ヨシコ転移
「聖女様を召喚することになった。聖王国から許可が下りたのだ。だから、婚約破棄をする」
「そ、そんな。どうして、召喚などを・・」
「それはお前が無能だからだ。父上と母上も完治出来ない。毎日、治療魔法を掛けなければならないではないか?大臣達も効きが悪いと言っている。さっさと王宮を出て行け」
「せめて、聖女様に申し送りを」
「ええい。聖女様が来たら、嫌な顔をするかもしれない。聖女は二人いらないのだ。とっとと出て行け」
私、クリスは、幼少の頃に聖女のジョブを授かり。強引に王子の婚約者に指定され、物心が付く頃に王宮に来た。以来12年間、聖女として過ごした。現在17歳、父は伯爵だ。
親に甘えたい盛りの時に、無理矢理引き剥がされた。
外の世界は知らない。怖いわ。
王子への愛想は尽きたけど、それだけは不安よ。
ガチャ
「何だ。まだ、出て行っていないのか?」
王子の後ろのドアから、数人入って来たわ。
「陛下、王妃殿下・・・騎士団長殿、大臣たち」
彼らは口々に不満を言う。
「ワシの疲れがさっぱり取れない」
「ええ、私の腰痛も治らないわ」
「浄化しても、瘴気がまた湧き出てくる。聖女殿は能力不足ではないか?」
「王族、騎士団長、ワシら大臣は、国を支える重大な人物だ。治療役が無能では、国の運営が成り立たない」
「田舎の伯爵令嬢として暮らすが良い。今まで分不相応な王族として暮らして行けたのだから、良いだろう。金を請求したいくらいだ。退職金はやらん」
「全く、父上の言うとおりです。黒髪の聖女様は、美しくて、能力が高いと聞く。我国に来られたら、求婚をしよう」
私は古びた聖女服のままに、粗末な使用人用の馬車で実家に帰されたわ。王都のタウンハウスよ。
皆、出むかえてくれた。
「クリス!」
「ウグ、ウグ、クリス・・帰って来たのね」
「クリスよ。兄だ。覚えているか?」
「ただいま戻りました」
「話は聞いた。しばらくは、ゆっくり過ごすがいい」
「ええ、今後の事は後で考えましょう。今は休みなさい」
「そうだ。クリスが好きな物はお人形、いや、失礼、今は違う。好きな物を教えてくれないか?」
「みんな・・」
私は荷物などない。
だから、荷ほどきもする必要はない。
日用品を買ってくれて、部屋に案内された。私が子供の時に使っていた部屋だ。
「まあ、お人形さんが、そのまま」
「ええ、さすがに、机と寝台は身長にあったのにしたのよ。後は、その時と同じだわ」
私は、両親が不在の時に、メイドとお人形さん遊びをしていた時に、王家の使者に連れ去られたのだ。
お兄様が必死に止めてくれたわ。
あれから、新年の儀にも、実家に返してくれなかった。食べ過ぎた王の治療役が必要だからと・・・
「グスン、グスン。お母様」
「いいのよ。泣いて」
歓迎会を開いてくれたわ。
王宮の冷めた食事よりも、温かい。
久しぶりに温かい食卓につけたわ。
ゆっくり、眠れたわ。
☆☆☆5日後
しかし、王宮から使者が来たの。王子直々だわ。
「はあ、はあ、聖女クリス!何をしているか?さっさと王宮に戻るぞ!」
何?王宮で何が起きたの?
お父様が前に出る。
「さあ、断ります。クリスは王宮を追放になりましたが、行く理由はございませんな。王命ですかな?」
「だから、王命を出したら、王家の威信にかかわる!クリスから、再婚約を懇願し、王家が受託する!そんなことも想像できないのか?」
うわ。クズだわ。
「ああ、もう、愛想が尽きた。幸い、我家は帳簿付けの家職がある。他国に伝手はあるぞ」
お父様は断った。
嬉しいけど、大丈夫かしら。
「さあ、荷造りするぞ」
「ええ、何があったか分からないけど、邪な企みでしょうね」
「俺は、他国で騎士団付きの事務官になるぞ」
「フフフ、私は治療院を開きますわ」
「だから、婚約破棄をすると言ったが、まだ、手続きは終わっていない。破棄は無効だ!」
「殿下、婚約破棄の手続きは貴族院で受理されました」
「お前は誰だ!もう、男が出来たのか?浮気だ!慰謝料を請求してやる」
「兄のロンメルですが、貴族院勤務の事務官です」
「「「断ります!」」」
王子は、焦って、身振り手振りを交えて、懇願するわ。
「聖女モドキが呼んでいるのだ。そこで、お前には『否』と返事をして、また、私と婚約を結んで欲しい」
「聖女様が?」
私は一抹の不安と新しい聖女様に興味を持った。私は行くことにした。
「「「私たち家族も一緒だ!」」」
「今度は、安々と娘をやらん!」
馬車は、何かあったら、速やかに帰れるように、伯爵家の馬車で行く。
しかし、王子は、王家の馬車に乗らずに、乗り込んできた。
しかも、一方的に話し出した。
「助けてくれ、聖女様は、私と婚約を結ぶと言っている!クリスよ。いいのか?」
「ええ、いいですわ」
「薄情だな。召喚された聖女様はヨシコと言って、化け物だ!頼む。また、王宮で暮らそう」
「嫌です」
「とにかく、対決して、聖女に戻ってくれ!」
まあ、話を聞くと、治療と称して、拳で、聖魔法をたたき込む?
浄化に行ったら、不満を騎士団にぶつける?騎士団長を投げ飛ばした?!
「聖王国から許可を受けた転移聖女様だ。逮捕は出来ない。いや、そもそも強くて逮捕拘禁できないんだ!」
どんな聖女様なのかしらと、不安と、興味を持った。
彼女なら、王宮の腐敗を払拭してくれるのかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。