15 サーカスは楽しいけど、心臓がもちません
「おい、セレン? セレン!」
何度か呼びかけられ、ハッと私は意識を取り戻した。
キュンだのギュンギュンだの言ってる場合じゃなかった。本日メインイベントのサーカスはこれからなんだから。
私たちがサーカス会場へ向うと、普段は広場になっている場所に、大きな天幕が張ってあった。中に入ると、たくさんの人でガヤガヤとにぎわっている。
「すごい人ねぇ」
「セレン、こっち。はぐれるなよ」
私がついキョロキョロしていると、キセノに手を握られた。
ひょわわわ! 手、手を繋いでる!?
私はドキドキして挙動不審になっているのに、キセノはいたって普通の顔だ。
あ、あれ? 私、自意識過剰なのかな?
ちょっと恥ずかしいけど、キセノが平気そうだから気にしないようにしよう。
そのまま席までエスコートされると、キセノは飲み物を買いに行ってしまった。
私はぼんやりと周りを見渡す。
友達同士や家族連れも多いけど、やっぱりカップルの数が多い。
周りからは私とキセノも恋人同士に見えてるのかな……なんて考えたら、また顔が熱くなってきた。
「ほら、セレン。レモネードでよかったか?」
「あ、ありがとう!」
戻ってきたキセノにレモネードをもらったので、ちょっと頬に当てて熱を冷ましているうちに、徐々に天幕内の明かりが暗くなった。
そして、バッと舞台の中央に照明が当たる。そこには、シルクハットをかぶった少し小太りの男性が立っていた。
「紳士淑女の皆さま! 本日は当サーカスへお越しいただき、まことにありがとうございます! ぜひ夢のようなひと時をお過ごしください!」
そんな司会者の挨拶を皮切りに、わっとピエロたちが飛び出してきた。
ジャグリングをしたり、パイ投げをしたりして観客を沸かせる。
かと思えば、一輪車に乗った男性が頭の上に次々と椅子を積み上げて、驚異のバランス感覚を披露した。
魔物の調教師もすごかった。猛毒を持つというポイズンタイガーに火の輪くぐりをさせたり、凶暴なエビルベアーに玉乗りをさせたりしている。ちょっとだけ魔物が可愛く見えた。
最後の演目、空中ブランコでは美男美女が空中を自由自在に舞う姿に会場中が魅了された。
司会者の言葉通り、すっかり夢のような時間を過ごした観客たちは、会場を出る頃には夢中で感想を言い合っていた。私とキセノも。
「すごかったね! あんなの初めて見たわ! ポイズンタイガーが可愛く見えるなんてびっくり!」
「エビルベアーのバランス感覚もすごかったよな! どうやって教え込むんだろうな?」
お互い興奮して、感想を伝えあう。
カフェに移動しておしゃべりを楽しんだけど、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。
「そろそろ日が暮れるな。送っていくよ、セレン」
「あ~あ、もう一日が終わっちゃうのか。……帰りたくないなぁ」
「か、かえっ!? ……セ、セレン、お、遅くなると、ご家族が、し、心配するだろうからっ」
「あはは。分かってるよ~。今日がすごく楽しかったから、早く帰るのはもったいないなって思っただけ」
いきなり焦りだしたキセノにそう言うと、キセノはなんだそんなことかと笑った。
「……今日だけじゃなくて、また出かければいいだろ? ど、どこだって、俺が連れてってやるからさ……」
「!!」
心臓がやられました。しばらく再起不能です。
……死因、キュン死。




