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12 勘違い令嬢に絡まれてしまいました

「あなたがセレン・オキシー様?」


お茶を楽しんでいたところ、急に目の前に現れた令嬢にビシッと扇子を向けられた私は、思わずぽかんとご令嬢を見上げた。

ゴージャスな縦ロールの金髪が、ぶるんぶるんと揺れている。すごい迫力だなぁ。

やや吊り目がちだけど、すごい美女だ。私より年上っぽいな。


「あ、はい。セレン・オキシーと申します。私に何かご用でしょうか?」


知らない人だけど、うちより爵位が上っぽいから、一応立ち上がって挨拶をした。


「わたくしは、マチルダ・キュリー。あなたに忠告をしに来ましたのよ」

「忠告……ですか?」


キュリー家? ……確かうちと同じ伯爵家だったような気がするが、うちよりも歴史のある由緒正しき家柄だったはず。

うわっ。なんか面倒そうな人に絡まれた。


「あなたではタンタル様には不釣り合いですわ! 身をお引きなさい! これはあなたのためを思って言っているのですよ」

「はい? 何のお話ですか?」

「とぼけないで! あなた、タンタル様に目をかけられているのでしょう? 舞い上がる気持ちは分かりますが、侯爵夫人になるには分不相応ですわ! だいたい、先ほどから見ていればずっとお菓子を食べてばかり……! あなたは何をしに来ているのですか!」


えええええ? 何か、いろいろ勘違いされてる!?

いやまぁ、確かにさっきからお菓子ばかり食べてますけど!

というか、お菓子を食べに来たんですけど!


私がどうにかマチルダの思い違いを訂正しようと口を開く前に、テルルが口を挟んだ。


「……マチルダ様、わたくしはセレンの妹のテルル・オキシーと申します。先ほどから聞いていれば、ずいぶんと上から目線で姉を貶めてくださっていますが、あなたこそ何様のおつもりですの?」

「なっ、何ですって!?」


きゃああああ! テルルゥゥゥ!?

待って待って待って! 落ち着いてぇぇぇ!


「歴史ある名門キュリー家のご令嬢ともあろうお方が、初対面の女性を勝手に判断して暴言を吐くなど、許されることではありませんわ!」

「わ、わたくしはただ、セレン様に忠告をしようと思っただけで……!」


テルルの刺すような冷たい視線に、マチルダがビクリと震えた。

ちょ、これじゃテルルがマチルダをいじめているみたいじゃないの!


「テ、テルル! マチルダ様はちょっと勘違いをされているだけで、別に暴言というほどのことは言われてないわ! ね?」


私は慌ててテルルの両肩に手をのせると、どうどうと落ち着かせる。


「マチルダ様。私とタンタル様は、確かに幼少期からの知り合いですが、友人ですらありませんのよ」

「……え?」

「むしろ、タンタル様には嫌われておりますの」

「嘘っ!? そんなはずはないわ! だって、さっきからタンタル様はあなたのことをずっと目で追っているし、話の内容もあなたのことばかりで……!」

「どうせ冴えない女が着飾っても、いつもとたいして変わらないとか、そういう悪口でしょう?」

「え? ちょ、ちょっとニュアンスが違いましてよ? 着飾らなくても、いつも通りで十分なのに、とおっしゃって……」

「やっぱり。あの方、いつも私に難癖をつけてくるんです。少しでも着飾ると、もっと地味な方がいいとか、失礼過ぎると思いませんか?」

「え? え? そんなことを言われているんですの? ……おかしいですわ。セレン様、何か誤解なさっているのでは……」


私の言葉に、マチルダが戸惑っている。そんなマチルダに、テルルがきっちり言い聞かせてくれた。


「……マチルダ様。お姉さま“は”、タンタル様のことが大嫌いなのです」

「!! そ、そうでしたの…。わ、わたくし、いろいろと勘違いしておりましたわ。とても失礼なことを言って、申し訳ございませんでした……」


マチルダが深々と頭を下げて謝罪してきた。ただの意地悪な子じゃないんだな。

きっとタンタルのことが好きで、目をかけられてると思い込んだ私が社交もせずにお菓子ばかり食べてダラダラしていたのが許せなかったんだろう。


「私はもう気にしていませんから、お顔を上げてくださいな。よかったら、少しお話しませんか? 私、キュリー家の蔵書に興味があるんですの」


にっこりと微笑んでお茶に誘うと、マチルダがほっとしたように席に着いた。


「……我が家の蔵書は古い物ばかりで、あまり女性受けするようなものはないと思うのですが……」

「あら、確か古代魔術の希少本を所有されているのでしょう? 私、すごくすごく羨ましくて……」

「まあ。セレン様は魔術に興味がございますの?」

「ええ。私、学園を卒業したら魔術研究所へ就職したいと考えておりますの」

「そうでしたの……! あの、もしよろしければ、今日のお詫びに我が家へご招待しますわ。きっとセレン様のお役に立つ本がたくさんあると思います」

「嬉しいですわ! ありがとうございます! ぜひ伺わせていただきますね!!」


やったあああ! キュリー家の古代魔術希少本が見られる~♪

ホクホクしている私を、マチルダが不思議そうに見ていた。

あ、そうか。普通の令嬢は古い本なんてあんまり興味ないもんね。


「……マチルダ様は、あまり本は読まれませんの?」

「わ、わたくしは古い本はあまり……。いつも読むのは恋愛小説ばかりですわ」

「あら! それならテルルと同じですわね! 妹も恋愛小説を好んでおりますの。最近は確か、ドミニク・スターキーがお気に入りで……」

「ドミニク・スターキー!?」


ガタッと勢いよくマチルダが立ち上がる。ふぇっ? な、なんか顔が怖い!

私、なんか地雷踏んじゃったのかしら!?

どうしよう、テルル~!


私がオロオロしていると、その私を飛び越してマチルダがグッとテルルに顔を近づけた。


「テルル様…!!」

「はっ、はい!?」

「……お友達にっ……なってっ……くださいませぇぇぇぇ!!」

「「ええええええ!?」」


私とテルルの声が重なった。

いや、そんな鬼のような顔で言うことじゃないでしょ!


詳しく訳を聞いてみると、マチルダの友人にはあまり本を読む人がいないらしい。

マチルダは恋愛小説マニアなのだが、誰も彼女の話についてこられないので、ずっと恋愛小説のことを語れる友人が欲しかったそうだ。

萌え語りがしたいと泣きながら話す彼女の手を、テルルが優しく握る。


「マチルダ様……わたくし、ドミニクの他にカタリーナ・スワンやステファン・ドルフィンの作品も好んでおりますの」

「カタリーナ! ステファン!! で、では“青き瞳の王子様”や“初恋は虹色に染まる”をお読みですのね!?」

「ええ。わたくしも物語のお話ができる友人が欲しかったのです。今度一緒にお話いたしましょう」

「おお……神よ!!」


マチルダが涙を流しながら胸の前で手を合わせた。え!? そんなに!?

なんかマチルダの熱量が怖いよ……!


私とテルルに、かなり個性的な友人ができました。




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