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12挿入目

 聖也は「こちらですよ」と言われて、その方向を見た。衝撃の人物がそこには存在したのだ。その衝撃が凄まじいのは、その者が木から上半身だけ生えていて話しかけてきたからだ。その者ははっぱ隊とは違い大事な部分だけはっぱで隠しているといった格好ではなく、上半身だけ見えているのでわかりづらいがドレス姿だ。

 ――あなたはとか言ったけど、さ、さっぱりわからん。

「お久しぶりですねバアル様」

 ――なんか俺のこと知ってるっぽいし“バアル”呼びしてくるし、知り合いっぽい……

「え、ええ」

「ふふ、ラグナロク以来ですわね」

 ――あーあの魔王の誰なのか、思い出して来たような……

「アララさんお元気そうで」

 なんとか答えを導き出す聖也。

「バアル様、いえ、聖也様と呼んだほうがよいのかしら? 」

「せ、聖也でお願いします」

「ふふふ、聖也様ですね」

「そ、それでは……」

「お待ちください、聖也さまは我々の大事な木々を破壊し、あまつさえユグドラシルを破壊しましたね?」

「ユグドラシルとは?」

「あちらにあったはずの大きな木のことですわ」

 指を指された方向を見ると聖也が先ほど逃げてきたところだった。

「なんとか見逃してもらえませんか……?」

「莫大な損害賠償を請求しなくてはなりません、だめですよ、スキルを使って逃げるのは」

 スキル使って逃げようかと考えたのが読まれ動揺する聖也。なんだかお顔が怖いアララさん。

「わ、わかりました」

 損害賠償、警察、裁判、逮捕、こういった言葉に案外ホストは弱い。しかし、最強は税務署だ。ホストは彼らの前では無力でしかない。ちゃんと納税するしかないのだ、脱税ダメ絶対。会社経営者だって国会議員だって脱税すれば袋叩きだ。

 結局そのまま魔王アララに腕を組まれながら魔王の城があるところへ連行された。魔王アララは自然を愛し平和を愛することで有名である。さぞ緑豊かで美しい光景が広がる場所に魔王城があるのだろうと聖也は考える。しかし、そんな淡い期待はいとも簡単に裏切られることになる。

「いつになったら辿りつくのですか?」

 いくら歩けども歩けども辿りつかない。だからこその質問だ。そんな質問にニコッと愛らしい笑みを浮かべるアララ。

「もうすぐですわ」

 その言葉を信じて必死に歩き続ける。だが、2時間も歩いてもいっこうに辿りつかない。流石におかしいと思う聖也だが、アララは相変わらず笑みを浮かべているだけだ。

「ねえ、アララさん嘘をつくのはやめませんか? 」

「なんのことかしら?」

 しらばっくれるアララ。口笛を吹き、目を露骨に逸らす。

「いつまでも城に辿りつかないようにして何を考えているので?」

 聖也のストレートな質問にたじろぐことなく凛としてこう返した。

「こうやって男性とお散歩することが夢でしたの、わたくし……嬉しくて……つい……」

 もじもじしながらのアララは美人なのにとってもかわいらしい。

「ゆ、夢なら仕方ない……だけどそろそろ城に行きませんか?」

「ぶーっ」

 顔を膨らませたアララだったがようやく観念したのか同意してくれたようだった。指をアララが鳴らすと辺り一帯不思議な霧に包まれた。

「へげええーーーーっ!」

 聖也の叫びが辺りに響き渡る。それもそのはずだ。いきなり眼前に城が現れたのだ。しかし、それよりも驚愕すべき事実がある。

「さあ、お城ですわよ」

「あ、あ、あ、あの……なんでこんな近未来なんですか?」

 そう、自然を愛するアララの城としてはあまりにも似つかわしくないのだ。その城はあまりにもピカピカしており機械感満載の城はファンタジー世界のものというよりはSF世界のそれに見えるのだ。そして城下町の方を見渡すとこれまた発展のレベルが違う。謎の高層ビル、謎の転移装置、謎の生命体、謎のマスコット、謎、謎、謎……。

「あぁ、マキナさんが技術提供してくださっているんですのよ」

 ――あのロボっ子みたいな奴かーっ!

