3 兄が暗躍しています
「お姉さま! お土産です。テネシーさんから美味しいクッキーを貰ったの。一緒にいただきましょう?」
友人宅から戻ってきたテルルにお茶に誘われた。昨今は姉の物を奪いまくるひどい妹も多いというのに、うちの子はなんて天使なんだろう。
テルルはとても優しい子だ。何か美味しい物を貰えば私にも分けてくれるし、私が体調不良の時には真っ先にお見舞いに来てくれる。もちろん、私も同じことをするけどね。
「ありがとう。では、せっかくだから庭でお茶にしましょうか」
私がそう言うと、テルルが嬉しそうにきゅっと私の腕に巻き付いてきた。可愛い! じゃなくて、ええと、ここは距離を取らないとダメよね?
「え~と、テルル? ちょっと近いかな~?」
「何がです?」
「あの……距離が」
「いつもと変わらないと思いますけど」
はい! いつもアウトだったんですね!
よく考えたら、いい歳して腕組んでる姉妹なんて見たことないな。
私ってちょっと常識を分かっていなかったかもしれない。
幼い頃なら微笑ましく見守られただろうけど、十六歳と十四歳ではちょっと不思議な光景
だよね。
「あ、あのね、テルル。私たちももう子供じゃないでしょう? そろそろ、あんまりべったりくっつくのはどうかな~と思って……」
「……お姉さまは、わたくしがお嫌いなのですか?」
じわりとテルルの瞳に涙が浮かんだ。
あわわわわわわわ! な、泣かせるつもりじゃないのよ~~!?
「そんなわけないでしょ! テルルは私の大事な妹よ! 大好きに決まっているでしょう?」
「お姉さまっ!」
ぎゅうっとしがみついてくる妹の頭をポンポンと優しく撫でる。
……どうしよう。これ、どうやって姉離れさせればいいの?
私が途方に暮れていると、廊下の隅から兄が顔を出していた。
両手を使って、パパパッとハンドサインを送ってくる。スパイか。
ええと、あのサインは確か、“後で部屋に来い”だ。
嫌だな、絶対説教されるもん。とはいえ無視したらもっとひどい目に合う気がしたので、私はテルルとのお茶会を終えてから兄の部屋へ向かった。