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7 面倒な人に絡まれました

成り行きから、私はキセノにも兄とのやり取りについて話した。


「……お兄さんの言うことは正しいと思う」

「えっ! わ、私、厄介な小姑になりそう!?」

「そうじゃなくて。外見だけで人を判断するような男はやめとけってとこ」

「あ、ああ、そっちね!」

「そもそも、セレンは卒業したら魔術研究所に就職したいんだろ? 実家から通うつもりなのか?」

「ううん。寮があるから寮に入るつもりよ。私は早く自立したいの。万が一結婚できなくても、一人で食べていけるようになりたいのよ」


思わず力説すると、キセノは不思議そうに私を見た。


「オキシー家には婚約の申し込みが殺到してるって聞いたぞ。結婚相手は選り取り見取りなんだろ?」


なんという誤解が!!


「うちにくる婚約の申し込みは全部テルル宛てなの!」

「……そうだったのか……」


ものすごく驚いたように目を見開いたかと思えば、キセノは急に何事かを考え始めた。

え。こっち無視ですか? おーい。

キセノが動かなくなったので、フェルミィの方へ目をやれば、彼女はなぜかニマニマと私たちの様子を見ていた。な、何なの?


「へぇ~ほぉ~ふふ~ん? なるほどね~。どうしていつまでたってもグズグズしてるのかと思ったら……デマ情報に踊らされていたと」

「何の話?」

「うっふふふふ! あのね、実はキセノってば」

「フェルミィィィィ! お前はこの後、授業があるだろ!? 可及的速やかに教室に戻った方がいいぞ!」


いきなりキセノがすごい形相で私たちの間に滑り込んできた。目が血走っててちょっと怖い。


「はいはい。お邪魔虫は去りますよ~と。後は若い二人でねっ!」


なぜか弾けるような笑顔でこちらにウインクしながら、フェルミィは走り去った。

午後の授業は選択制で、私もキセノも受講していない教科だ。

二人きりになると、キセノがコホンと咳払いした。


「な、なあ。時間あるなら、コーヒーでも飲まないか? 共同研究の話もしたいし」

「そ、そうね。私、なんか甘い物食べたくなっちゃった」


そのままキセノとカフェテリアへ向かう。キセノは甘い物はそれほど好まないのでコーヒーのみ。私はチーズケーキとカフェオレを注文した。あ~ラズベリーソースが効いてて美味しい。

それからしばらく、私たちは共同研究の内容について語り合った。もうすぐ発表が控えているので、そろそろ結果をまとめていかないといけないのだ。

ある程度区切りがついたところで、キセノが急に黙り込んだ。


「どうしたの? 具合でも悪くなった?」

「い、いや。そうじゃなくて……。あ、あのさ。セレン……俺……」


真剣な目で見つめられ、一瞬息が詰まる。そこへ――


「おい、セレン! お前またその平民と一緒なのか!」


とげとげしい声が私とキセノの会話をぶった切った。声のした方を見れば、クルンクルンの金髪巻き毛の男が立っていた。彼は侯爵家長男のタンタル・サマリウム。

……実は私とは浅からぬ因縁がある。


「……ごきげんよう、タンタル様。私に何かご用ですか?」


暗に、用もないのに声を掛けるなと伝えると彼は苛立ったように怒鳴ってきた。


「お前に用なんてあるわけないだろ! 平民しか友人がいないようだから、気の毒で声をかけてやっただけだ!」

「それはそれはご親切にどうも。ですがご安心ください。私は貴族平民問わず友人には困っておりませんので、タンタル様に声をかけていただく必要は全くこれっぽっちもございませんの」


ほほほと優雅に笑うと、タンタルが睨みつけてきた。


「なっ! 何だ、その言いぐさは! せっかくこの私がお前みたいな冴えない女を茶にでも誘ってやろうと思ったのに……!」

「そのようなお気遣いは結構です。私のような冴えない女でも、お茶に誘ってくださる方は他にいますので。ええ、もう、金輪際そのようなお気遣いはされませんよう」

「お、お前、私の誘いを断るのか!?」


あ~~面倒臭い! この男、実は小さい頃にテルルにこっぴどくフラれているのだ。その恨みなのか、時々こうして私に絡みに来る。ねちねち嫌味を言ってきてイラっとくるんだけど、相手は一応侯爵家なので拳は出さないように気を付けてる。

一発殴りたい気持ちは強いけど。


私とタンタルがバチバチ火花を飛ばしていると、席を立ったキセノがすっと私の前に移動してタンタルから遮ってくれた。


「……サマリウム様。私と彼女は今、共同研究のまとめをしているんです。発表まで時間がありませんので、彼女を誘うのは後日にしていただいてよろしいでしょうか?」

「そ、そうか。ただ研究の話をしていただけか! そうだよな、セレンのような冴えない女を口説く男なんていないよな! よし、セレン。発表が終わったら我が家の茶会に招待してやろう。楽しみに待っていろ!」

「は? いや、行きたくな……ちょっと!」


私が断ろうとする前にタンタルが上機嫌で去っていった。

何よ、あれ! いっつも人のことモテない扱いして、失礼しちゃう!


「キセノ……あの人追い払ってくれてありがとう」

「気にするな。ヤツが言ってたこともだ。その……セレンは、すごく、か、可愛い、んだから」

「っっっ!!」


う、うわああぁぁぁ!! キ、キセノに! 可愛いって言われたああぁぁぁ!!

嫌なヤツだけど、タンタル! 今日だけはあんたに感謝してあげるわ!!


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