14挿入目
勇者エリィ、姫騎士リーリア、聖女マリアンヌたち率いるパンパーン軍は獣王国に向けて進軍していた。なぜ進軍しているかというと、単純に言ってしまえば貴重な男が攫われたり言いがかりをつけられたりしたからだ。おまけに最近では遠距離魔法攻撃を受け、城壁などはボロボロ。進軍中の勇者たちの表情は暗い。
「くっ、聖剣さえあれば……」
「諦めよう」
「そうは言うけどもあれさえあれば魔王レオネの暴挙など一振りで終わらせることができたにっ!」
勇者の悔しそうな姿は何度も見てきた。それを何度も宥めているのが姫騎士リーリアや聖女マリアンヌだ。
「私たちが聖剣を発見した時、既に獣人に捕まっていただろ聖剣は? あの聖剣が獣王国の手に渡っていなければいいが……」
案の定、聖剣は獣王国に存在している。
「あの猫獣人、どうやって忍び込んだんでしょう?」
「おそらく冒険者ギルドのコネだろう」
「あー確かに。冒険者ギルドは国の直轄ではなくて全ての国にあるし、それでいて国は介入できない」
三人娘は猫獣人がどうやってパンパーンに侵入してきたのかだいたい答えを得ていた。そもそも聖也の目の前でニャーニャを消したのは、敵国の者が勝手に侵入にして、大事な聖剣に近づいていればあたり前のことである。聖也はそのとき全くそのことに気づかなかった。ただ平和ボケした世界からやってきた聖也には刺激が強すぎたのだ。
「そろそろ着くぞ」
戦場に辿りついた。既に獣王国の敵軍も集まっていた。数万はいるだろう。少しパンパーン国の人数が劣る気がするが戦力では劣っているとは思えない。戦場に辿りついた瞬間、互いの国々は遠距離や中距離の魔法が入り乱れる。戦争にルールなど無用である。そもそも進軍中も互いに遠距離魔法で攻撃していたくらいだ。ただ、遠距離魔法や広範囲魔法はバカみたいに魔力を消費してしまうためそんなに連発できるものではない。
「突撃ーっ!」
姫騎士の部隊は突撃し近距離戦闘を開始した。姫騎士リーリアは剣や槍を用いた近接戦闘を得意とするためだ。魔法を使用する戦闘以外ならば勇者よりも強いと噂されるほどである。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ! 〈プリンセス・スラッシュ〉!」
姫騎士が唸り声をあげ必殺剣技の一撃を放つ。瞬く間に敵を斬滅していく姫騎士リーリア。敵が――獣王国の者たちが為す術もなくバターのように次々と切り裂かれていく。これは獣王国の者たちが弱いわけではない。姫騎士が強いというのは噂ではなく実際に強いのだ。そもそも姫が姫騎士を名乗るためには、様々な拷問や凌辱に耐える鋼の精神、あらゆる攻撃魔法やスキルを跳ね返せる屈強な身体が必要である。そう、彼女にはそれらが備わっている。国家転覆を狙う輩どもを何人も姫の手で処刑してきた。今回、この戦争で魔王すら仕留めるつもりでリーリアはこの戦場に立っている。
「ほう、よくも部下たちを屠ってくれたな」
リーリアの快進撃を止めようと立ちふさがる者が現れた。
「貴様はニャスペっ!」
「名前を知られているとは光栄だね姫様」
「なぜこのような惨いことをする獣王国はっ!」
怒りを混ぜた渾身の一撃がニャスペを襲う。
「ふん、それは貴様ら人間の方だろうがっ!」
今度はニャスペの強力な一振り。互いの刃と刃が幾度となくぶつかり合うがどれも決定打には至らない。
一方、聖女マリアンヌは後方から遠距離攻撃魔法や補助魔法で支援していたのだが、それに対し接近戦に持ち込もうと獣王軍が迫りつつある。そのため後退せざるを得ないマリアンヌであった。簡単に言えばマリアンヌ側は押されていたのだ。ただ、速やかに勇者が魔王を倒してくれればと、その一心で持ちこたえていた。
