「そうだ、結婚しよう!」悪役令嬢は断罪を回避した。
ある日目覚めたら異世界にいた。
こんな事が私の身に降りかかるなんて、思ってもみなかった。
かつて大変なブラック企業で夜とも朝とも分からない生活をしていていつの間にか意識が途絶えたことや、目を覚ましたら見知らぬ世界で、しかも美少女になっていて驚きのあまり再び倒れたりなどの工程もあったが割愛する。
「どう見ても……学生の頃に遊んだゲームの悪役令嬢なのよね……」
意識を取り戻して五日後、私は自室の姿見に手を触れながら改めて呟く。
異世界にいることに加え、この人物が後に断罪される悪役令嬢であることに気がついたのだ。
艶々の金の髪は腰元まで伸び、緩やかにウェーブしている。これを以前の自分はグルングルンの縦ロールに毎朝セットしていたらしい。
目尻にかけて吊り上がった猫目に、真っ青な瞳。いわゆる金髪碧眼の美少女である。
――私が転生したと思われるロズニーヌ・ユルフェ侯爵令嬢は、ゲーム上では最後に断罪される悪役だった。
ヒロインの男爵令嬢が眉目秀麗な攻略対象者たちとあれやこれやしていく訳なのだけれど、その全てにおいて、邪魔をする敵役だ。
攻略対象者とのキャッキャウフフな楽しいイベントが起こる度に、悪役令嬢ロズニーヌとの対戦が挟まり、カラフルなお菓子をマージさせるというパズルゲームに興じる必要があった。
正直、私はそのパズルゲームの部分にハマった。
悪役令嬢と対戦したいがために攻略対象とエンカウントしまくり、最後は見事全員攻略して逆ハーも成立してしまうほどだ。
彼女の婚約者である王子を奪ったり、攻略対象者たちの好感度を上げまくれば自分のハッピーエンドののち悪役令嬢の断罪イベントがある。
自分でいうのもなんだけど……私はパズルゲームが上手すぎたので、ロズニーヌは常に断罪されていた。
クリア特典の各キャラクターの豪華スチルもコンプリートした。私にとってはなんとも二度おいしいゲームだった。
ここが乙女ゲームだとして……パズルゲームの部分は何がどうなってるんだろう……すっごく気になる。
ヒロインと攻略対象者がエンカウントしたら、悪役令嬢である私の前に巨大なパズル盤面でも現れるのだろうか。
マージする部分はどうなる?
みんなでお菓子をぶつけ合うのか?
「わたくしとバトルいたしましょう!」とヒロインに戦いを挑むのだろうか。
……正直ものすごく気になるが、自らが悪役令嬢だと分かっていてそのバトルに足を踏み入れる気はない。
存在が断罪みたいな悪役令嬢なのだ。もう息をするように断罪されてしまうに違いない。
「この不毛な断罪をなんとしても回避しないといけないわ。どうする、私……!」
ベッドの上で坐禅を組むようにストレッチをしながら瞼を閉じる。
――まずはシンプルに考えよう。普通に学園に行って、ヒロインを回避する。
うーん、これはあまり効果的ではないかもしれない。
だって、悪役令嬢が回避しようともヒロインが攻略対象者にエンカウントすれば終わりなのだ。
相手がかつての私のような好戦的なヒロインだった場合、きっと何をしても挑まれる。急にお菓子投げ合いゲームに参加させられるなんてたまったもんじゃない。えっ普通にイヤだ。
――だったらいっそ、学園に行かないのはどう!?
そう考えてみたが、よっぽどの理由がないかぎり、貴族たちは子女を学園に行かせる決まりがあるらしい。
行かないとむしろ""問題あり""のレッテルを貼られ、その後の結婚が難しそうだ。
家庭教師をつけるパターンもあるにはあるが、病弱だったり外に出られない場合に限られる。
どう考えてもロズニーヌは健康優良児なので、今更病弱なフリをするのは難しそうだ。いらぬ心配をかけてしまうのも避けたい。
勉強が大事なのは前世でも身に染みて感じた。なんだろうね、学生の頃は遊びたかったのに、大人になるともっと学びたかったと思うねじれ……。
勉強は絶対やりたい。これもパス!
