

その花は、わずかに震えている。シオンが能力を使った際の、微細な「因果の揺らぎ」が残っていたのだ。

(……くそ。この女、まさか植物の因果の残留思念ログを読み取ったとでも言うのか!?)

シオンは即座に「ロゴス」を動かした。

能力【因果の種:記憶の霧散メモリー・フォグ】。

彼はイリスの目をじっと見つめ、静かに、だが確信に満ちたポエムを詠む。

「……君の記憶は、時に『過去』という名の書物を、私の都合の良いように書き換える。……ほら、君の瞳の奥で、真実が霧散していくのが見えるだろう? ……ふふ。今の俺、完全に記憶を操作する怪盗って感じだったな」

イリスの瞳が、一瞬だけ揺らぎ、遠くを見つめるような表情になる。

そして、彼女は首を傾げた。

「……あれ? 私、何を話していましたかしら? なんだか、ぼんやりと……シオン殿下の『無』の魔法が、あまりに神々しかった、とでも言いたかったような……?」

「……そう。私の『無』は、君の魂に深く刻まれたというわけだ。……良きかな、良きかな」

シオンは安堵の息をつき、イリスの記憶から「シオンが因果操作をした」という具体的な情報を消し去った。

だが、イリスの心には、シオンの「謎めいた魅力」だけが強く残されたようだった。

「……ええ。貴方様の『無』は、私の知的好奇心を大いに刺激します。ぜひ、これからも貴方様の『思想』について、お話を伺わせていただけないでしょうか?」

「……気が向いたら、私のポエムの余白を少しだけ分け与えてやろう。……ふふ。今の俺、最高の知的な駆け引きだったな。後で裏手帳に書いておこう」

シオンは危ない橋を渡り終え、一人ご満悦だった。

しかし、イリスは図書館を去る際、再び小さな花を一瞥し、そして微かに微笑んだ。

彼女の記憶からは具体的な因果操作の情景は消えていたが、彼女の直感は、シオンが「ただの無能」ではないことを確信していた。

(……シオン殿下。私の『探求心』は消えませんわ。貴方様という『書物』の真実を、必ず解き明かしてみせますわ)

イリスの瞳の奥には、新たな「謎」への挑戦心が宿っていた。

シオンの隠蔽工作は、新たな好奇の火を灯してしまったようだった。

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