15挿入目
聖也がタマエゴゼンにグルグル巻きにされるよりも少し前のことだ。魔王と勇者がドンパチと戦いを始めて城中に轟音が響き渡り、聖也は困り果てていた。
「どうしろって言うんじゃー、安住の地はないんかー、戦乱かー、この世界はっ!」
聖也は少しノイローゼになっていた。いつまでたっても平和が訪れないからだ。元の世界でもたくさん女どもに追いかけまわされ慣れてはいる。しかし、この世界は元の世界を超えるほどの戦いがある。それは魔法やスキルのせいだ。まず、威力がケタ違い。元の世界には魔法やスキルなんて存在しない、あるいは可視化されていなかった。なかなかの規模の破壊が起こりやすいのだ。今、城が破壊されているのもその証拠だ。
「こーんこんこん! こんにちは」
聖也が悩み苦しんでいると、どこからともなく誰かが話しかけきた。
「え、あなたはタマちゃんさん?」
「タマエゴゼンね? ちゃんと覚えてね?」
「どうしてここに? 戦場に向かったんじゃ?」
「それはこうするためよーっ! 〈帯縛りの術〉」
「ぐっ、動けないっ」
「こーんこんこん、〈帯縛りの術〉はスキルや魔法を一定時間封印できるの」
「え、なにその卑怯な技。そもそも縛って何がしたいんだ?」
聖也を拘束した後、聖也の頬を舐めタマエゴゼンはこう答える。
「あなたを連れて逃げるのよ」
「あ、魔王様に頼まれたんですね」
「違う」
「え?」
タマエゴゼンの行動は、てっきり聖也にべた惚れな魔王に頼まれてのことだと思っていた聖也だが、予想とは異なる回答が返ってきた。
「ここまでおおきな戦争になったら、流石にバカな魔王でも気付くでしょう」
「え、なにが?」
「こーんこんこん、あなたも魔王と同じでバカなのね。わっちが人間たちとの戦争を引き起こしたでありんす」
「え?」
ハトが豆鉄砲を食らったような顔になる聖也。
「こーんこんこん、人間の男を誘拐し、更に獣王国の男も誘拐し、男娼館を経営していたのはわっちでありんす、ふぉっくすくすーっ」
「な、なんだってーっ?」
あまりの事実にありきたりな反応を示す聖也。そもそも男娼館なんてあったのかと聖也は驚く。もちろん男娼館といっても、この世界ではそれは厭らしいことに該当するものではない。なぜなら男のアソコはウェポンだからである。ただ、両国の争いの火種を作った張本人がタマエゴゼンだということは本人の言動から明らかであった。
そして現在、勇者エリィに吹き飛ばされて魔王レオネが、タマエゴゼンに連れ去られそうになっているところにやってきた。
「おまえなにやってやがるんだ?」
「こっこん、えー、あー、んー、そうでした聖也さんを安全なところに隠さなくてはと。その際に聖也さんに抵抗されましたのでまきまきしたでありんす」
「ちがっ、んーんーんー」
魔王レオネの問いに対してタマエゴゼンはなんとか嘘を紡ぎ出した。聖也がそのことを否定しようと話そうとしたら、帯が口にも絡みついてきて口を塞ぎうまく話すことができない。首を横に振ることがせいいっぱいな聖也であった。
「本当にそ――」
「――魔王止めだ!」
レオネが問いただそうとしたその刹那、勇者が止めを刺しにきた。
「なんのっ!」
しかし、魔王はその攻撃を軽く往なす。
「なっ! なぜここに聖剣がっ」
ここでようやく勇者も聖剣の存在に気づく。
「んーっんっ」
聖剣である聖也が何かを伝えようとするが帯が口すら塞いでしまい何も伝えることができないのは相変わらずである。
「貴様ら、勇者であるわたしの聖剣を奪うとは言語道断、恥を知れ、卑怯者!」
「なっ、無理矢理聖剣を犯した変態勇者に言われたくないね。それに全然聖也を使いこなせず、あげく逃げられたへっぽこ勇者がっ!」
魔王レオネはとっさに言い返す。それに対し顔を真っ赤にする勇者エリィ。
「〈疾風迅雷〉!」
その時だった。突如として部屋が雷光につつまれる。聖也がスキルを短めだが発動させたのだ。その結果、タマエゴゼンの〈帯縛りの術〉を打ち破り、身体が自由となる。
