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落日の最下位、あるいは王座より高貴な椅子

聖エリュシオン魔導学院の入学式当日。

講堂は、煌びやかな制服に身を包んだ新入生たちの熱気と、選民意識に満ちた魔力の残香で満ちていた。

掲示板に張り出されたクラス分け。その一番端、誰もが見下し、蔑む『Fクラス(最低ランク)』。

そこには、帝国第四王子シオン・ル・ロゴスの名が刻まれていた。

「おい、見ろよ。本当にFクラスに王子様がいるぜ」

「魔力0なんて、平民以下の粗大ゴミじゃないか。王家の面汚しもいいところだ」

周囲の冷ややかな視線と嘲笑。だが、そこに立つシオンには、屈辱の色など微塵もなかった。

「……ふむ。Fフェイクの称号か。真実は常に、最も低い場所にこそ隠されている。……今の俺、逆境を愛する高潔な求道者って感じでゾクゾクするな」

シオンは喧騒を無視し、Fクラスの最前列、本来なら「恥さらし」が座るべき席へ向かった。

しかし、彼がそこに腰を下ろした瞬間、その場所は王宮の謁見の間に等しい威厳に包まれた。

彼は持参したシルクのハンカチで椅子を一拭きすると、足を組み、顎を手に乗せて、まるでチェス盤を見下ろす王のような所作で座ったのだ。

「……やれやれ。この椅子は、少しばかり知性が欠乏しているようだ。私の思索ポエムを支えるには、少々重厚さが足りない」

シオンは手帳を開き、周囲の視線など存在しないかのようにペンを走らせる。

『白き制服に身を包んだ羊たちが、魔力という幻影を追って鳴いている。私はただ、その羊飼いすらもデバッグする沈黙の支配者でありたい』

「シオン、また世界に入り込んでるわね」

隣の席(本来ならAクラスであるはずだが、無理やり席を移動してきた)に座ったリーゼロッテが、呆れたように、しかし周囲を牽制するように睨みを利かせる。

「……あ、やあリーゼ。このクラスの空気は、不純物が少なくて心地よい。私の孤独が、より研ぎ澄まされていくのを感じるよ」

「……ただの落ちこぼれクラスだって言ってるのよ。ほら、前を見て。お兄様……第一王子がこっちを見てるわよ。最高に嫌味な顔をして」

講堂の檀上、特待生席に座る第一王子カイルが、シオンを指さして側近たちと爆笑していた。

「おい見ろ! あの無能王子、Fクラスの席を王座だと勘違いしているぞ! 滑稽すぎて涙が出るな!」

カイルの魔力が、威圧するようにシオンへ向けられる。

だが、シオンは手帳から目を離すことなく、指先でふわりと空を切った。

能力【因果の種:沈黙の舞台幕サイレント・カーテン】。

「……ノイズが、私の美しい余白を汚そうとしている。……退場ログアウトの時間ですよ、兄上」

シオンが独り言のようにポエムを詠むと、カイルの放った魔力の威圧は、シオンに届く直前で「ただの生温い風」へと書き換えられた。それどころか、カイルが座っていた豪華な椅子の脚が、因果の歪みによって「最初からヒビが入っていた」という『結果』へと修正される。

バキィッ!!

「うわああああっ!?」

全生徒の注目が集まる中、第一王子は盛大に椅子から転げ落ち、尻餅をついた。

静まり返る講堂。

「……フッ。高く登る者ほど、重力の愛に抗えない。……ふふ。今の台詞、完全に世界の心理を突いてたな。後でFクラス1ページ目に書いておこう」

シオンは何事もなかったかのように、優雅に脚を組み替えた。

周囲の嘲笑は、いつの間にか「……あいつ、何をした?」という戸惑いと、その異常なまでの堂々とした振る舞いへの畏怖へと変わり始めていた。

Fクラスに君臨する、最底辺の支配者。

シオン・ル・ロゴスの学園生活は、最高にクール(で勘違いに満ちた)な滑り出しを見せるのだった。

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