姫騎士と聖女の位置から更に離れた最前線。かなり獣王国寄りの場所――城近くまで勇者は攻め込んでいた。魔王の首を取りに来たのだ。勇者は一騎打ちをするために幾人もの獣人の猛者を蹴散らしここまできた。パンパーンの者でこんな芸当をできる者は勇者か宿屋のあのお姉さんくらいであろう。
「〈サンダーボルト〉」
勇者の雷魔法が炸裂した。ついに城壁をぶち破り城内にまで侵入を果たす勇者。ド派手な侵入なのはかっこいいが、もっとスマートにばれないようにできないものなのか……。
「侵入者だーっ! 奴をこれ以上いかせるなーっ!」
勇者はいとも簡単に発見されてしまいすぐに取り囲まれてしまう。
「やっちまええええええぇぇぇぇぇっ! 袋の鼠だっ!」
「〈ホーリー・ライトニング〉!」
一斉に勇者に向かって飛びかかる獣王国の兵士たち。しかし、勇者は強力な魔法を発動し全て倒してしまった。その魔法は光属性と雷属性の複合魔法であり、光属性と雷属性は親和性が高く威力が増す。これほど強ければエクスカリバーなど必要なかったと思えるほどにだ。
そのまま次々と獣王国側の者たちと破竹の勢いで蹴散らし、勇者はついに玉座の間に辿りついた。玉座には威風堂々と座す者が存在した。その者、美しいプラチナブロンドを靡かせているが、それは城内であるにも関わらず風通しが良すぎるためである。どこぞの勇者が城を破壊しながら突き進んできたため、城が穴だらけにされてしまったのだ。
「おいっ、勇者って奴は礼儀も知らねーみてぇだな」
「ふんっ、魔王に礼儀など必要あるまい?」
魔王レオネの言葉に冷たく返す勇者エリィ。その直後、互いに急接近し剣と剣とが激しく衝突しあう。
「なんでこんな酷いことができるんだ、魔王っ! 奪った男たちを解放しろっ!」
「なに舐めて事を言ってやがる腐れ勇者! 貴様らがこっちの男どもを誘拐したんだろうがっ!」
両者ともに自国の男たちが攫われたことを主張する魔王と勇者。互いに被害者であることを述べ一歩も引かない。戦争の理由が男を取り合ってなどくだらないと思われるかもしれないが、本当に重要なことなのだ。なぜならこの世界、男が異常に少なくなってしまっているため非常に男の価値が高い。子作りとしての需要も根強いが、男を手に入れた女というのは勝ち組にみられる。つまり、喪女ではない証明になる。女のプライドはここに集約されていると言っても過言ではない。
「〈シャイニング・フレア〉」
「〈獣王連撃掌〉」
勇者の光属性と火属性の高火力複合魔法が魔王へと襲いかかるが、魔王はそれに対して剣を仕舞い拳で打ち消してみせる。しかし、あたりのガラスは耐えきれずに全て吹き飛んでしまった。
「ったく、人の城をなんだと思ってやがるっ!」
再び魔王も剣を手に取り勇者と凄まじい剣戟を演じる。あまりの剣戟に城が壊れていくのだが本人たちは城に配慮できるほどの余裕がない。そもそも魔王は外で戦いたかったのだが、勇者が攻め込んでくるのが速すぎて猶予がなかったのだ。そして獅子特有のプライドの高さからか、玉座の間で待っていましたアピールをすることにした。この事実を勇者に知られなくて本当に良かったと魔王レオネは思っている。
「〈シャイニング・セイクリッド・ソード〉」
あたりを聖なる光が包み込む。神速の斬撃がレオネに迫る。
「ぐあああぁぁぁぁっぁぁっ!」
直撃したレオネは思わず悲鳴を上げる。その斬撃によって吹き飛ばされたレオネは部屋の壁を突き破り、更にいくつもの部屋の壁を突き破り遠くの部屋へと飛ばされる。
「え?」
吹き飛ばされた先の部屋でなんとかゆっくりと起き上がるレオネ。だが想像にしなかった光景を目の当たりにして思わず声が漏れてしまった。
「こん……?」
なんとタマエゴゼンが聖也をグルグル巻きにして抱えていたのだ。




