テリトリーに入る時は
テリトリーに侵入者が!事故が起きてしまいました。さてさて、どうなることやら
ーーーなんじゃコリャあああぁぁぁぁ
ーーなんじゃコリャああぁぁぁ
ーなんじゃコリャあぁぁぁ
山間に絶叫がこだました。
急いで声のする方へ行ってみると、お仲間が地面にうずくまって嗚咽を上げていた。どうやら命に別状はなさそうだ。
かなり興奮している様子なので離れた場所から声をかける。もしパニック状態だったらこっちが危ないからな。
「すみませーん」
「こんにちはー」
「やっほー」
三回目でようやくこっちを見てくれた。安堵の表情が見えたので駆け寄って話しかけた。
「もう大丈夫だ。一体どうした」
「こっ、これを見てくれ」
身震いしながら差し出された手は紅く染まっていた。
ひっ!と叫びたいのをなんとか堪えた。
「なっ、何があった?」
「…ウッ…ウッ…ウッ…」
どうやら思い出した恐怖で話せないらしい。
大丈夫、大丈夫と背中をポンポンしてしばらくするとゆっくり話し始めた。
「ありがとう、少し落ち着いたよ。えーと、うまそうなキノコがあって夢中になってたら、何かが『ドン!』ってぶつかってきて、俺、びびって『うわぁぁぁぁ』ってなって、全力で逃げてきたらこうなってたんだ」
なんとなく状況は理解できた。びっくりして恐怖のあまり目をつぶって闇雲に腕をブンブン振り回した拍子にぶつかったのだろう。
「…小さい頃に似たような経験あるな。やっぱキノコで出会い頭だったわ」
「そっかぁキノコかぁ、キノコ美味いもんなぁ」
キノコの味を思い出したのか、うっとりした顔につられて俺もほっこりしてしまった。
しかしヤツらなんでこんなところまで。俺らは基本ベジタリアンでチキンハートで臆病だ。こいつもビビりだから用心深いはず。
「もちろん、俺もビビりだ」
声に出していたらしい。
「すまん。勝手にビビりなんて決めつけて」
「いいよ、俺がビビりなのは事実だから。しかしさっきのは本当に怖かった。警告音もなくいきなりだったからね」
「最近、ヤツらおかしいよな。ヤベー奴らは減ったけど、何も考えず俺達をナメているとしか思えない連中が増えたな」
ヤベー奴らとは、俺らのテリトリーに忍び込み喧嘩を売ってくる連中だ。
「最近は本当そうだね。ヤベー奴らがいた頃の方がルールは守られていたよね」
俺も同意見だった。確かにヤベー奴らがいた頃、一般のヤツらは警告音を鳴らして存在をアピールして争いごとを避けていた。警告音を聞いた俺達は逃げるか、隠れて通り過ぎるのを待つことにしていた。
「ヤベー奴らは俺達のことやテリトリーにも詳しかったから、一般のやつらにもルールを教えてたんだろ。たぶん」
うん、うんと仲間は頷いた。
「そういえばこの前俺、ヤツらと遭遇したんだよ。距離にして百メートルぐらいかな。隠れる場所が無かったから、仕方なく気が付いていないふりしてやり過ごそうとしたんよ。そうしたらヤツらどうしたと思う」
「アオってきた」
「正解!目視できる距離にきてから警告音をガンガン鳴らすんだよ。本当にアホかと思ったよ」
普通、遭遇してしまった場合は何事も無かったことにして両者フェードアウトするのがベターだ。もちろんヤツらが変な動きをしないか用心しつつ去るのだが。
「で、どうしたんですか」
「終始、警告音が聞こえないふりして、ゆっくり立ち去ったよ」
俺は冷静に無視を貫いた。だってさ、知らないヤツから「おーい、そこのやつこっち向け」ってやられたら、普通は喧嘩になるだろ。
「マジですかぁ、考えも知識も無い違う意味でヤバいのが増えてますね…。で、これからどうする?」
「とにかく山の奥深くに逃げるんだ!俺も一緒に行く。ヤツらには関わらないのが一番だ」
大きな黒いモフモフが二つ、山の奥へと消えていきました。
おしまい
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