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プロローグ
満月。雲に見え隠れして大きな満月はその美しい姿を露わにしたり隠したり、気ままに姿をさらす。
そんな月明かりの光が窓のレースのカーテン越しに室内に入る夜。照明は全て落としているにも関わらず、それなりに、朧げに輪郭は分かる程度の緩やかな空間で、一人で私はゆったりとお酒を飲む。酔いたいわけじゃない。お酒においていうなれば、その“酔う”という感覚だけは非常に要らないと思っている。ビールとトマトジュースが一対一。その真っ赤なお酒を飲みたい、ただそれだけの理由。ねえ、あなたはもう寝ているかな? 今日もきっと働きづめだっただろう。家に帰ってくる時間すら睡眠に充てたいくらいに疲れ切ったその体。帰ってきてよ、寂しいじゃない。それは本音。でも無理しないで。まずゆっくり休んでよ。それも本音。あなたはお酒を窘めないからせめて。あなたの代わりに満月に相手してもらってもいいよね。美しい。でも何も言わない。今日はそれでいい。
ビアグラスに入った真っ赤なお酒は、暗闇でもわかるほど重厚な存在を放つ。それを一口ずつ、ゆっくりと体に収めていく。これで多少ざわつく心は、少しずつ大人しく安寧を取り戻していく。あなたがいないことで出来上がるこの時間は、あなたの存在があるからできるのだ。




