現実8
私の悲鳴と後頭部をぶつけた音で恐ろしいくらいに整った顔立ちの人は目を覚ました。
「!」
やや水色っぽい銀色の髪。キラキラ光り輝く腰まである長い髪は肩辺りで軽く紐の様なもので結ばれている。鼻は高く、羨ましくなる程のきめの細かい白い肌。長い睫毛。人形のような整った顔立ちは少なくても日本人っぽい顔立ちじゃない。絵画に描かれている天使もしくは神様のよう。瞳は空よりも澄んだ碧色。歳は20代後半と思われる青年。無駄な贅肉が無い整った体。水色のワイシャツの上に白衣を羽織ってい、胸元には青いペンダントを提げていた。
まさに完璧の美よ!!! 生きた芸術品が目の前に存在していマス!!
男の人で綺麗って言う単語がぴったりな人って初めて見たー!!
綺麗すぎるぅぅぅ~!
ぶつけた頭を押さえつつ、私は見惚れていた。
その綺麗な人は私を見ると驚いた顔をして慌てて起き上がった。そして、私に話しかけた。
「 Did you get up? Wonderful sound was heard a short while ago, but are you unhurt? 」
と…。
その声は想像以上の心地よい声で、聞き惚れる声と言うのはこういう声なんだと初めて知った。高すぎず、低すぎず。柔らかい声。
――― けど。
何て喋ったか分からないわよ!!!
日本人離れした顔だもん。何となく想像できたけど!! これで関西弁とか喋ったらある意味おいしいかもしんないけど!!
どうせなら日本語で喋ってよーー!!!
聞き取れたのは‘アップ’と言う単語のみ。
……多分、英語よね?
「……」
どうしよう。
私は英語がダメなのよ!!
英語なんて無ければ良いのに! と、思うほど。毎回、英語のテストの結果は2桁にいく事が少ない。
……馬鹿だって? 英語だけよ!!! …多分。
因みに夏休みは毎年スペシャルな英語の補習で潰れる。中学校の先生からは「高校に受かったのは奇跡だな」と、言われるぐらい。友達からは「姫ママの腹の中にでも落としてきちゃったのかしら?」と言われる…。
私にとって英語は暗号にしか聞こえない……。自分で言って悲しくなるわね…。
兎に角、英語がダメな私の前に英語で話しかける人が現れたの!!
嫌ああぁぁーー!!
何の試練よぉぉぉーーー!!!
「…?」
私が何も答えない所為か、恐ろしいほどの美人さんの顔が不安げな顔に変わっていったの。
でも、どうすればいいのよ? 何を言ったのか分からないし。何を喋ったら良いのかも分からないんだもの!!!
……あっ! 壊滅的な英語力を持つ私に皆が口を揃えて教えられた言葉があった!!
先生にも友達にも後輩にも何度も言われた言葉!
えーと確か……
「あいきゃぁんノォおースピークいんぐリッシュ~!!」
発音がハチャメチャだって?
だから壊滅的だって言ったでしょ!!
お願い! これで通じて!!
祈る私。
「……」
しかし、私の言葉を聞いた美人さんは一瞬だけど眉間にシワが入っただけだったの。
……やっぱりダメ?
そう思ってると、美人さんは自分の首に下げていたペンダントを首から外した。親指の第一関節位の大きさの水晶のような青々とした石が茶色い紐に付いているだけと言うシンプルなもの。
「 I give it to you 」
今度は単語を切る様な感じでゆっくりと発音しながら私の目を見る。どうやら私の壊滅な英語力が理解されたみたい。でも、それでも分からないものは分からない。
「え?」
美人さんは私の掌にペンダントを乗せた。
……くれたのかな?
‘ギブ’って確か‘与える’とか言う意味だっ…ような覚えが…あるし…? ‘ギブ&テイク’とか‘ギブ ミー’とかで使うギブだよねぇ……? 自信は残念ながらないけど。
私の手に渡ったその石は石自体が熱を持ったかの様に暖かかったの。何でだろう?
「… Excuse me. Can I touch you? 」
石に気をとられていると、美人さんは私に近づいていた。そして、‘チュッ’と言う音と生暖かいものが私の右耳に触れた。
「っ!!! なななななっ何?!」
もしかして耳にキスした?!
えええぇぇ?
ビックリする私。しかし美人さんはそんな事を気にも留めず、
「――― 私の言葉が分かりますか?」
そのまま、私の右の耳元で囁いた。
「っ!!!!」
美人さんの言葉は私の知る日本語で喋っていた!
ななななっ何で???
日本語??!!
先程まで英語を喋ってたのに日本語? どういうこと???
「そちらの耳も――― Can I touch you? 」
美人さんが右耳から左耳へ移動すると言葉が日本語から英語に変わった。
「えええぇぇ?!」
もしかして、美人さんが耳にキスしたことによって映画の吹き替えみたいになっている?
今の私の右耳は日本語を聞き、左耳は英語を聞いている状態。
頭が変になりそう……。
「……」
固まった私を見て、困った顔をして聞く。
「……反対側の耳は止めた方がいいですか?」
こちら側はやってしまいましたけど…と、小声で呟く。
「……」
何でキスだけで自動翻訳されているのかは分からないけど…。
壊滅的な英語力の私には素晴しい事です!
自力で今すぐ美人さんの言葉を理解するなんて無理だもの!!!
「…キスしますか?」
「っ!!」
改めて聞かれたことにより、耳とはいえキスされることを意識した私!!!
恥ずかしいよぉぉ!!!
あの綺麗な顔が近づくんでしょ?
先程みたいに分からない状態でされるのとは全然違う~!!!
だけど!
左右違う言葉が同時に聞こえるのは頭が変になりそうだし!!
「…おっ…お願いシマスッ!!」
今日、生まれて初めてキスのおねだりをしました。
…私も英語が苦手です…。翻訳機を使わせていただきましたが…自信がありません!