5挿入目
聖也はただひたすら駆けている。せっかくいろいろと教えてくれる存在と出会えて少し安心できたのにその存在はもういない。気分が下がる、病む。ただ、立ち止まるわけにはいかない。聖也は、あの三人娘たちがニャーニャを始末したことで、自らが城から逃走したことが正しかったのだと確信する。
走りつづけていた聖也だが想像よりもかなりはやく城下町の壁に到達した。
壁でなければ「止まれ貴様!」などと出入りができるところの門番に止められることも考えられる。そのため人のいない壁に来たのだ。
「〈絶対切断〉!」
聖也は先ほどステータスで知った己のスキル〈絶対切断〉を使用する。壁を自らのアソコでバターやゼリーのように切り裂く。〈挿入斬光剣〉は前世のホスト時代に習得したものであるが、それが現世ではスキルとしてステータスにも表示されていた。前世で獲得したものはたくさんあるのだが、それがステータスで可視化されると感慨深いものである。それに対し〈絶対切断〉は現世で手に入れたスキルであり、名前的に壁もなんとかできそうだと考え使用したのだ。
「スキルすげーな」
聖也はそのまま壁の向こう側に飛び出す。勿論ノープランである。ノープランでも大丈夫だと思った理由が聖也にはある。理由のひとつはとあるスキルだ。それは〈飲食不要〉である。飲食物を得る必要がないため、完全なひきこもり生活すら可能とする凄まじいスキルである。実はこのスキル、ウェポン男子なら皆持っているものであり、恐ろしい女性から逃げるためにデフォルトで備わっている。聖也はそんなことも知らず日頃の行いが良いから獲得したと思っていた。だが、いくら飲食が必要なくともおいしいものを求めるのが人間の性である。
正直、どこに向かえばいいのかわからない。ニャーニャに聞く暇もなった。
――あのくそ女ども。
聖也はあの三人娘が大嫌いだ。本当は大義があるため横暴だったのかもしれない、というかそうだろう。魔王を倒すだのなんだの。
「〈疾風迅雷〉」
聖也は新たなスキルを発動した。そのスキル〈疾風迅雷〉は激しい風をまとい、己自身を雷そのものにする最高クラスのスキルだ。攻撃範囲もその破壊力も素晴らしいのだが、このスキルの最大のメリットは速さに集約されている。
「おヴぇヴぇヴぇっヴぇヴぇヴぇッヴぇヴぇヴぇヴぇヴぇヴぇヴぇっヴぇっ!」
スキルを発動させた直後にこれである。あまりの速さに変な声が出る。ただひたすらに直進する聖也。その途中岩などの障害物や魔物のようなものも何もかも蹴散らしていく。さらに洞窟に侵入し巨大なドラゴンのお腹も貫通し突き進んでいく。そう、聖也はこのスキルをオフにするのを忘れているのだ。さらに洞窟ごとぶち破り外に出て湖に辿りつき、その湖の中心にいた色鮮やかに輝く聖獣っぽい生き物も貫くどころかぶつかりそうになった刹那に溶かしてしまう。聖也の雷に耐えられなかったのだろう。その他巨大なクマやムカデ、いくつも頭のあるヘビなどを貫いたり蒸発させたりしてただ進む。
そして聖也はようやく静止した。どれほどの距離を移動してきたかわからないが高いところに城を見つけたのだ。その近くには城下町がある。ここに寄りたいと思って静止したのだ。
「いや、こうやって止まるのか」
ちゃんと止まることができて安堵する聖也。しかし、ここで頭を悩ませる。どうやって城下町に侵入するかだ。勇者たちから逃れるために壁を壊してきたが、ここでは被害にあったわけでもないためできる限り穏便に済ませたい。
――ここは正面突破だ。
隠れる必要はない。喧嘩をしに来たのではない。堂々としていれば良いのだ。城下町に入るための門に近づき門番に声をかける。
「あ、あのすみません、お、女の人に襲われて何ももっていないのですが入れてもらえませんか?」
聖也の格好は全裸――ストロング全裸スタイルである。門番のお姉さんは全身鎧であるが、顔を真っ赤にしつつも涙を流し、鼻水も垂れ流したままだ。門番のお姉さんは何も言わず着るものと少しのお金を渡してくれた。聖也の〈ホストの交渉術LVMAX〉が効いたのかもしれない。
「ようこそ、魔王カーミラ様の国ブラッドへ!」
「へ……魔王?」
黙ったままの門番のお姉さんがようやく話してくれたと思ったら予想外のことを口にしたのだ。