「ば、バカな、わっちのスキルが……」
対象の魔法やスキルまで一定時間封じる凶悪な拘束スキル。そんなスキルが聖也のスキルに敗北したのだ。しかし、厳密には〈疾風迅雷〉に敗北したのではないのかもしれない。なぜなら聖也の耐性が高くそもそもスキルや魔法が発動できた状態であった。だが、〈疾風迅雷〉は特別なスキルであり、スキル封印をされた状態ですら発動できるスキルである。
「レオネっ! こいつが人間と獣人の男を攫っていた黒幕だ!」
レオネに真実を告げる聖也。
「タマエゴゼンてめえーっ!」
「こーんこんこんこんちくしょーっ、バカな魔王でしたよあなたは」
「え、どゆことは?」
怒る魔王。魔王をバカにするタマエゴゼン。状況が飲み込めず目を丸くしてしまう勇者。
「おい、変態勇者、こいつが男どもを攫ってたんだよっ!」
魔王が勇者に答えを教えてあげる。レオネは面倒見が良いのだ。
「雪は〈コンコン・ブリザード〉」
タマエゴゼンの魔法により部屋中を猛吹雪が襲う。これほどの力があったのかと驚く一同。レオネに対しても力を隠していたのだ、その狡猾さはまさにキツネといったところか。
「ぐっ、〈フォースフィールド〉」
勇者は自身と、魔王レオネ、聖也を守るバリアを展開する。
「おい、おまえ、どうして俺たちを?」
敵であったはずのレオネまで守ってくれたエリィに対しストレートに疑問をぶつける。
「ずっと黒幕の存在に気づかず争っていたのか……それならお前は敵ではないだろう」
「勇者……奴を捕まえるぞ!」
「言われなくとも!」
ここにきて敵同士の共闘である。熱い……といいたいところだが聖也だけ置き去りにされてしまった。なんだか取り残され悲しい気持ちになる聖也。負けじと何かできないかと思案する。その結果ある考えが浮かんだ。
「【一心武装】!」
鞘入りの儀を経て、かつ、愛がある又は気持ちが一つになった場合の答えは “一心武装”である。それは絶大な力を得るものだ。勇者はこの【一心武装】のために鞘入りの儀を強行していたのが功を奏する。もっとも無理矢理鞘入りの儀を行ってもほとんど成功することのないことなのだが、今回は共にタマエゴゼンを倒したいという気持ちが同じだからである。つまり、気持ちが一つになったのだ。それによって聖也は【一心武装】を成功させたのだ。
「え、あ、えーっ!」
聖也が勝手に発動させたため戸惑うエリィ。だが、これで勇者としての本領を発揮することができる。【一心武装】によってエリィは外套・羽衣を纏う。防御力と機動力が増し飛翔することを可能とする。
「エクスカリバーよ、力を貸してくれるのか」
そしてなによりも驚愕すべき点はエリィの手にしっかりと聖也のアソコ――エクスカリバーが握られているということだ。人間の身体の部分がなくなって剣の部分のみになった聖也。これによって思う存分エリィはエクスカリバーを振うことができる。エクスカリバーの剣身は言わずもがな美しく人々を惹きつける。
「ふんっ!」
エリィは一振り、ただ一振り、タマエゴゼンに向かってエクスカリバーを振り下ろす。するとバカでかい斬撃が強い光をまとい城を破壊しつつタマエゴゼンに直撃したのだ。
「かはっ」
タマエゴゼンはあまりの斬撃の速さに避けることもできず外にまで押し出された。その姿は血だらけでボロボロである。
「はあああああああっ!」
外に出されたタマエゴゼンに止めを刺してこの戦いに終止符を打つため、再度斬撃を放つ勇者。
「〈アイス・ザ・ワールド〉!」
エリィが放った渾身の斬撃によって、タマエゴゼンを討ち取ったかのように見えたのが……。
「なんだこれは?」
思わず口に出してしまうエリィ。それは無理もない。なぜなら辺り一面全てが白銀の氷の世界になっていたからだ。
「こーんこんこん、こんとらすと、ここはわっちの世界。もうあんさんには勝機はないどすなあ、ソード」
