表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第一章 怪物の邂逅

 元はマッサージ師だった。夏なら限界まで冷房を抑える。冬なら逆に限界まで暖房を焚きこむ。つまり、常に“暖かい部屋である”ということが絶対条件。それはそうだろう、施術客は裸に申し訳程度の紙製の下着しかつけていない。マッサージ自体は嫌いではなかったし、割と腕が良いと言ってリピートしてくれるお客も少なくはなかった。それはありがたかった。ただ、経営するにあたってはもっと固定客が欲しかった。腕はあっても宣伝力のない職人気質。困ったものだ。

そんなさなかに一人の客が舞い込んできたのである。見た目は三十代前半の私よりは若いだろう。二十代後半といったところだろうか。脚をはじめ、下半身を重点的にお願いしたいという希望だった。言うだけあって、彼の身体は異常なほど下半身のリンパが詰まっていて、乳酸が溜まっていた。

「なにか……相当な肉体労働でもされているんですか?」

思わずそう聞いた。肩や背中より下半身を、と言ってくるのは現代人というにしては珍しい。

「ああ、分かりますか。俺ね、配達員なんです」

 二秒ほど遅れて返ってくる眠たげな声のトーン。顔が見えなくても分かる。そのリラックス感。重たい荷物を持ち上げ、運び、また車に乗って……苦労は計り知れない。

「でも、意外と背中と肩も疲れていますよ」

厚みのある胸板と身長にしては広い肩幅。指を受け入れてもらえないほどそれはカチコチに固まっていた。

「そう? ああ、気にしてなかったけど……確かに……やってもらうとちょっと楽かも……」


 そして施術後。全身のオイルを蒸しタオルで拭き上げ、デトックス作用のあるお茶を出す。

「うーん……なんか体が軽くなったわ」

体と同様に当初より柔らかくなった表情と、素直に自分の疲れを認めた彼に少し安心感が出る。そこで聞いてみた。

「そのキャップ取らないんですか?」

水泳の時にかぶるような、そのヘルメットを着ける前にかぶる薄手のキャップを見てそう言った。

「うん。これはね、これでいいの」

変わった人もいるもんだなと思ったのだ。この時は。

その後、未曾有のパンデミックに襲われ、マッサージ師自体を辞めることになること。そしてそのキャップの男——大狼 遥人(おおがみはると)と同棲することになること、新たな仕事に雀荘メンバーを選ぶことなど、このときは予想できるわけもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