現実11
「…私とした事が…大変失礼を致しました」
何かに気付いた美人さんが突然、私に謝ったの。
何で???
私の頭の中は?マークだらけ。
「?」
「私の名はレイオ・ストライザーと申します」
突然の自己紹介。
…あー…。そー言えばしてなかったわね。忘れてたわよ。勝手に‘美人さん’や‘猿’って名づけて心の中だけど好きに呼んでたし。必要性なんか全然感じなかったしね…。
「ストライザー家の‘変わり種の道標’。蒼の称号を持つ図書館の館長をしております。今回の‘花嫁さんいらっしゃいな♪ まずは身内から策戦プロジェクト!!’の仲介役に選ばれました。宜しくお願いいたします」
ニッコリと笑顔で言ったレイオさん。
色々ツッコミどころが満載なんだけど …。
「…レイオさん?」
「はい」
「…‘変り種の道標’とか‘蒼の称号’とか‘花嫁さんいらっしゃいな♪ …’って何ですか?」
特に最後の‘花嫁さんいらっしゃいな♪’は何か嫌な予感がする!!!
「‘変わり種の道標’は私の持っている2つ名です。‘蒼の称号’は個人が持っている力の種類を色で表しています」
2つ名は商品で言うキャッチコピーみたいなもの?
力の種類を色で表すって…何の力よ?
説明が簡潔すぎて分からないんだけど…。これって私がアホって事?
そう思いつつも、レイオさんの説明を聞く。
「‘花嫁さんいらっしゃいな♪ まずは身内から策戦プロジェクト!!’は今行われている見合いのことです」
そう言って微笑んだ。
「…!」
あははははは。乾いた笑しか出ないわよ! やっぱり~て感じ。私が一番関わってマスヨ。 つーかそのプロジェクト名ってどうなのよ? 微妙に名づけた人が気になるけどっ!
「…その説明はどうなんだよ?」
レイオさんの説明に溜息をもらす猿。
「…俺の名前はドロイド・フロカーズ。2つ名は有名な奴に付けられる名前だよ。人によっては名誉って思うやつもいる。俺は要らなかったけどな。俺のは‘果てた渡り道’。朱の称号を持つ漁師。…一応そのプロジェクトに関わってる…宜しくな?」
えーと…2つ名があるって事は2人とも有名って事ですか? つーか2つ名を言う時、嫌そうな声だったよね…よほど嫌なんだ…。
気が付くと2人の視線が私に集中。
もしかして…私の番だったりするの? ちょっと待って! えーと…。
「…相田 美緒です。北川高校の3年生です……何故かそのプロジェクトに関わってます」
それぐらいしか言う事無いよね~? 普通に女子高生やっている私が‘2つ名’とか色とか持ってたら可笑しいし!!
「美緒様」
「ええぇぇ?! みみみっ美緒さまぁ? 普通に美緒でいいです!!」
レイオさんは何故か私に‘様’を付けたの! 生きていて18年。様付けなんて呼ばれるような生活はしてない。普通の家庭に普通の学歴(英語は下の下だけど)にたいした特技無し。秀でた人間じゃない私。そんな私に‘様’付け?
…豚に真珠? ネコに小判?
つーか…冗談抜きで‘様’は勘弁してぇぇぇ!!
「…分かりました。では美緒、お茶でも飲みませんか?」
「へ?」
真面目な顔して言うものだから一瞬、何を言われたか分からなかった。
「あっ…はい」
私が返事をすると、レイオさんは迷う事無く、隣の部屋にあるだろうと思われる台所の方に向かった。
何かこの家の事詳しいよね?
そんな事を考えてると猿…じゃない、ドロイドさんに話しかけられたの。
「美緒。俺の事は‘ドロー’って呼べよ?」
と…。ドロー? レイオさんも‘ドロー’って読んでたよね? 何で‘ドロー’なんだろう?
名前はドロイドよね?
「ドローさん?」
「…愛称に‘さん’はいらねーよ。」
「愛称? 分かった!」
愛称ってあだ名みたいなものよね? 確かにあだ名に‘さん’付けは変だわ。
和む私とドロー。
あれ~? もしかして良い雰囲気とか言うやつ?
