別の現実~ドロイド~
ドロイド視点です。
俺の住んでいる国は変わってる。
海に囲まれた小さな島国で、そこに棲む人々は俺が言うのもなんだけど一般的なものとは程遠いと思う。
幼い頃はそれが当たり前だった。疑問にすら思わなかったが世界を知る事で自分達がいかに不思議な生き物だと言う事を知った。
俺の名前はドロイド・フロカーズ。
俺は実家を出て1人暮らしをしている。因みに仕事は漁師。
漁師の仕事は船に乗って海に出て魚を獲る。だが、今日の天候は大雨。しかも風が強い。その影響で波は荒れている。たださえ1人用の小船でこの海の中を出るのは素人でも分かる程の危険。その為仕事は休みだ。お気に入りのソファーに座ってテレビを見ていたら電話がかかってきた。
『やぁ! 麗しの弟よ!! 薔薇より華麗で宝石よりも輝いてる素敵な素敵な素敵なお兄様だよ!!』
受話器から思わず耳を塞ぎたくなるようなハイテンションな声が聞こえた。
「――― 切って良いか?」
電話の相手は俺のクソ兄貴からだった。他人から言わせると‘腰が抜けるほどの甘い声’らしい。身内の俺から言わせれば迷惑な声だ。しかも余計な言葉が多すぎて会話をするのが非常に疲れる。
うぜぇぇぇぇっ!!!
『はっはっは! 面白い冗談だね? この麗しくって可憐な声を聞きたく…』
冗談じゃねーから。
ヤローの声聞いて麗しいなんて思うわけがない。
「用件を言え」
はっきり言ってウザイ。
会話をするのも疲れる。
『もう、せっかちだなベイベー! 今日素敵な贈り物が届くから受け取るんだぞ!』
「いらねぇ!!」
思わず叫んだ。
実家から出て、1人暮らしをしている所為か時々兄貴からの贈り物が届く。この部屋の窓から見える巨大な金色や青色の色をした薔薇は兄貴からの贈り物だったりする。
…男の1人暮らしに薔薇を贈るのは嫌がらせかよっ!!!
と、当時は思った。だが、本人は俺が喜ぶと思って送ったことを後で知った。
…アホだ。
しかもこれ、でかい上に臭い。
受け取った瞬間、あまりの臭さに俺は近くの窓から投げ捨てた。それで終わりだったはずなんだが…。
数日後、害虫すらも殺す臭いを放つ薔薇は兄貴の手で植えられた。
「流石だね僕の弟。部屋に飾るよりも庭に植えたほうがいいね!…だけど、植え方が甘かったから直しといたよ♪」
と言って…。
よけいなおせわじゃぁぁぁぁぁぁっ!!!
以来この窓は二度と開く事は無い。開かずの窓。
『何を遠慮するんだ?』
遠慮してねぇー!!
ぽんっ!
小さな音がすると、目の前に黒い封筒が現れた。床に落ちる前に、受話器を持っていない方の手で慌てて掴んだ。
送られた贈り物。
言葉が通じない身内は本当に嫌だ…。
「…」
どうやって送られたかというと超能力と言われるもの。
ひいたな?
言っとくけどこの国ではそれは当たり前の力だからな。
子供から年寄りまで当たり前のように使っている力。
スプーン曲げとか透視をする手品のような力。だが、種も仕掛けもない。
「黒??」
手元の封筒を見ると封筒の色は黒だった。
『喜ぶがいい!! シュファーナ家からの郵便物だぞ』
「はぁぁぁぁぁ??」
シュファーナ家はこの国を守る役目を持つ一族。その中で一番の力の持ち主を‘国主’と呼んでいる。分かりやすく言うなら王様と思えばいい。
王族の家からの手紙。
何でそんな所から郵便物が届くんだ?
「偽物じゃねーよな?」
『はっはっは。素晴しい冗談だね。流石、麗しい僕の弟だね! 神々しい黒の色はシュファーナ家の証!!! あぁ!! なんて言う美しさだ! 送り屋の仕事をして、初めて送ったよ!!』
興奮気味の兄。
兄の仕事は代々続く‘送り屋’と言う仕事。頼まれたモノを相手に送る宅配家業である。
力を使って相手にモノを送るので交通手段の難しい所にも届ける事が出来る。その代わり、事故防止に電話をして相手の確認をしてから送る決まりになっているが。
「あれ?」
俺は封筒の中身を確認しようとして気付いた。封筒は既に何度か開けた跡がある事に。
「…中身見たのか?」
『勿論だとも!!!』
「おいっ!!」
業務違反だろうそれは!!!
呆れつつも、中身を取り出すと小豆色の本だった。
「?」
本をめくると幼い顔のはにかんだ顔で写っている少女の写真。
「…写真?」
『喜ぶがいい! お見合い写真だ!』
「はぁぁぁ???」
何でそんなものが?
しかもあのシュファーナ家からだと言う。
意味がわかんねぇよ!!!
