エピローグ
クリスマス。街はそこかしこが派手なイルミネーションで彩られ、大小様々なクリスマスツリーが至る場所に飾られたり、設置されたりしている。どこからともなく聞こえてくる明るいクリスマスソング。そんな中でも雀荘はいつも通りに営業していた。
社員の才羽が珍しそうに社長に声をかける。
「あれ? 今日は舞奈さんがいないんですね」
毎年クリスマスは店が忙しいし、自分は暇だからと言って出勤を欠かさなかったため、今日も出勤していると思ったらしい。すると、妙にウキウキとした口調で社長が才羽に教えている。
「それがねー、舞奈ちゃん、今年は彼とデートなんだってさ! 俺あーんなどこも連れて行ってあげないダメな男なんか何が良くて付き合ってんのかわかんなかったけどさ、彼がようやく休みが取れたんだって。あんな綺麗な子、優しくしてあげなきゃ他の男に取られるよ。いやー良かった良かった、彼も仕事ばっかしてないでちゃんとこうしてどこかに連れてってあげてるみたいで」
自分のことのように嬉しそうに社長は続ける。
「どこに行ってるのかなー。イルミネーション見て、ブランド物買ってもらって、高級ディナーとかかな? 彼なんだかんだで高給取りっぽいし。普段遊んであげない分舞奈ちゃんにそれくらいしてあげないとだよねぇ」
「いや、中山競馬場だってさ」
不意に横から声がかけられる。漆伊座だ。続いて鵤の低い声がする。
「そういや今日有馬記念ですね」下げてきた灰皿を洗いながら鵤が言う。
「へ? 競馬場?」あまりにも予想外の返答だったのだろう。社長も才羽も鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
灰皿を交換し終えた漆伊座が一口、アイスティを飲みながら答える。
「それがあいつらなりの幸せなんじゃないですか? あいつららしいや」
ライトアップされた中山競馬場。遥人はオレンジジュース、舞奈はビールを片手にパドックで歩き回る馬たちを眺めていた。
「なかなか……ないよねこういうデートも」「デートとしてはあまりないでしょうね」
熱狂する観客たちと少し離れた場所で、二人とも座ってゴール板を駆け抜ける馬を見つめる。
「取ったわ」ビールを一口。
「え? あれ十一番人気じゃん」驚いた顔で遥人が見つめてくる。
「いや……勘でしかないけど、なんかアレ来そうな気がした」
勝ち星を挙げた黒鹿毛の馬は、誇らしげに優勝レイを首から下げていた。
思ったより配当が高かったせいで、結構な金額になってしまった。
「これで新しいリール買っていい?」茶目っ気のある弾む声をあげながら遥人は車のエンジンをかける。
「ダメだ。貯金に回す」車で煙草に火を点けながら舞奈はきっぱり断言する。
「夢ないなぁあなたは」「堅実と言ってちょうだい」
宝石箱をひっくり返したようなキラキラ輝く街を、遥人の軽自動車が風を切る。
「あなたこそ、いい車が欲しいとかないの?」舞奈はビールを飲み干して言った。
「俺、男だけどあんまりスポーツカーとか興味ないんだよね」遥人も煙草に火を点ける。
「ま、私も女だけどブランド物とか宝石とか、ディズニーランドとか興味ないのよね」ふうっと息をついて流れる街並みを見つめる。
二人だけの幸せ。それを知るのはもちろん、二人だけだった。
車の中、三日月とコウモリが、淡く光を放って揺れていた。