いえいえいえいえいえいえ。お猿さんと結婚とかありえないですから!!
人は昔、猿だったって言っても無理ですから!!
「…言い難いんだけどな。この見合いは美緒が相手を決めるまで続くと思うんだ…」
「え???」
決めないとダメの? 相手は人じゃないのに?
「適当に断っていけば良いとか思ってたか? そんなに甘くねーよ。現に事故が起きても続行だ。しかもレイオの監視つき……面倒くせーな」
苦々しく呟くドロー。その後、真面目な顔して私に言う。
「断るのは最終手段にしとけ。後々ルールがあったりすると厄介だからな。切り札は最後まで握ってろ。やるなら‘保留’か‘断らせる’にしといた方がいいぜ?」
「…」
何故こんなにもアドバイスをくれるんだろう?
「不思議そうな顔だな? 罪滅ぼしみたいなものだから気にすんな。俺の自己満足だよ…悪かったな」
そう言うと、ぴょんと跳ねてカーテンを開けたの。
「!」
…え?
大きい窓から見えた外の景色は今までに見た事もないものだったの。
私はこの時まで母の所為でよそ様の家に居るのかな? って思ってたの。
昔、何度か母の企みによって、起きると知らない場所って言うのが良くあったのよ。サプライズが好きだから…無理やりにでも寝かせて運び出す事があった。起きたらパーティー会場とか旅館とか。それは全て日本でのこと。
でも…。
「…ここどこよ?」
「今聞くのかよ!!! …遅いだろ!」
素晴しいつっこみで。
だってどう見ても日本の景色じゃないのよ?
エメラルドグリーン色の海に防波堤の無い岸。今時あるの? って思う板で出来た船。…浮かぶようには見えないんだけど。
それよりも驚くのが、家の周りには見た事がない色をした薔薇の花が咲いてたの。空の色や金色に輝く薔薇。
何コレ?
海の近くに薔薇って咲かないよね?
しかも巨大。空色の薔薇は人の顔ぐらいの大きさだったの!!!
「どうしたんですか?」
お茶を入れたレイオさんが戻ってきた。私とドローの前にお茶を置く。
「ありがとうございます」
温かくてイイ匂い。一口飲むとホッとして、胸の辺りがぽかぽかと温かくなる。
「あぁ…。今頃になって‘ここどこよ?’って驚くから…」
あのー…。今まで驚かなかった私が変って言う顔しないでほしいんだけど。
流石に起きた時は‘どこ?’って思ったわよ? その後のハプニングでそれどころじゃなかったんだから。しょーがなくない?
まぁ、起きたら知らない所に居る経験が多いから…後で分かるでしょ~って、考えてたし。
「…そう言えば、言ってませんでしたね。ここは‘ハッピーランド’です」
「で、俺の家」
「!!」
‘ハッピーランド’凄い名前!!
つーかそんな名前の国あったっけ?
「え? …日本だよね?」
日本にあるアトラクション系の…やつじゃないの?
「いえ…」
ま・さ・か!
その時私は閃いた。もしくは悟った。
もしかして…もしかするわけ?
銀色の髪の毛。キスだけで自動翻訳。喋る猿。‘夢つなぎ’と言う変な夢世界。しかも外には不可能と言われている色の巨大薔薇。
現実的にありえなくない??
まさにファンタジー!!
もう、アレしかないよね? よく小説であるアレ。
そう考えると自分の部屋で寝ていた私が起きると知らない部屋に居たって言うのもうなずけるし!
心当たりは夢の中で猿バージョンのドローに摑まれた時に起こった異変。
異・世・界・トリップ!
そう考えるとつじつまが合うのよ! 不思議な事に。見た事無い髪の色は異世界なら当たり前になるし。自動翻訳とか夢つなぎとかは魔法っていう感じじゃない?
喋る猿も居るのが普通になるわよね?
でも…異世界って事は…私は帰れるのかな?