「…順番的に兄貴が先じゃねーの?」
結婚してないのは兄貴も同じ。しかも長男。
『……した』
突然、兄貴の声が低くなった。
「? 何か問題でもあったのか?」
兄貴のテンションを落とすとは…どんな奴だよ?
『暗いし暗いし暗いし暗いしく・ら・い・しっ!!!! 何も見えないしっ!! 僕の麗しい姿を暗闇にさらすとは何て罪深いんだ!! 僕は2度目は嫌だね!』
「……」
そう言えば…兄貴は暗所恐怖症。
兄貴がお見合いしたが、そこは暗闇の中だったって事だよな?
――― で、兄貴が嫌になったので俺に回ったと言う事か?
『じゃぁ、宜しく! 可愛い弟よ。詳しくは華麗な銀の天使様に聞いてくれ!』
がっちゃん!
そう言うと通話が切れた。
「自由人だよな…」
嫌なものは俺に押し付ける。しかも説明不十分。
俺は溜息をつきながら幼馴染に電話をした。
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「レイオ…今、電話大丈夫か?」
『えぇ…大丈夫です。何かありましたか?』
レイオは俺の幼馴染で歳は俺の1つ上。外見が性別を感じない整った顔立ちをしていて、銀色の髪の毛をしている所から兄貴に‘銀色の天使様’と呼ばれている。本人は嫌そうだが。
「クソ兄貴から黒い封筒が届いたんだけど知ってるか?」
『あぁ…。知ってますよ。それの責任者をやっております』
「へ?」
何でだ…?
「…クソ忙しいのに?」
何気にコイツは図書館の館長をやりつつ教師じみた事や医者のような事までやっている多忙な奴だ。
『楽しそうだったので。…説明しますと、その写真を受け取った方は写真の少女と夢の中でお見合いをします』
「夢の中?」
『えぇ。‘夢つなぎ’です。お見合い写真が通行書になってますので半径1メートル以内にそれを置いて寝てください。少女とのタイミングが合えば自動的に繋がります…』
‘夢つなぎ’を使用って何か大掛かりだな…。
あれって使える奴が少ない上、手間がかかるっていう話だよな?
「何で夢の中でお見合いなんだ?」
『相手の少女が異国に住んでいるんですよ。どちらかがお見合いの度に行ったり来たりすると、色々と面倒な手間がかかるでしょう?』
「……‘夢つなぎ’を使う時点で色々な手間がかかってるんじゃねーか?」
『専門家が必要なだけですよ』
さらりと言った一言に俺は悟った。‘夢つなぎ’でかかる手間は他人に押し付けたという事を。
「…」
専門家哀れ。
通行書を作ったり空間を作ったりと色々多忙に違いない。
受話器を握り締めながら思わず遠くを見る。
『‘夢つなぎ’は写真を近くに置いて寝るだけです。パスポートの手続きも休暇の届出もお金も必要ありません! 楽ですよ』
…確かに。
お見合いは結婚する為のものだ。だからこそ見合いをする人間は仕事があったりして、簡単に長期の休暇は取れない。まして1人暮らしの俺には余計な出費はキツイ。
「…」
だが、この見合い…何かあるって考えた方がいいな。
コイツが責任者だぞ?
多忙だろうが‘楽しそう’って言う理由で引き受ける奴が何もルール無しとは考えられない。
『ある方の情報では可愛らしい方だと聞いてますよ? 因みにそれを受け取った方は必ず1度はお会いする決まりになってます』
「…」
思わず写真を見る。
強制かよコレ…。
‘夢つなぎ’がなかったら色々と大変な事になってたんじゃないか?
「…早めに会った方がいいのか?」
面倒くせーなぁ。
『次がありますので早めにお願いします。少女との縁が無いような場合は自動でその写真は手元から消え、次の方のもとに届きますから』
バトンかよ!!
そう思ってると受話器の方から何かがぶつかるような音が聞こえた。
『ガタガタンッ!!』
「っ! どうした?」
『あぁ…。気にする事ではありません。棚の奥にあった本を取ろうとして邪魔のものをどかしただけですから』
「…」
きっと投げたんだろうな…。
こいつは見た目と違って、思いっきりがいいと言うか豪快と言うか…。
『検索用の力具でも作った方がいいですね…』
ブツブツ呟く声がした。
今、電話中だって事忘れてねーか?
…それでも俺が質問したら直ぐに対応出来るんだからすげーよな。
「検索用? …何の本探してるんだ?」
『‘星と空と海’と言うタイトルの本です。明日使うんですよ』
「…そっか。説明ありがとうな」
そう言って俺は切った。
「……」
‘星と空と海’どこかで見た覚えがあるのは何でだ?
「…俺の家に有ったり…しねぇーよなぁ?」
悲しい事に無いとは言い切れない。
念のため、俺は本棚辺りを探す事に決めた。
本年も宜しくお願いします。今年初更新です。
ドローさんの言葉が方言になりそうでやばいー!
語尾に「け」をつけそうになる…。
「ねーんけ?」→無いのかい?
「そっけ」→そうなんだ
と、言う具合に…。