4. 出会い 最悪な第一印象
「やっと意識を取り戻したか」
「……あれ?ここは?って揺れてる?」
地面が常に動く感覚に襲われた相模は地震かと勘違いした。
「それは荷車に括り付けたから揺れるだろう」
「荷車?」
相模は自分の乗っているものを見た。馬……に近い見た目の生物にグルグル巻き状態で載せられていた。
「何で私は縄で縛られているの……趣味?」
「ち、違う!ただ怪しいからそうしただけだ。あと腕を固定するためにも」
「腕?……そういえば折られたんだ!どうしてくれるの?」
「それは私が手配する。まさかあんな簡単に折れるとは……」
少女は呆れてものをいう。まるで相模の体は軟体動物とでも言いたげだ。
「簡単に?そんなにやわやわだった?」
「咄嗟に怪力スキルで力んでしまったのも原因だ……」
「殺る気満々じゃん!何の能力もない一般人にやっちゃダメだよ!」
「あの狼を倒したのがそんなにひ弱とは思いもしないだろう」
相模は先ほどまで狼の群れと戦っていたことを思い出した。一日でいろんなことがあり過ぎてもう遠い昔であるかのように思えている。
「ああ……強い方なんだ。てっきりアレぐらい楽勝な戦闘民族な世界かと」
「そんなに物騒ではない」
「出会い頭に腕を折る人に言われても説得力ないけど」
「……本当にこの世界の住人でないな」
ようやく少女は警戒心を解いた。
「仮に途中で襲われても返り討ちできそうだ」
「散々馬鹿にされてるな……」
「どうやって別世界から来たんだ?」
「気がついたらいきなり……」
相模は急に口が絡まったような感覚に襲われ話が続けることができなかった。
「……大丈夫か?」
「アレのことを話そうと思ったら急に口がおかしくなった……」
「アレ?」
「私を……して……した」
「魔法による口止めか?」
「そんなのあるの?」
「まあある」
「さてはあの……何か……私に仕込んだな」
「色々と訳ありのようだな」
「いや〜なんやかんやで人探しする羽目になってさ〜」
「誰を探している?」
「勇者だよ」
そう聞いた瞬間、少女の表情が険しくなった。
「勇者か……どれを指してる?」
「え?何人もいるの?」
「時代地域色々いる」
「マジか……でも判明してるならすぐに見つかりそう!」
安堵する相模に少女は哀れみの目を向けた。
「皆200年以上前に死んでいる」
「……は?」
「過去の存在だ」
「あれ?最初から詰んでる?」
「もしかして未来の勇者か?」
「未来?」
「異世界から吹っ飛ばす人智を超えた存在。未来が見えても不思議ではない」
「借りパクされたものを返してもらうのが目的だしそれはないよ」
「?……そんな力を持ってるのに?」
「まあ賭けに負けても続ける人?だったし」
相模は途中からボロを出してきた女神的な何かを思い出す。
「思ったより残念な人物だな……」
「……なんでこのことは話せるんだろ?」
「情報統制も酷い……」
「まあいいや。もう最初から詰んだしどうしよう……」
「知り合いは?」
「いない」
「一人か」
異世界に来てまだ一日。日はまだ浅いが着々と相模は現実だと思い知る。
「いや~この先どうやって生きていこう……」
「まだ戦う気力はあるか?」
「もう戦いはゴリゴリだよ」
「だがその願いは叶わないな……音がする」
そういうと相模を縛っていた縄が断ち切られた。バランスを崩し地面に落ちる
「痛デ!」
「敵だ。倒そう」
いきなり倒れた相模は戦う以前の姿勢となっていた。だが後ろからまた狼が襲ってきたのだった。
「このライフルを返さなくてはな」
そう言って少女は対戦車ライフルを返そうとするが相模の表情は渋い。
「……骨折れてるし無理」
「そうだった。私がやろう」
「使えるの?」
「銃なんて仕組みが違えど皆魔術で自動化……」
「されてないよ?」
「何だと!?」
「もしや手動か……」
「……」
「?」
「とりあえず一発!」
ヤケクソで銃をぶっ放す。人の変わりように相模は驚いていた。
「見た目の割に反動が小さいな。装填は?」
「このレバーを少し回してガチャガチャと」
「こうか?」
「合ってる」
追加でもう一発。だが狼は辛うじて躱し草むらの中に遠吠えしなが隠れた。
「人力だとこうなるのか」
「撃つ度にやるのはダルいよね」
「確かに……それに私のスキルはあまり活かせない」
「なんの能力?」
「怪力と槍」
「十分じゃん。私なんか何もないよ」
「武器の火力頼みか?」
「うん」
「よく生き残れたな」
「ワオーン」
「黙れ!」
狼は弾が命中して倒れる。
「もう私必要なくない??」
「そうも行かないようだ」
そういうとレバーが引きっぱなしの銃を相模に見せた。
「弾がない」
「嘘!弾数無限が付与されてたのに!」
驚いた相模は無事な左手で銃を触る。すると勝手に弾が入った。
「あれ?装填された」
「持ち主以外だとスキルが発動しないのか。用心深い」
「そんなの聞いてないけど……」
「お前のだろ?」
「もう何も分からない」
「本当に何をしに……」
「私も知りたいよ!あと他の武器は?」
「忘れてた」
相模は拳銃を受け取った。弾薬ポーチは分からなかったのかベルトに固定されたままだった。
「また帰路で襲われたらよろしく」
「分かった……えっと……名前は?」
「相模。そちらは?」
「フランソワーズ」
「フランソワーズさん……長い。フランでいい?」
「別に構わないが」
「ではいこう!早く骨折治してもらうよ」