…何か気付いた所為で落ち込んできた…。
「…ココって異世界よね? 私帰れる?」
だから私がそう聞いても不思議じゃないよね?
「はぁ?」
「え? 異世界ですか?」
しかし、2人の反応は目を大きく開けるという一般的な驚いた顔。しかも疑問系。
…何で?
「え? …ココって異世界じゃないの? 異世界トリップして私はココにいるんじゃないの?」
「! ぎゃはははははは!!! 異世界?! 本の読みすぎじゃねーの?!」
私の発言に腹を抱えて大笑いをするドロー。何かムカつく!
「だって今まであった事が非現実過ぎるんだもの!!!」
これで異世界じゃなかったら詐欺っぽいわよ!!!
「…残念ながらココは異国です」
レイオさんまで笑いを堪えた顔してる…。
「え…異国?」
はぁぁぁぁ??? 異国?
「えぇ…」
そう頷いてレイオさんは無造作に散らばっていた雑誌の山から1冊の雑誌を取ると1枚破いたの。
「あー!! ガロー伝説の表紙!!」
笑っていたドローはそれを見て怒りだす。どうやら大切な雑誌だったみたい。
「すみません?」
「思ってねーだろ!! くそー!」
「大事なものを放置しとくのが悪いんですよ」
素晴しくニッコリと笑うレイオさん。
「確信犯だろーが! ワザと沢山置いてある雑誌からそれを選んだんだろーが!」
「ぐ・う・ぜ・ん・ですよ?」
きっとワザとよね…私でも分かるわ。
イラストが描かれた紙をレイオさんが手を振るとそれは世界地図に変わったの。
「!」
ええぇぇぇぇ?!
魔法?…でも異世界じゃないって言ってたけど…?
私の驚きをさらりと流したレイオさんは私に世界地図になったものを見せた。
「この国は地図で言うと此処です」
そう言って指した場所は海のど真ん中だった。
…どこよそこ??
「地図が小さすぎて分かりにくいですが…此処に島が存在します」
その世界地図は見覚えのある島が書かれていたの。日本とかアメリカとか中国とかヨーロッパとか…。
社会の時間でよく見る世界地図。
「そうだ! 見ろよ」
壁の方に居たドローが何かを思いついたらしくリモコンを取るとポチッとボタンを押した。すると、起きた時に見た、黒い壁に映像が映し出されたの。
ふくよかな体形に特徴的なちょんまげと言う髪型。土で盛られた土俵。
「相撲ぉぉ?!」
えぇぇぇぇ???
黒い壁だと思っていたのはテレビのスクリーンだったらしく、見覚えのあるふんどし姿のお相撲さんが映しだされたの!!
NH●ーー!!!
「な?異世界じゃねーだろ? 」
ドローの満面な笑み!
でも…!!
「じゃぁ、何で! こんな非現実な事がありすぎるのよ!!!」
頭が痛いんだけど!!
言っとくけど、頭をうった所為じゃないからね!
「世界は広いんですよ?」
チョー笑顔のレイオさん。
「そうそう。世界は広いんだ。俺みたいのがいても不思議じゃねーんだよ?」
威張るドロー。
でも、納得できない私がいる。
「そこに咲いてる花は何?」
「…クソ兄貴が勝手に品種改良して植えて行ったもの…臭いから窓は開けるなよ?」
「レイオさんの魔法みたいな力は?」
「突然変異。俺もビックリしたんだぜ?」
「…私の力は魔法みたいですか?」
そう言って、世界地図を振ると元の雑誌のイラストに戻すレイオさん。
「…魔法じゃないの…ぉ?」
どう見ても魔法にしか見えないんだけど…?
「あれぇ…?」
目の前が…暗い???
そんな事を思っていたら突然、ブラックアウトした私。
「「っ!!!」」
驚くレイオさんとドロー。
そー言えば私、熱あったんだよね…。
興奮して暴れたらそら気絶するよね~??
説明するのって想像以上に大変ですね。主人公だけの視点だと穴だらけで、分かり辛いので、別の方の視点も書きます。