そのまま無言で歩いていく聖也。門番のお姉さんは、身分証としては各種ギルドカードなどが使えるとも言っていたし冒険者ギルドや生産ギルドのだいたいの場所も教えてくれた。しかし、問題はそれではない。問題はここが魔王の国であるとうことだ。聖也の〈疾風迅雷〉は速すぎた、進み過ぎた。いきなり敵国のど真ん中である。いや、聖也にとっては敵国ではないかもしれないが、聖剣としてこの世界に来てしまったのだから敵国かもしれない。勇者エリィ、聖女マリアンヌ、姫騎士リーリアたちにとっては敵なのであろうが、聖也には関係のないことだ。
無言で歩き続けていた聖也だが道行く人々の容姿の違いに戸惑う。だいたい人間と同じ容姿なのだがそれに加え、角が生えていたり、翼があったり、尻尾が出ていたり、耳が少しではあるが尖っていたりと個性豊かである。これはやばい。聖也は人間だとバレバレなのだ。その証拠に周りの人々は聖也を凝視しているようだ。その人々は女性ばかりなのだが……。
――これは悪目立ちしているかもしれない、急ごう。
聖也はそそくさと歩き目的の冒険者ギルドにまで辿りついた。勢いよく扉を開ける……などということはできずこっそりとゆっくりとまったりと扉を慎重に開ける。そのまま〈サイレントウォーク〉を発動し、他の冒険者たちに気づかれないように受付に辿りつく。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが……」
「はーい、え……?」
受付嬢は返事をすると同時に手に持っていた書類を落としてしまう。
「大丈夫ですか?」
「……」
聖也が心配して声をかけても受付嬢からの返事はない、まるで人形のようだ。
「は、もももももももももも申し訳ありません!」
ふと我に返る受付嬢。
「どうかされたのですか?」
「う、美しくて見惚れてしまいました」
「あ、ありがとうございます」
聖也のスマイルに受付嬢はメロメロだ。聖也の複数のホストスキルが火を噴いたのではないだろうか、常時発動だが。しかし、聖也も褒められ慣れていてもストレートな言葉に喜ばしく思う。
「あなたのほうこそ美人ですよ」
「あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ!」
最強のホストスマイルを聖也にぶちかまされ喘ぐことしかできなくなってしまった受付のお姉さん。よっぽど嬉しかったのだろう全身痙攣までしている。
「ほ、本当に大丈夫ですかー!?」
「ひゃ、ひゃい。冒険者登録れしゅね? そこの水晶に触れてからこちらに必要事項を記載してくだしゃい」
うまくしゃべれない状態の受付嬢をそのままにするのは心残りだが速やかに記載していく聖也。
「できました」
「ひゃーい」
必要事項を記載した書類を受付嬢に渡そうとしたとき、書類ではなく手をがっちりと握られてしまう。
――あ、握力つえぇぇぇぇぇぇーっ!
聖也は受付嬢の手をふりほどけない。
「あ……あの」
「ひゃ、すみません!」
受付嬢は手を名残惜しそうに離し手続きをする。
「こちらがギルドカードになります」
「ありがとうございます」
ギルドカードを受け取ったその瞬間、再び手を掴まれる聖也。
「ちょっ」
「説明をいたしますのでどうぞこちらへ」
一旦手を離し、受付のカウンターを飛び越え、手をもう一度握り、部屋に案内する受付嬢。受付嬢はなんだか呼吸が荒い。部屋に辿りつくとテーブルを挟み椅子に座らせる。その後受付嬢は向かい側の椅子に座る……のではなく聖也の隣に座りぴったり貼りつく。さらには聖也の肩に頭を乗せる。並の人間なら動揺してしまうところだが聖也には通じない。
「では、まずは冒険者ランクについてですが、最高ランクがS、その次がA、続けてB、C、D、E、F、Gとなっています。聖也さんはGランクからのスタートとなるはずでしたが、キングアースドラゴンなどの討伐記録があったのでAランクからのスタートとなります、すごいですよ、こんなに強い男性は見たことがありません、快挙です!」
そういえば〈疾風迅雷〉でいろんなモンスター倒してしまっていた気がする。だが、なぜ討伐の事実を知っているのか、まさか受付で触れた水晶が関係しているとは聖也は気付くことはなかった。
「ありがとうございます、冒険者は何かノルマはありますか?」
「ノルマはとくにないですが、依頼を失敗されますと罰金やランクダウンの可能性があります。依頼の内容は採取や討伐のクエストがメインとなります」
