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02話

何も分からないことが分かったところで、さっきから脳裏をよぎっている1つの可能性から目を逸らすのをやめた。


「この状況、何度も見てきた」


そう、さっきまで現実逃避の為に状況の整理をしていたが、この展開は俺が何度も目にしたことのあるものだった。

もちろん俺自身が体験したことのある、という訳ではなく。

物語やゲームで何度も目にして来たものだ。


「異世界物、か」


ある日突然普通の生活をしていたものが、わけも分からず見たことの無い場所に飛ばされる。

そんな展開に覚えが一つだけあった。


異世界物


ごく普通の主人公が何らかの要因で異世界に転生、あるいは転移し、冒険 スローライフ 内政などなど、様々な目標に向かって進んでいく物語だ。

俺も異世界物は大好きだった。現実では手に入らないような魅力的なアイテムの数々が、物語の中では当たり前のように出てくる。

誰も思いつかないようなアイテムが、作品の数だけ溢れている 。

幼い頃から自他ともに認める魔道具狂いの俺にとっては異世界物は自身の欲を満たすために切っても切り離せない物だったからな

もちろん、切り離すつもりもなかったけど、


「しかしまさか、俺が当事者になるとは」


そう、異世界物が大好きとはいえ、いざ当事者になると混乱してしまう。わけも分からず知らない場所に突っ立っていたら誰でも取り乱すだろう


「異世界物VR、やってて良かったぁ」



唯一の救いは趣味のVRで同じような始まり方をするものが多かったおかげである程度の耐性があることだろうか。

まぁゲームでは予めどういう始まり方をするのか、とかどういった立場なのか、とか事前知識があったから今回のようにわけも分からず飛ばされるわけじゃ無かったが。

とはいえ考えていても仕方がない。どうしてここにいるのかなんて考えて分かることでもない。

本当に異世界なのかどうかも俺が思い込んでいるだけなのかもしれないし、もしかしたら寝ぼけてVRでも開いてるのかもしれないしな。


「それはないか」


まぁさっきから肌に感じる風の感触や、腰にかかっている布袋のようなものから感じる重さ、という感覚。

全てが現在のVRでは未だに到達できていないリアルの感覚が、ここがVRではないと俺に教えてくれる


「これ、何が入ってんだろ」


とりあえず、さっきから腰に引っかかっていた微妙な重りの布袋を広げ、中を見ることにした。

もしかしたら有用なものが入っているかもしれないしな


「あ、お金だ」


布袋を腰から取り外し、とりあえず開いてみたところ。

中には茶色のお金らしきものが入っていた。

いわゆる銅貨、だろうか。


「10枚か。多いのか少ないのか」


恐らく少ないんだろうな。

とはいえ、ここが異世界だと仮定してこの世界の通貨らしきものが手元にあるのは幸いだ。突然ここに来た身としては、何故最初から手持ちに通貨があるのか不気味で仕方がないけどな。

それにしても、



「さっきから身体が敏感だな」


もちろん変な意味ではなく。

先程から感じていた違和感。何故見えるはずのない距離にある門番らしき人が見えるのか。

この視界は、VRで遠距離を見るためのスキルを使っていた時に近いが、今俺はそのゲームをしていない。

もちろんスキルなんか使えるわけが無い

つまり


「素でこの視力、なんだろうな」


自分の身体が自分のものじゃないような感覚。普通に考えれば恐怖だろう。もちろん俺も気味の悪さを感じている。現実ではありえない視力、突然訳の分からないところに飛ばされるている現状、何故か持っている通貨。

考えれば考えるほど、普通の人なら受け入れ難い状況なのがハッキリしていくが、


「ちょっと、ワクワクしてきたな」


そう、俺は今ワクワクしていた。

もちろん恐怖は俺も感じている。状況は何一つ分かっていないしこうなった原因も分からない。

異世界転移だろうと勝手に決めつけているだけで、本当は違うのかもしれない。

ただ、ここでならもしかしたら。

もしかしたら


「ゲームでも物語でもない、本物の魔道具に触れることが出来るかもしれない」


そう、現実では有り得なかった魔道具。物語ではありふれていた魔道具。

VRではアイテムとしてプレイヤーが集める事が可能で、俺も魔道具を集めるために何千時間もゲームに注ぎ込んだ。

ただ、所詮ゲームはゲーム。

俺がいくら魔道具を集めようが、集めた魔道具を使おうが、本当に俺のものになった訳じゃない。サービス終了したら集めた魔道具はデータ事無くなる。

そんな、本当は自分の物ではないという感覚が俺の物欲を満たす邪魔をいつもしてきた。

そんな俺にとって、もしかしたら本物の魔道具を手にすることが出来るかもしれないこの状況は、恐怖よりも長年追い求めてきた夢が叶うかもしれない興奮によって掻き消されてしまう程度だった。

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