9挿入目
ラグナロクから数週間が経った。廃墟、いや、廃城のような外観の城に聖也はいた。そんな恐怖を感じさせるような外観とは裏腹に、内部はカーミラの城に負けず劣らずの豪華な作りとなっていて綺麗である。外観だけあのような状態にしているのは意図的であるが、それはアイの趣味である。アイはアンデット系だからこそこういう趣味なのだろうか。だが内部は綺麗であり案外人間味のある魔王なのかもしれない。
聖也はカーミラの城にいた時のように勉強というか調べごとをして過ごした。やはり知識は必要だ。このアイの城に貯えられている本はとても多い。魔法に関する本がとても多く勉強になるのだ。魔法は大きく分けて下級魔法、中級魔法、上級魔法に分けられる。それらは難易度や消費魔力、威力などで分けられている。また、古代魔法や固有魔法などの特殊な魔法もあることが分かった。魔法は魔力を消費して発動するなど、ニャーニャが教えてくれたことを再確認することもできた。
魔法以外にもわかったことはある。スキルについてだ。スキルも魔法同様、初級スキル、中級スキル、上級スキルに分けられている。スキルにも固有スキルがあったりとこの点も魔法と似ている。魔法とは違い魔力を消費しないという点はニャーニャの教えてくれた通りだが、武器や防具にもスキルがあるということがわかった。武器などの道具でスキルを発動できるのであれば個人の能力の格差を縮められそうである。しかし、現実はそんなに甘くはない。そういったスキルがある武器は高い値段で取引され、生まれの悪い貧乏人は買うことができずより格差が広がる一方だ。しかし、ウェポン男子のアソコのスキルは違う。少なくともアソコはお金のあるなしには関わらないモノだ。まあ、アソコをお金で改造できるなら話は別だが。
さて、そんなウェポン男子だが、アイの持つ書物で驚愕の事実が判明した。それは勇者にも関わりのあることだ。まずウェポン男子とは凶暴な女性から身を守るために進化した存在であるが、それではウェポン男子が愛し合った女性と交わった場合どうなるかである。つまり、鞘入りの儀に互いの愛がある場合や気持ちが一つになったときである。愛がある又は気持ちが一つになった場合の答えは “【一心武装】”である。それは絶大な力を得るだの百人力だのとにかく凄いということが書籍からは伝わって来た。勇者はこの【一心武装】のために鞘入りの儀を強行したのだと悟る聖也。
「バアル様、こちらにおられましたか」
女性とも男性とも判別できない声ではなしかけてくる者が現れた。
「アイさん、バアル様はやめてくださいよ、聖也でいいですし、様付けもいりません」
そう、話しかけてきたのは城の主である魔王アイだ。それに対して様付けは照れ臭いのでなんとか呼び方を変えてもらおうと頑張る聖也。
「どうしても敬ってしまうものですよ、過去に助けてもらったことあるのです」
「そんなことが……、こちらもこうやって面倒を見てもらってありがたい」
「おそれ多いです。勉強ばかりはお体に障りますよ、そろそろお茶の時間にしませんか?」
「そうですね、お言葉に甘えさせてもらいましょうか」
そのままアイに言われたとおりにお茶の時間にする聖也。部屋を移りアイとともに茶を飲む。給仕係が高速で淹れてくれたものだ。最初にそれを見たときはあまりの速さに驚く時間もなかった聖也。
「聖也様、これは配下の者が作った自信作の茶葉なのですよ」
そういうとアイは口に含み胃に紅茶を流し込んだ。ここで違和感を覚える。
「ほ、ほんとですね、美味しいですな」
引き攣った顔で紅茶を飲む聖也。味なんてわからない。それどころではないのだ。アイが“バアル”ではなく聖也と呼んでくれたことさえも気付いていない。もっと重要なことがある。今回は初めてアイとお茶を飲むこととなった。しかし、アイの見た目は……骨である。それゆえ飲物など飲んでしまえばダダ漏れのはずである。
「おかわりいただけるかな?」
あろうことか骸骨の見た目のアイは、給仕に頼み2杯目に突入したのだ。聖也はその様子をまじまじと見つめる。しかし、どれだけ飲んでもアイからは一向に紅茶が漏れ出さないのだ、骨しかないのに。これはこういうものとして聖也は静かに受け止めることにした。自然の神秘なのだと……。ただ、アイと食事したことはないので今度は食事風景を見てみたいと思う聖也であった。
「ところで聖也様、他の魔王たちにはお気をつけください、奴らは危険です、欲望の塊、あなた様を狙っています」
「なんか前もそんな感じのこと言っていましたね、そんなに危険なんですか?」
「はい、それはもう危険中の危険で喰い殺されてしまいす」
「こ、こわっ」
「ですのでここにいることが何よりも安全でございます」
「でも、ずっとここにいては悪――」
「――よいのです、ずっとここにいてくださっても」
聖也の言葉を速やかに遮るアイ。アイの姿は何か焦っているように感じられたが、如何せん骨である。そのため表情など読み取ることができない。まさに屈指のポーカーフェイスである。しかし、アイが焦っている意外にもどこか悲しそうなそんな気がした聖也であった。
「そ、そういえば最近夜になると、なんだか不気味な音が聞こえるんですが……」
ぴくっと身を震わせたアイ。
「きっとネズミですよ、この時期結構出るのです、申し訳ありません、すぐにネズミ駆除の手配をします、ご安心ください」
聖也の言葉を受け、ネズミ駆除に乗り出すとのことでアイは部屋を後にした。すぐさま準備を始めるとのことだ。そんなに急がなくてもと思う聖也だが、そもそも本当にネズミなのだろうか。ここは魔王の城であり、もっと怖い何かが出るのではと考える。
まあアイなんとかしてくれるだろうと気持ちを落ち着かせ、再び元の部屋に戻り知識を手に入れることを優先する聖也であった。しかし、【一心武装】についてどれも浅いことしか書かれておらず全く知識が深まらない。男性が減ってしまっていて【一心武装】に至らない、あるいは男女が愛し合わないからなどの理由により【一心武装】に至らず、それらが書物に記されることすら少ないのだ。ただ、勇者と聖也はこれに到達することはないだろう。あんな勇者は聖也の守備範囲外だからだ。そもそもお世話なった魔王を害するわけにはいかないだろう。
結局調べごとはあまり進まなかった。夕食を済ませ、寝る前もベッドの上で少し本を読む。読んでいるうちに眠くなってくる聖也。そのまま眠ってしまう。それが悪夢の始まりだと知らずに……。
静かに眠る聖也の部屋には他には誰もいない……はずだった。それなのに部屋には異音が発生した。




