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老魔導師の回心、あるいは想定外の貢ぎ物

翌朝。シオンの離宮には、帝国の魔法体系を束ねる頂点、筆頭魔導師長ゼノスが控えていた。

昨夜の「黒衣の詩人」の正体が第四王子だと突き止めた彼は、王宮の儀礼を無視してシオンの足元に跪いている。

「シオン殿下……! 愚かな私は、貴方様の真価を見誤っておりました。あの時、孫娘を救い、花を咲かせたあの『言霊』……あれこそが、魔力という器を超越した真の魔法ロゴス!」

「……やれやれ。老兵よ、頭を上げたまえ。私はただ、夜の静寂を乱すノイズをデバッグしたに過ぎない。……ふふ。今の俺、完全に隠居した伝説の師匠って感じだな」

シオンはいつものようにキザなポーズで紅茶を啜るが、ゼノスの熱量はシオンの想定を遥かに越えていた。

「いいえ! 貴方様こそが、我が人生の指標ガイド! 私は決めましたぞ。これより我が一族、そして魔導師ギルドは、シオン殿下個人に忠誠を誓います!」

「……いや、それはさすがに国家反逆の匂い(フレイバー)が強すぎるのでは?」

「何を仰る! これしきの誠意では足りぬほどです。……そこで殿下。我が愛娘のミレーヌを、ぜひ貴方様の側室……いえ、まずは身の回りの世話を焼く侍女として、傍に置いてはいただけぬでしょうか!」

ゼノスの後ろで、一人の美しい少女が顔を赤らめて会釈した。昨夜助けた少女の母親、つまり魔導師長の娘であり、帝国でも名の知れた才女である。

「ミレーヌも『あの気高くも哀愁漂う詩人様なら、命を賭して支えたい』と申しておりまして。……さあミレーヌ、殿下の靴を磨く許可を頂くのだ!」

「殿下……。昨夜、娘を救っていただいたお礼、この身を捧げてお返しいたしますわ」

シオンは噴き出しそうになる紅茶を、必死の思いで飲み込んだ。

(……待て、待て待て。助けたのは子供だったはずだが、なぜ母親(未亡人の才女)までセットで付いてくる!? しかもこの魔導師長、完全に私を『魔力を捨てて真理に到達した聖者』だと思い込んでやがる……!)

「……ゼノス、君の提案は甘美な誘惑だ。だが、私の隣には、すでに運命という名のリーゼロッテが巻き付いていてね。……これ以上、私の孤独な宇宙に人を招き入れるスペースはない」

「おお……! 『運命の鎖』! なんという詩的表現……! 婚約者様への義理を通しつつ、我らを突き放さぬその配慮! ますます惚れ込みましたぞ!」

「(話を聞けよ……!)」

シオンが内心で頭を抱えていると、扉が凄まじい勢いで蹴破られた。

「シオン!! ちょーっと目を離した隙に、また不純な因果を蒔いているようね!?」

そこには、殺気という名のオーラを全身から噴き出すリーゼロッテが立っていた。彼女の目には、明らかに「泥棒猫(とその父親)を駆除する」という強い決意が宿っている。

「……あ、やあリーゼ。因果の連鎖は時に、私の意図を超えて複雑に絡み合うようで……」

「言い訳は墓場でポエムにしてから聞きなさい! 筆頭魔導師長ともあろうお方が、殿下をたぶらかすなんて、公爵家が許しませんわよ!」

「ほほう、これは公爵令嬢。殿下の『言霊』の深淵を理解できぬ者に、殿下の隣に立つ資格があるかな?」

シオンの離宮は、一瞬にして帝国最高峰の権力闘争(と痴話喧嘩)の爆心地と化した。

(……やれやれ。人気者は辛いな。だが、この混沌とした状況こそ、私の物語には相応しい背景バックグラウンドだ。……ふふ。修羅場の中心で、一人クールに茶を飲む俺。……最高にハードボイルドだぜ)

シオンはガクガク震える手で、必死にティーカップを持ち直し、最高に格好良いポーズを維持し続けるのだった。

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