王子の婚約者になってしまえば、当然ヒロインとのバトルは避けられない。
もう全力でパズルゲームに興じるしかないのか……いや、私ならいけるかもしれないけど……謎の自信と共に諦めの色も濃くなってきたとき、ハッと閃いた。
「そうだ、結婚したらいいんじゃない……!?」
カッと目を見開く。
思いついたのは""断罪の場に上がる前にさっさと結婚もしくは婚約をしておく""ということだ。
「学園が始まる頃には王子と婚約していたことは確定だけど、今の記憶ではまだ婚約していないわ」
ロズニーヌは幸いにも、幼い頃から婚約をしているタイプではなさそうだ。
今は婚約者はいない。
学園が始まるまでにそんなに猶予がないから、もしかしたら近いうちに婚約に関する出来事があるのかもしれない。
「急いで調べないと……一刻を争う事態だもの!」
ベッドから飛び降りた私は、この世界の結婚と婚約について調べることにした。
まずは結婚できる年齢から。
「十六歳から結婚できて、婚約は何歳からでもオッケーなのね、なるほど」
私は再来月には十六歳だ。そして、学園を卒業するのは十八歳だったはず。その卒業パーティーで断罪される運命。
うん、結婚しよう。
まずは婚約でもいい。
なんなら期間限定でもいい。とにかくマージバトルだけはいやだ。
私は善は急げとお父様の書斎に駆け込んだ。
「お父様、大切なお話がありますの!」
「どうしたんだ、ロズニーヌ」
「お父様!!! 私今すぐ結婚したいです!」
「ええ……急に何? ロズニーヌ、ものごとには順序というものがあるんだよ」
お父様はとっても困った顔をしている。
くるんと上向きの髭をいじりながら、本当に本当に困った顔をしている。
(なんというか、案外ゆるめな父なのね……!?)
ロズニーヌは両親に甘やかされ系の悪役令嬢だったようだ。大人しくしていれば、断罪されるようなことにはならないはず。
「とにかくもう、至急です! あっでも、王家なんかには嫁ぎたくありません!」
「えっ、でもこの前まで第一王子がいいって言ってなかった?」
「あっもうその辺は忘れてくださいお父様! 優しくて誠実で浮気をしなそうでそんなに身分が高すぎなくて自分のお仕事をしっかり頑張っている殿方でお願いします〜!」
「ええ〜っ! せっかく来週あたりに婚約について王に話に行こうと思ってたのに〜。ほぼほぼ決まってたんだよ? ま、そんな突飛で我儘なところも可愛いからいいけど」
父に理想を告げると、くるりん髭をいじりながらも渋々了承してくれた。
いや結構ギリギリだったみたいだわ……!
***
両親にお願いしたら、一週間後には釣書が集まっていた。サロンのテーブルにずらりと並べられたそれらを、私はじっくりとチェックする。
こちらの都合で結婚をお願いするからには、こちらも誠実に殿方を選ばなければならない。
(結婚をしないと! 私の平穏のために)
そうは思うが、実際こんな紙だけで人柄が分かる訳でもない。
婚活のために夜会で実際にお話をする必要があるかもしれないが……万が一攻略対象者とエンカウントして、お菓子パズルバトルが始まったらどうしたらいいのか分からない。
そんな感じで、全くお相手が絞れないでいる。
「む、難しいですわ……」
「ロズニーヌ!」
うんうん唸っていると、部屋の扉が勢いよく開いた。バギィッ! という音が聞こえた気がするけど、大丈夫……?
