9. 絶叫! フランの荒療治
「このポーションを傷に塗れば直ぐに治るはずだ」
フランが傷口にこぼしたポーションは、みるみる傷を塞いでいった。
「ここまで早いとは……凄まじい」
「もう……」
途中から相模のセリフは聞こえなくなった。
「どうした?」
「もう散々だよ!って痛てててて」
相模は肩を抑える。その様子を見たフランは肩の骨折にも効くか試した。だが何も起こらない。
「患部に直接かけないといけないようだ」
その言葉を聞いて相模は嫌な予感がした。
「やめて……」
フランはニヤリと笑う。
「簡単だ。傷口を露出させればいい」
相模は青ざめ冷や汗をかきだした。
「そんなに苦しいのか。今すぐ楽になるさ」
「違うよ!何する気!」
そう言うと、フランは剣を振りかざした。
「直接触れたら治るが骨折は奥深すぎて効かない……なら傷を表面まで広げればいい。簡単なことだったんだ」
「来ないで」
「私の剣捌きは早いさ……多分」
「私のそばに来るなーーー!」
だがフランは冷静に肩を抉る。
「あがあああぁぁぁぁぁあ」
相模の絶叫が貨車に響き渡る。だがそんなのは気にも留めずフランは開口部を広げていく。
「あとは押し込んでこじ開けてと」
肩甲骨辺りが開拓されていく。
「おああああああああああああ」
取り乱す相模を尻目にフランは冷静にポーションを傷口に注いだ。
「がはああああああああ」
相模はあまりの激痛に身体をジタバタさせるがフランはお構いなしに押さえつける。傷はみるみる癒えていくが相模は意識を失いかけていた。
「ヒーッヒッヒーー」
「ふふ、医者いらずだな」
フランは自画自賛するが相模は必死に這いずり逃げようとした。
「ゴヘゴヘッ!に、逃げなきゃ……命……足りない!ゴホゴホ……」
「どこへ?」
「極端すぎる……」
「これでへばっていてはここでは生きていけないよ」
「ああ……帰りたい」
相模は事切れたように動くのを諦め意識朦朧の中で故郷を懐かしむ。
「帰る……サガミはどんな世界に住んでたんだ?」
「そりゃ至って……普通の……」
相模は思い出そうとするが大雑把なことしか思い出せなかった。世界観などは思い出せるが身近なことが一切記憶にないのだ。
「ダメだ。よく思い出せない」
「先ほどの臨死で忘れたのか?」
「正直肩をこじ開けられた方が精神にきたよ」
「だがこれで治療費はいらない。大した金も無いだろ?」
お金のことを思い浮かべると相模はお先真っ暗になった。
「これ売れない?当たらないし」
「そんな銃は誰も使わない」
「なんで?」
「火薬より魔力の方が便利なんだ」
「この世界魔法が強すぎる!」
相模は改めて世界の違いを思い知った。元の世界で使われていたものの大半は魔法でどうにかしている世界なのだ。
「魔法は無い。人脈も、土地勘も!やって来たのが間違いだ……素直に死ねばよかった……」
「だが嘆いても何もない」
「このまま必死に生きるか、必死に死ぬか……」
「それが問題になるというのか?それとも一度死んで転生を狙うか?」
「!?」
相模は全身に寒気を感じで距離を取った。
「生きたいなら選択は一つ。それにはまず行き倒れの身分証の回収だな」
「身分証……」
今度は別ベクトルに話の雲行きが怪しくなり相模はたじろいだ。
「この世界には害獣がいるのは分かるだろう?」
「あの狼みたいなやつとか?」
相模は来てすぐ襲われた光景を思い出した。
「ああ……だから戦えるなら討伐依頼で稼ぐのが早い」
「熊とかに役所が二束三文で出すあれか」
「そして依頼を受けるのは大きく分けて二箇所。役所とそれ以外」
「以外ってどこ?」
「警備会社や探偵社……酷いのだと裏社会か……」
「うわぁ……絡でもない」
「ただ羽振りはいいし身分証見ないだろう」
「いかにもアウトローって感じ」
相模は考え込んでしまった。当たり前だがいきなり危険な香りのするところに行く準備など出来る者の方が少ないだろう。
「一つ質問いいかな?」
「なんだ?」
「フランの身分証で役所の依頼を受けられないの?」
フランはニヤリと笑いながら身分証を取り出す。
「これで依頼を受けられる。だが手数料は高いぞ」
「盗みとか平気でやるのに金にがめついね」
「え?……そうか?」
キョトンとした顔でフランは相模を見つめる。
「自覚が無いマジもんだ……」
「こ、これぐらい普通……そうだろ?」
その様子は明らかに動揺していた。
「こんな厳重な魔法陣を破ったのに?中身を盗んで売りさばくつもりだったよね?」
フランは言葉を失った。盗みなど日常と思わない人物を始めてみたからだ。
「……なるほど。ならば……」
フランは相模に近づく。
「え?何?」
「話術がうまいな。ではもっと面白いことを!」
フランは相模に近づき、囁いた。
「異世界からの来訪者……どこまで生き残れるか見届けよう」
「酷い目に会わされる予感……」
相模は背筋が凍った。フランは相模を危険な世界へと引きずり込む気満々だ。
「もう合ってるだろ?」
「……」
「目標が決まれば話は早い。まずは依頼を受けに行こう」
二人は列車から飛び降りた。
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