5. 森をぬけて、山奥の村へ
その後は特にアクシデントも起きず街へと二人は近づいていった。
「言い忘れていたが異世界のことは隠した方がいい」
「なんで?」
「騒ぎになる」
異世界から人が来た!元の世界でも問題になるのは容易に相模でも想像できた。
「……確かに。じゃあどうすればいいの?」
「適当にがんばれ」
「酷い!まるで他人事!」
「会ったばかりの他人じゃないか……」
「そう硬いこと言わないでよ。ここで会ったのも何かの縁。きっと……この時代なら……神の思し召しだよ!うん!」
「その間はなんだ!明らかな後付けじゃないか!」
「少なくとも骨折った加害者じゃん!少しは助けてよ」
「確かに……何か手を考えてみるよ」
その後二人はは何もなく街に着いた。街に着くなり相模はちょっとした話題となった。
「そいつは?」
「途中で倒れてるのを拾った」
「こんな森の奥にまで余所者がか?」
「とんでもない方向音痴らしい。道中狼に襲われてたところを助けた」
「狼にボコボコにされたんか……よく生きてたな」
「腕はそこの人に折られたんだけど」
「?」
「戦いの途中誤って腕を折ってしまった……」
「いやあ、おっちょこちょいだね」
「ノリ軽くない?」
倫理観の緩さに相模は驚きっぱなしだった。
「しばらくこの宿屋で過ごしてくれ」
「しばらく?」
「医者の予定が取れるまで」
「いつもはいないの?」
「その必要はないからな」
「?」
「ところでこの後はどう食い繋ぐつもりだ?」
「それなんだよ。このままじゃ貧困生活まっしぐら」
「……まあしばらくは休め」
「分かった。ありがとう」
フランはどこかへとさり相模は一人になった。
「そういえば分析スキルがあったな……改めて使ってみよう」
手当たり次第に相模は調べ、そしてあることに気がついた。
「まずはこのデカいのから。えい!」
《デカいは強い!を地で行く棍棒。7.92×107mmの一撃で大方解決するが足らなければもう一撃!訓練用戦車など敵ではない》
「解説文が脳筋になってる!?」
最初に試した時よりも文章がくだけたような……分からせる気がなさそうな状態に変わっていたのだ。
「この拳銃はどうだろう……」
《引きこもりが発案した5M先まで届く鈍器。照準器は900Mまであるが銃の体裁を保つ飾りに過ぎない。》
「なんか辛辣。当てられる気もしないな……想像つくけどこの銃も」
《合理化を追求した消音器内蔵の工具。タイプライターなど時代遅れだ。》
「意味がわからない。最後はこの剣……」
《ただの棒》
「説明放棄!もしかしてスキルの精度が下がってる?怪力スキルも無いし……」
金属の塊4つは今の相模には重荷だった。力んでも念じても重さは変わらない。骨折のせいもありまともに使えるはずもなかった。
「さては不良スキルを押し付けやがったな……今日はシャワー浴びて寝るか……あるか知らないけど」
幸いにもシャワーはあった。だが出てくる水はやや濁っている。
「あるだけ有難いか……日本の水道が恋しいな」
そして翌朝。何者かがドアをノックした。
「ちょっと待って!」
扉を開けるとフランが立っていた。
「具合はどうだ?」
「昨日よりはマシ」
「悪化してなくてよかった」
「んでなんの用?」
「街へ行かないか?」
「街?」
「医者は待つよりこちらから出向いた方が早い」
「なるほど」
「それに働き口も見つかるかも知らない」
「……なんの仕事があるんだろ?」
異世界での求職。相模には不安の塊だった。
「昨日話した魔物だが退治して稼ぐ道が一応ある」
「もしかしてギルド?よく小説でみるやつかな」
「よく分からないがそちらの世界にも魔物退治はあったのか」
「あってたまるか!そもそもいないよ」
「よく分からない世界だ。まあ働き口は街の方が多い」
相模は地域ごとの最低賃金を思い浮かべた。いつの時代も三大都市は金額の上位層だ。
「きっと給料も都市の方が高いよね」
「当たり前だ……だが物価も」
「あれ?相殺されて終わり?」
「でもここでは仕事を探せるないだろ?」
相模は降下時に周りは一面森だったことを思い出した。
「来る直前に空から見たけど森だらけの寂れた村だもん……って街どこ?相当遠くにも無かったよ!」
「距離がどうした?」
「?」
「数人程度なら役場にある魔法陣で一瞬……」
「技術水準高ッ!」
「サガミは何で移動してたのだ?」
「ある程度は鉄道、それ以上は飛行機、未来だとリニアが開通予定だけど……」
「鉄道は今でもあるがそれ以外は聞いたことが無い……」
「どれも瞬間移動には敵わないよ」
「では街へ行こうか」
相模は役場まで連れて行かれた。
「これが……魔法陣?なんかしょぼい」
「単純に越したことはない。複雑だと……分岐条件ミスや処理の循環で最悪暴走!専門家呼んでポーション漬けの徹夜に報告書の山……アア゛ァ゛……忌々しい」
「……」
口調が崩れたフランを見て相模は驚いた。
「……どう使えば?」
「入れば勝手に飛ばされる」
「なるほど……」
「物は試しだ!」
相模は魔法陣の中に入れられた。