兄の友人であるエヴァン様が、何故か息を切らせてそこに立っていた。後ろで侍女が青い顔をしているため、さっきの音は聞き間違いではなかったようだ。
「あら、エヴァン様。どうされましたか?」
ソーウェル伯爵家のご令息であるエヴァン様は、燃えるような赤髪とキリリとした金の瞳をお持ちの方だ。三つ歳上。
騎士としても活躍していると聞いているとおり、鍛えられた体躯は服の上からでも分かる。
なんというかこう、しっかりとした肩幅と、キュッと締まった腰元が逆三角形で素敵だ。
そう、私は筋肉が好きなので。
昔からよくこの家に出入りしていたので、顔見知りだ。とはいえ、こうして部屋に突然飛び込んでくるなんて、普通じゃない。
そう思っていると、エヴァン様はテーブルに並べられた釣書をものすごい顔で凝視していた。
「……ロズニーヌ、結婚相手を探しているというのは本当か?」
「まあ! お兄様から聞いたのですか?」
「君は殿下の婚約者候補に名乗りを上げていただろう。てっきり、王妃になりたいのかと思っていたが」
「あっ、ああ〜! ぜーんぶ若気の至りですわ! 私、やっぱり普通の家庭がいいなと思いましたの。愛し愛される夫婦がよくって!」
嘘だけど嘘はついていない。
王族はお家断絶をしないために、複数の妃を持つことがある。貴族でも愛妾を持つ人はいるが、そんなのは絶許なのだ。
「……そうか」
身振り手振りを加えてそれらしい理由を並べてみたところで、エヴァン様はホッと息を吐いたように見えた。
納得していただけたようだ。
「では、結婚相手の目星はついたのか?」
「それが……難航しております。お父様はロズニーヌの好きにしていいと言ってくださるのですけど、お相手の方のことをよく知りませんし」
「どういう相手ならいいんだ?」
「そうですね……まずはこう気兼ねなくお話が出来る方がいいですわ。身分は気にしません。あとはお仕事もしっかりされている方がいいです」
「騎士などの職もありか?」
「ええ、もちろん! 逆にありがたいですわね、筋肉は」
「そ、そうか」
なぜかそこでエヴァン様は顔を赤らめる。
そ、そんな風に照れられると、性癖語りをしているこちらも恥ずかしくなってくるので是非やめて欲しい。
――エヴァン様、本当にどうしたのかしら。
そう思って見つめると、彼の金の瞳とパチリと目が合った。じっとりと熱く、強い眼差しが刺さる。
なんだか直視できずに、私はパッと目を逸らした。頬が熱い。
「ロズニーヌ、他には?」
「条件でございますか……? 義務的でも、私だけを見てくださる方がいいです。浮気をされたら、即刻離縁します」
「ふむ、その点も問題はない」
「子供も欲しいので、幼子にも優しい方がいいです……あ、でも場合によっては白い結婚でもオッケーなので、そのあたりは条件をお互いに擦り合わせつつ!」
「ゲホゲホッ!!!!」
「大丈夫ですか!? ルーナ、エヴァン様にお茶をお持ちして!」
「はい、ただいま!」
急に咳き込んでしまったエヴァン様に、侍女が急いでお茶を用意する。
私はそのスペースを作るために、広げていた釣書を急いで片付けることにした。
わしゃっとまとめて積み重ねて、元の木箱に戻す。あっという間に完了だ。
「エヴァン様、こちらにお掛けになってください。喉を潤しましょう」
「あ、ああ……すまない」
エヴァン様を長椅子に案内して座っていただいた後、私も向かいの椅子に座った。
エヴァン様は長椅子に腰を下ろしたものの、どこか落ち着かない様子だった。
背筋は伸びているのに、手元で拳をぎゅっと握ったり開いたりしている。
「……エヴァン様?」
私が首を傾げると、エヴァン様は大きく息を吐き、真剣な眼差しでこちらを見つめた。
「単刀直入に言う。ロズニーヌ。俺と結婚してくれないか」
「……え?」
突如として飛び出した言葉に、思考が一瞬停止する。
「け、結婚……?」
「そうだ。俺は君と夫婦になりたい」
「えっと、それって……どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だ。俺は君を妻にしたい」
まっすぐな言葉に、頭の中が混乱する。
エヴァン様と私が結婚……?
