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底辺の王座、あるいは隔絶された美学

入学式を終え、Fクラスの教室に集まった生徒たちは、異様な緊張感に包まれていた。

このクラスはいわば「ゴミ捨て場」。家柄こそあっても魔力がない、あるいは素行に問題がある「落ちこぼれ」の溜まり場だ。本来なら、荒れた雰囲気になるはずだった。

だが、教室の最奥。窓際の席に座るシオンが放つオーラが、それを許さなかった。

「……ふむ。この埃っぽい空気。挫折という名のスパイスが効いていて、実に私好みだ。……ふふ。今の俺、荒野に降り立った孤高の賢者って感じだな」

シオンは流れるような動作で窓を開け、遠くの空を見つめてポエムを書き留めている。その所作の一つ一つが、宮廷の晩餐会よりも洗練されており、あまりに「王子様」すぎた。

「……なあ。どうするよ、あの距離感」

クラスメートの一人、ガラの悪い小貴族の次男坊が小声で囁く。

「普通、Fクラスに落とされた王子って、もっとこう……絶望してるとか、逆ギレしてるとかじゃん? なんであんなに『自分が選んでここに座ってます』みたいな顔してんだよ」

「話しかけるなオーラが凄すぎるわ……。見て、あのペン捌き。まるで世界の運命を書き換えてるみたいじゃない?」

女子生徒たちも、遠巻きにシオンを眺めてはヒソヒソと顔を見合わせている。

彼らにとってシオンは、同じ「落伍者」のはずなのに、自分たちとは決定的に何かが違う「異界の住人」に見えていた。

「……あ、あの……シオン殿下?」

勇気ある一人の男子生徒が、おずおずと声をかけた。

シオンはゆっくりと、まるでスローモーションのように顔を上げ、深い闇を湛えた瞳で彼を見つめた。

「……私を呼んだのは、君の魂の叫びか? それとも、ただの退屈しのぎという名の罪悪かな」

「えっ……あ、いや、その、隣の席、座ってもいいかなって……」

「……座るがいい。席とは、ただの物理的な配置ではない。君がそこに座ることで、私の孤独という名のキャンバスに、新たな『不確定要素』というドットが打たれるだけのことだ。……ふふ。今の俺、存在論を語るミステリアスな哲学者だったな」

「……は、はい。ありがとうございます……(なんだかよく分からないけど、座るだけで哲学的な許可が必要だったのか!?)」

男子生徒は、まるで爆弾でも扱うかのように、細心の注意を払って椅子を引いた。

教室中の生徒たちが、その光景を固唾を飲んで見守る。

「……見たか? 今の殿下の言葉。一言も『いいよ』とは言ってないのに、圧倒的な許可感があったぞ」

「『不確定要素』……! 私たちのことを、そんな高尚な言葉で呼んでくださるなんて!」

戸惑いはいつの間にか、奇妙な「畏怖」と「感銘」へと変換され始めていた。

シオン自身は、ただキザな台詞を吐いて自分に酔いしれているだけなのだが、Fクラスの面々にとっては、シオンこそが「この絶望的なクラスに光を運ぶ、謎に満ちた救世主」のように見え始めたのである。

(……やれやれ。みんな私を見ているな。やはり、私の隠しきれない王のナルシシズムが、この場を支配してしまったか。……よし、この調子で『無害だがヤバい奴』という立ち位置を確立しよう)

シオンは満足げに手帳を閉じ、次の授業『初等魔法実技』に向けて、心の中でデバッグの準備を始めるのだった。

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