 納得のいく回答を得て謎が少しは解消された聖也であった。そのまま案内され城内に入る聖也だが、思った通りのハイテク感全開の空間が広がっていた。

「あの……本当に自然が好きなんですよね?」

「はい、大好きですわ」

 即答であった。しかし、その答えと目の前の光景は違うように思えてならない。

「本当の本当に好きなんですよね?」

「本当の本当に好きですわ」

 再度尋ねたが答えは変わらずであった。




 あれから何日にも渡り、聖也とアララとの苛烈な戦いが繰り広げられている。その戦いとはユグドラシルを破壊した損害賠償についてだ。

「では30億アララでどうでしょうか? これなら最初の提示額の3割くらいですわ」

 そう、最初はこの3倍は要求されていたのだ。しかし、聖也の交渉術でここまで下げさせたのだ。

「そもそもその“アララ”って単位がわからないんですが?」

「この国の通貨単位でして、光栄なことにわたくしの名前が用いられています」

「も、もっていない……」

「……でしたら他の何かで支払っていただく必要がありますわ」

「たとえば……?」

 主導権を握られ不利な状況に追い込まれる聖也だが、一筋の希望を求め恐る恐る質問する。

「わたくしと結婚するとか」

「なっ!?」

 聖也はその言葉で前世を思い出す。女とはあの手この手で婚姻しようとしてくるのだ。とある日には郵便配達のふりをして婚姻届にサインを、またある日には聖也を誘拐し婚姻届を書かせてきたり、またあるときはサインもなにもしていないのに婚姻届を勝手に申請して婚姻しようとする、それが女だ。ここで注意してほしいのが婚姻届は“届”とついてはいるが、“申請”である。“届出”は行政庁に対し通知する行為である(法令により直接通知が義務付けられているもの)。“申請は”法令に基づいて行政庁の許可認可免許その他の自己に対し何らかの利益付与する処分を求める行為であって、それに対して行政庁が諾否応答すべきとされているものである。単純に届出するだけのものは申請ではないのだ。なお、申請である婚姻届が勝手に出されても、互いの婚姻意思がなければ無効である。なんやかんや裁判所に申し立てたりすることなどは手慣れているのが聖也だ。そうやって結婚――婚姻から逃れてきた聖也は今回どのようにして難を切り抜けるのか。

「考えさせ……」

「だめです、今すぐに答えて下さらないと損害賠償の額を増やしますわ」

「ぬーっ!」

 ――この女、交渉慣れしてやがるっ!

「あなたはそれで良いのですか? 婚姻とは好きな者同士がするべきものとわたしは考えていますが」

「はい、わたくしは愛していますわ」

「わたしはいろんな女に襲われ汚れた身です。やんごとなき高貴な身分であらせられるアララ様にはわたしは相応しくないかと?」

「どんな聖也様でもわたくしは愛しています、過去、現在、未来全てのあなた様を。それに聖也様を襲った女どもはすべて始末し、過去を清算してご覧に入れましょう」

 ――え、なにこの人かっこいい。

 迂闊にも魔王アララにときめく聖也であった。つい、頬を赤くしてしまう。




 結婚式を行う場所といえば教会である。その教会とやらが魔王アララの城内には存在する。そもそも“教会”とは聖也の元いた世界では信仰する場所であった。では、魔王アララは城内にこんな場所を持ちいかなる神を信仰しているのだろうか。正直、聖也の出会った女神様ではないこと祈るばかりだ。そんなアララの城内の教会では、今、結婚式が執り行われようとしていた。

「なななんじーーーーーーーっまおうあららは、このものせいやを、すこすこすこてぃっしゅなときも、ら、ら、らめなのーなときも、かなちゃんによこやりいれられたときも、とめにいやがらせされたときも、まじあいし、ついでにうやまい、ひとりでなぐさめたりせず、ふたりでつねひごろぱんぱんしー、たすけなしー、いのちもえつきるまでこづくりすることをちかいますか?」

 やたらと具合の悪そうなアルラウネのシスターが誓いの言葉口にした。言葉がところどころプルプルしている。こういう誓いの言葉を言うのは男性のイメージが強かったが、この世界では男性が極端に少ないため、また、信仰している神が違うためこのような形なのだ。それにしても誓いの言葉の内容はもう少しなんとかならなかったものか……。

「誓います」

 即答のアララ。微塵の迷いなど存在しない。しかし、誓いの言葉の違和感を唱えてほしかったものだ。本当にその誓いを守るのだろうか。

「なななんじーーーーーーーっせいやは、このものまおうあららを、すこすこすこてぃっしゅなときも、ら、ら、らめなのーなときも、いんぽてんつなときも、ほかのおんなにおかされたときも、まじあいし、ついでにうやまい、ひとりでなぐさめたりせず、ふたりでつねひごろぱんぱんしー、たすけなしー、いのちもえつきるまでこづくりすることをちかいますか?」

 シスターは聖也に対しても謎の誓いで攻撃してくる。聖也には攻撃に感じられたのだ。聖也は多額の侵害賠償金の代わりにこの望まぬ結婚をするしかなく、しぶしぶこの結婚式場――城内の教会に新郎として存在する。元いた世界であればいろいろな伝を頼りに難を逃れたかもしれないが、ここは聖也にとって異世界である。まだまだ知らないことがたくさんあり対応しきれないのだ。

「は――」

「――その結婚ちょっとまったーーーーーっ!」

 聖也が誓いそうになっている最中、そのヒーローは颯爽と教会のガラスをぶち破り姿を現した。少女マンガのように『トゥクン』だの『トゥンク』だの心臓が高鳴る聖也。この世界はやたらと男らしいというか、理想の男のような女性が多い気がする。

「誰だ貴様はーーーっ!」

 魔王アララはいつものような丁寧な口調ではなく、怒り高ぶった男らしい口調で結婚を妨害しに来た謎の者に問う。女性の晴れ舞台――結婚式を邪魔されたら荒ぶらずにはいられない。憤怒と邪気がまじったオーラまで可視化されつつある。本当に怒り狂っていた。


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