タマエゴゼンの言うとおりここはタマエゴゼンのスキル〈アイス・ザ・ワールド〉が作り出した別空間だ。この別空間・世界ではタマエゴゼンが絶対的な強さを得る。先ほどの強力なエリィの斬撃すら防いでみせたのが証拠だ。「ソード」と言うと、空中に無数の氷剣が出現した。それはこの世界を埋め尽くさんばかりの数であり、無数は無限に感じられる。この創造能力によってエリィの斬撃を防いだのだろう。その氷剣が嫌な音を立ててエリィの方向に一斉に向き始めた。
「うそだ……」
エリィがその言葉を口にしたとき、ちょうどタマエゴゼンは氷剣をエリィに対して全て降り注がせた。
「くっ」
超高速で剣を振い次々と氷剣を叩き落としていくエリィ。しかし、無限に感じられるほどの氷剣は一向に減ることを知らない。タマエゴゼン、彼女は氷剣の魔術師だとでも言うのだろうか。
「かはっ」
そしてエリィは氷剣をさばききれなくなり右肩を貫かれてしまった。そのまま痛みが走る間もなく次々と氷剣に貫かれていく。そしてびっしりとエリィは氷剣で埋め尽くされてしまった。これは死亡確認する間もなく死んだと思われる。
「こーんこんこん、こんぱくつ」
「ふんっ」
勝利を確信し髙笑いをしていたタマエゴゼン。だが、眼前で氷剣に埋め尽くされていたエリィが、まばゆい閃光とともに氷剣をすべて吹き飛ばし無事な姿を現す。
「ばかな、あんなの即死でしょうがっ!」
思わず鋭くツッコミを入れるタマエゴゼン。この場に他の者がいたら同じくツッコんでいただろう。だが、即死どころか全くの無傷で立っていたのがエリィである。
――なんか生きてたー。
エリィは心の中でそう思っていた。本当は肩を貫かれた瞬間「あ、おわたー」と思っていた勇者エリィなのでした。
「ふっ、わたしがこの程度で? 馬鹿も休み休み言いたまえ」
内心とは全く違う言動で強がってみせるエリィ。
「勇者あああああああっ! ソオオオオオオオオオオオオードッ!」
再び氷剣を創造し勇者に向けて手当たり次第射出する。先ほどと同じように最初は避けたりエクスカリバーで叩き落としたりするのだが、次第に捌き切れなくなり再度身体を氷剣で貫かれ全身氷剣だらけになってしまう。
「ふんっ」
「えっ?」
エリィは再び鼻息を荒くしただけで自らに突き刺さっている氷剣を閃光と共に軽々と弾き飛ばす。勿論無傷だ。そのからくりはエクスカリバーと【一心武装】にあった。【一心武装】に至ると様々なスキルを得たりするが、武器ごとに得られるスキルは異なる。エクスカリバーなら得られるスキルはたくさんあるが、エクスカリバーを最強の武器たらしめるものとして〈不死身〉がある。この〈不死身〉によってエリィは死なない無敵の状態なのだ。ただこれでは守りが最強でも攻めは最強ではない。しかし、聖也はただのエクスカリバーではない。
「私に力を貸してくれエクスカリバァァァァァーッ!」
『おうよっ、〈疾風迅雷〉!』
勇者エリィが剣を振うとそれに呼応し聖剣聖也がスキルを発動させる。圧倒的攻撃力と移動速度を誇る聖也最強のスキルだ。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
氷の世界が一瞬にして雷の世界へと変わる。雷によって氷の世界はガラスのように音を立てて崩れ去ってしまう。これによりエリィたちは元の空間に帰ることができた。
「終わったんだな」
勝利の時である。ようやく安堵したエリィ。そして【一心武装】は解除され、聖也も元の姿に戻る。
「なにも終わってないぜ? お前の戦いはこれからだ。城の修理費よろしくな勇者!」
「えっ?」
元の空間に置き去りにされていた魔王レオネからのお城の修理費請求が勇者に襲いかかる。勇者エリィは顔をひきつらせるのであった。勇者の戦いは、今、始まったばかりだ。負けるな勇者エリィ、お前の肩には人類の命運がかかっている。