確かにこうしてお話しするのは楽しいし、筋肉は目の保養だし、彼が女性を侍らせているという話を聞いたことはない。
なんなら、女性の話がなさすぎて、ワンチャンうちのお兄様とあれなんじゃないかって噂も腐茶会で話題だったような……?
「だ、だって……エヴァン様って、結婚を考えていなかったのでは?」
「……っ!」
エヴァン様はわずかに歯を食いしばり、顔をしかめた。
そう。エヴァン様が令嬢にアプローチされてもすぐにお断りするという話は私も知っていた。
婚約者もいらっしゃらないし、生涯独身だと言っていたという説もあった。
だからこそ、腐ロマンス好きの夫人たちの話のタネになっているんだけど。
「考えていなかったわけではない。だが、君は王太子の婚約者候補筆頭だったし、俺がどうこう言える立場ではなかった」
「え?」
「だから、ずっと諦めていたんだ。それなのに、君が突然、婚約者候補を辞退して釣書を集めていると聞いて……」
エヴァン様はそこで言葉を切り、手をぐっと握る。
「君に相応しいのは、王族や公爵家の令息だと思っていた。だが、いざ君が縁談を募っていると聞いて、居ても立ってもいられなくなった。……このまま何もせずにいたら、君が他の誰かと結婚してしまうと思うと――耐えられなかった」
「……っ!」
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
エヴァン様の眼差しは真剣だ。兄の友人としての朗らかな表情ではなく、そこには確かに熱がある。
「だから俺はこうしてここに来た。ロズニーヌ、誰でもいいというのであれば、俺を選んでほしい」
エヴァン様の瞳は真剣で、一切の迷いがなかった。
「……でも、私、エヴァン様に何も……」
「君が俺をどう思っていようと関係ない。俺は、君が好きだ」
息を呑む。目がチカチカして、胸が苦しい。
「エヴァン様、私……自分で言うのもなんですが、ものすごく我儘ですし、たまに厚化粧などもしておりましたが」
まるで以前からロズニーヌを好きだったと言わんばかりのエヴァン様に、私は恐る恐る確認する。
なんせ悪役令嬢だったので、好き勝手に振舞っていたし、ゴリッゴリの縦ロールにバシバシの化粧だった。
その時点でロズニーヌを好きだったなんて、奇特過ぎないだろうか。
「そうか? 我儘と言っても愛らしかったし、王子に見初めてもらう為に外見の装いを努力する姿もいじらしかったが」
エヴァン様はこてりと首を傾げる。
ひえっ、私のアレをそんな風に捉えてくださる人がいたなんて! どういうこと!?
エヴァン様はすでに学園を卒業してもう騎士団に就職済だ。乙女ゲームの攻略対象者ではない。
偏屈な兄(私が言うな)と長年友人関係にあって人柄も間違いはないし、筋肉も素敵だし、なによりこうして真っ直ぐに気持ちを伝えてくださる。そんな彼がこうして気持ちを伝えてくれたことに対する驚きは大きいが、嫌悪感はまるでない。
むしろ……こんな幸運な事があっていいの!?
「君が自由になったのなら――俺も君の結婚相手の候補に名乗りを上げても構わないだろうか」
「エヴァン様……」
静かな声だったが、強い決意がにじんでいる。
懇願するようなその表情に――当然のことながら私の心は射抜かれた。
「しまった、慌てて来たから何も持ってきていない! ロズニーヌ、やっぱり仕切り直しをさせてくれ」
ふと我に返ったらしいエヴァン様が、焦ったように立ち上がる。
本当に急いで駆けつけて来てくれたのだ。
求婚の時には花束や宝石を――そして雰囲気のよい場所で。前世からのあるあるだ。
それを焦っていらっしゃるのだろう。
「……だめだろうか?」
私が言葉を選んでいると、その沈黙を不安に思ったのかエヴァン様は眉尻を下げて不安そうにしている。大きな身体が大変縮こまっていて、それをかわいいと思ってしまった。
「……エヴァン様、私で本当によろしいのですか?」
「! ロズニーヌがいい」
「私がまた以前のように、ゴリゴリのお化粧と縦ロールになっても?」
「俺のためにしてくれるのか? それは嬉しいな」
エヴァン様の目が一瞬、大きく見開かれる。それから太陽のように明るい笑顔が返ってきた。
心臓が痛い。痛すぎる……!