頬ずりまでしてくる受付嬢。そして腰に手をまわして、豊満なバインバインな胸を押し当ててくる。ここで思い返せば道行く女性も、勇者、聖女、姫騎士、ニャーニャなども全員バインバインであった。それは効率的に男性を捕食(合体)するために進化したともいわれているが、胸が魔力袋になっているからでもある。それ故溜められる魔力が女性はケタ違いであり、男性とは比べ物にならない強さがある。ただ、聖也のような例外はどこにでもあるが……。
「ほ、他になにか気をつけた方が良いことはありますか?」
「ふーっ! そうですね……パーティなどを組まれると生存率も依頼達成率もあがりますよ」
聖也の耳に一息吹きかけて説明してくる受付嬢。その他にもいろんなことを教えてくれた。政界情勢のこと、魔王のこと、自らのスリーサイズのこと、本当にたくさんのことを教えてくれた。自らはGカップだという受付嬢は、DやEカップは貧乳だと力説してくれた。
「ところで俺は人間なのにどうして差別されないんだ?」
至極当然の質問である。勇者は魔王を倒そうとしている人間なのだから、同じ人間である自分はここで身柄を拘束されたり牢屋に入れられたりしてもおかしくない。
「何を言っているの、あなたは“男”、つまり世界の財産なのよ!」
ついにこの受付嬢、頬にキスしてきやがった。それもすごい吸いつきで頬の肉を引きちぎらんパワーだ。
確かにこの世界は男が少ない。それゆえ魔王の国でも存在していて許されるのか。
「ちなみに人間の女は?」
「かーっぺっ! 死刑ね」
受付嬢は散弾銃のような唾を吐き床に穴をあける。よっぽど人間の女はダメなようだ。
――こ、こえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!
この世界、戦闘しない仕事に就いている者の方が強いのではないだろうか。
「〈ロック〉、〈サイレント〉」
唐突に受付嬢は二つの魔法を発動させる。それぞれ部屋からの脱出は不可能になり、室内の音が外には聞こえなくなる魔法だ。この魔法はいけないことをするためには習得しておくべき魔法である。
「え?」
「睦言をはじめるにはこの二つの魔法は必須です」
乱暴に聖也の衣服を剥ぎ取る。そして聖也のエクスカリバーを凝視した。聖也は必死に小さくしたエクスカリバーだが、それでもこの世界のほとんどの男よりも立派な剣である。
「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ、我慢できないわーっ!」
そういうと受付嬢は見事な跳躍をし、勢いよく急降下して聖也とドッキングを果たす。
「んあっ!」
それだけ言うと受付嬢は意識を失う。意識を失うと同時に二つの魔法は解除された。一撃で倒れてしまうとはなさけない、などと思ってしまうかもしれないが聖也のエクスカリバーが圧倒的故に仕方ないことなのだ。それに自ら勢いをつけた受付嬢が悪い。
聖也は自らの上に跨っている受付嬢をどかすとこの場を離れようとドアを開けると、向こう側には一人の女性が待ち構えていた。いうまでもなくその女性の胸部もばいんばいんだ。
「やっと終わったか、ここのギルドマスターのアグニス様だ、ちょいと俺の部屋に来てもらうぞ」
そのままアグニス様に連れられてギルドマスター室に入り椅子に座る聖也。アグニス様は自らのデスクに座る。
「単刀直入に聞くぜ? お前さんがあの光の正体だな?」
「なんのことかな」
聖也は必死に目が泳がないようにこらえる。まあ、無理なのだが。
「なに、責めてるわけじゃねぇんだよ。ギルドとしても魔王様に調査報告の義務があってな」
――あかんあかんあかんあかんあかんあかん……。
聖也はひたすら焦る。冷汗まで出てくる。何とかここを切り抜ける方法はないか、思考を巡らせる。
「勇者、聖女、姫騎士に襲われて逃げてきました……」
聖也の策、それはなにもない、だ。素直に言うのが一番であるというか思いつかない。
「な、やはりパンパーンからきたのか! あの光はそこからこの国に向かって来ていたからな。改めて聞くが光の正体はおまえさんだな?」
「た、たぶん俺のスキルだと思うな……」
自信がないのでこのように述べる。
「『多分』か……スキル名はなんていうんだ?」
「〈疾風迅雷〉だけど」
「な、なんだって?」
「だから〈疾風迅雷〉!」
「それは伝説の魔王様――かつて存在していた魔王様が使えた最強のスキルだぞ!?」
「ええええええええええええーっ!」
「とりあえず魔王カーミラ様に連絡させてもらう」
「アネ゛デパミ゛―っ!」
聖也の咆哮はむなしくギルドマスター室に響き渡った。




