30 拗れた糸のその先は
星夜祭の翌日、学園ではとある噂が広がっていた。
“侯爵家のタンタル様が、星夜祭で絶世の美少年とまるで恋人同士のように寄り添っていた。実はその美少年こそが、彼の本命だったのでは?”
……真相を知る私としては、ごめん……と謝りたくなるような話だ。
「テルル~~っ! 訂正しろ! このままでは私が変態だと思われるじゃないか!!」
私とキセノ、テルルの三人で午後のお茶を楽しんでいるところにやってきたタンタルが、ぶるぶると怒りに震えながら訴えた。
「わたくしは別に自分だったとバラしても構いませんけど……そうすると今度はわたくしがタンタル様の恋人だと思われますわよ? いいのですか?」
「そっ……それは……!」
テルルの言葉に、葛藤するタンタル。……うちの妹が、ほんとごめんね。
「ねぇ、テルル。もしかして、お兄さまに言ってた策ってこのことだったの?」
「ええ。怪しい噂は同じく怪しい噂で消してしまえばいいと思ったのですわ。これでわたくしとお姉さまの噂は無くなるでしょう。お姉さまには恋人もできましたし」
「こ、恋人って……!」
はっきり言われて恥ずかしくなった私が俯くと、キセノに手を握られた。
「セレンは恥ずかしがり屋だよな。まぁそこが可愛いんだけど。いや、いついかなる時でもセレンは可愛いけど」
「やめてぇぇぇ!」
昨日からキセノがずっとこんな感じだ。なんていうか、そう、濃厚チョコレートケーキにこれでもかと生クリームを乗せて、さらに上からハチミツとかぶち込んだような。
そんな激甘に私を甘やかそうとしてくる。
「……キセノは少し、何かのネジが外れたんじゃないか?」
タンタルが少し引いた様子でこちらを見ていた。
だよね、私もそう思う!
「タンタル様。きっとこれがキセノさんのもともとのポテンシャルなのだと思いますわよ。……スズ様といる時のお兄さまにそっくり」
「え?」
テルルの発言は聞き逃せないものがあった。お兄さまにそっくりですって?
私は恐る恐るキセノを見上げる。
「結婚は就職して2年後でいいか? ああ、早くオキシー家に挨拶に行かないとな!」
「気が早っ!? あ、あの、嬉しいけどそういうのはもっと先でも……」
「何を言ってるんだ。決めるだけ決めておかないと、他のヤツにセレンを取られるかもしれないだろ?」
「取られませんから~~!!」
あ、あれ? 確かに、何だかキセノの言動がどことなくお兄さまみたいに……。
「セレン、一生離さないからな。……愛してる」
「お兄さまみたいなこと言ってる!?」
キセノ、まさかの溺愛系だったの!? わ、私、怖いから溺愛系は無理だと思ってたけど……どうしよう、今、嬉しくて仕方ない!
「キセノ! 私も大好き!! ずっとそばにいてね!」
「セレン……!!」
見つめ合う私たちの横で、テルルとタンタルが少し距離を取っているのが分かった。
「さすがにこの甘さはこたえますわ……」
「胸焼けがひどい。……昨日食わされ過ぎたせいもあるが」
「タンタル様には噂の根絶にご協力いただいたので、特製の胃薬を差し上げますわ」
「ありがとう……と一応言っておこう」
テルルとタンタル様は昔のわだかまりが無くなったように、普通に接している。少し前の二人からしたら、大きな進歩だ。……何だかちょっといい雰囲気かも?
――ああ、私の大好きな人たちが笑顔でいるのって素敵だな。
まるで拗れた糸が、ゆっくりとほどかれたような……。
穏やかな昼下がりの幸せを、私はそっとかみしめた。