「……エヴァン様。仕切り直しを、心からお待ちしております」
「ロズニーヌ、それは……!」
「はい」
えへへ、と照れ隠しに微笑めば。エヴァン様の表情はくしゃりと歪んで、それからまた綻んだ。
「君のことは、必ず大切にする。約束する」
そう言って、彼は私の手を取り、誓うようにそっと口づけを落とした。
これほど一直線に求婚されるのは、なかなか悪くないかもしれない。
……本当に、悪くない。
それから。
エヴァン様は本当にもう一回プロポーズをしてくれて、私たちは婚約する運びとなった。
すぐにでも結婚しようとしたエヴァン様だけど『は? ロズニーヌちゃんが学園を卒業するまではまだダメ〜』と笑顔のお父様に断られて暫く固まっていてかわいかった。
釣書が大量に入った木箱は、もう二度と開けることがないまま……いつの間にかエヴァン様が焼き払っていたらしい。
そんなこんなで、エヴァン様と無事に婚約した私は学園に入学した。
そこでヒロインとのお菓子投げバトルが開催されるのか無事に回避できるのかどうかは……神のみぞ知る。
*********
エヴァンは、指にはめられた指輪をじっと見つめていた。
銀の輪に小さな宝石が嵌め込まれたそれは、決して華美なものではない。それでも、彼にとっては何よりも重みのあるものだった。
「……やっと、手に入れたんだな」
ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟く。
ずっと欲しかったものだった。
諦めるべきだと、何度も言い聞かせた。彼女が別の誰かと結ばれるのなら、それを受け入れようと覚悟もした。
だが、それがどれほど苦しく、どれほど辛いものだったか。
ロズニーヌとは幼いころからの付き合いだった。
彼女の笑顔が好きだった。まっすぐで、強く気高く、でも時々怒ると怖くて。譲らない信念をもつその青い瞳に射抜かれたのはいつのことだったか。
身体を鍛えること以外で、興味を持ったのはロズニーヌだけだった。
『エヴァン。残念なお知らせなんだけど、ロズニーヌは殿下の妃になりたいらしいよ』
友人に告げられたのはそんな言葉だ。自分が彼女にとって兄の友人止まりであることはなによりも自分がよく分かっていた。
彼女があの強い瞳で追うのは殿下だけだ。
『分かっている』
誰かのもとへ嫁ぐ彼女を見送る未来を思い浮かべるたび、胸が締め付けられるようだった。
それでも彼女が幸せならば、と自分に言い聞かせた。自分がその手を掴む資格がないのなら、せめて笑って送り出そうと。
だが——
何が起きたか分からないが、急に方針を転換したらしいロズニーヌは求婚を受け入れてくれた。
猫のような瞳をまん丸にして驚きながら、最後は微笑んでくれたのだ。
数多の縁談を突っぱねていて、本当に良かったと思う。
友人との間に変な噂があることはエヴァンも知っていて、彼も苦笑いだったが、エヴァンの気持ちを知っていたからか茶化すことはしなかった。彼にも想い人がいて、なかなか上手くいかないらしい。
指輪をそっとなぞる。冷たい金属の感触が、彼女が婚約者でいてくれるという現実を確かなものにしてくれる。
「パズルゲームとはなんだろうか……」
彼女がこっそり呟いている言葉が気にかかる。もしかしたら、彼女はパズルゲームが好きなのかもしれない。今度会うときに、こっそり用意してみよう──エヴァンは幸せな気持ちで眠りについた。
そしてその贈り物を見たロズニーヌは微妙な顔をすることになったのだった。
おわり
お読みいただきありがとうございます。
エヴァンはド派手なロズニーヌもかわいいなと思っていた筋金入りの脳筋男です。
あと私はマージするパズルにハマっています。
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