3. 襲撃! 森の狼
「ではそろそろ行きますか?」
「これ以上居ても意味はないか」
「ではこちらに来てください」
「?」
相模は言われた通り着いていった。そこは雲が低く見える高空。
「ここからどうするの?」
「鳥になってください。御武運を」
そう言われると相模は背中を蹴られた。
「は?」
相模は理解が追いつかない。だが体はどんどん加速する。口腔内には風が入り言葉も出せなくなった。いつしか加速は止み速度は一定に。そして地面が段々と迫ってきた。否応なしに死を思い知ったのだ。
「パラシュートないのにどうするの?」
当然そう考えるが無いものはどうしようもない。どんどん目下に広がる森は広がりおよそ2分半のフライトを終えて地面に落ちるのみだ。
「覚えていろ!あの詐欺師!」
最期の一声はまともに発音できない中の罵倒に終わるかに思えた。
「痛……くない?……でも覚えていろよ……」
しかし地面に激突したはずなのに身体には怪我の一つもない。そもそも地面にも穴が空いた様子などがなかったのだ。
「物理的に落ちたんじゃないのかな?だけど覚えていろよ……」
持ってきたものも壊れた様子は無かった。たが何かの足音が相模に迫ってくる。
「……」
何も言わず短機関銃を構える。足音は更に近づいて来た。
「ヴヴ……」
現れたのは狼状の生物。どうも彼らの縄張りに落下したようだ。
「狼?……別に君の邪魔をしに来たわけじゃないんだけど」
「ウッ……」
相手の警戒心は最大。相模も照準を相手に向ける。
「……」
「……」
双方無言になってしまったが相模は内心焦っていた。手にしている銃の使い方が分からないのだから当然だ。ドラマや映画で撃つ前にレバーを引くシーンを思い出したものの手にしているものにはそんなものは見当たらなかった。
「狂犬病は怖い……それ以上来たら撃つよ」
だが相手は近づいてくる。当然相模は引き金を引いた。
「は?不良品?」
弾が出ない。何度引き金を引いても弾は出ない。向こうも攻撃ができないと分かったのか一気に襲い掛かる。
「この!ふざけるな!」
相模は短機関銃は諦め対戦車ライフルを手にした……がそれは一般的な構えとは逆、銃口側を持つという最初から射撃を諦めたものであった。
「こっちに来るな!」
そう言いつつ銃床を敵の顔目掛けてバットの如く振りかかる。銃の全長は176cm。低ランクとはいえ身体強化のスキルとこの長さの組み合わせは強力。そう相模は思っていた。だが振りが遅いために容易に避けられてしまう。
「ちょこまかと動くな!」
当然言葉は通じない。加えてここは今までの世界と違うことを忘れていた。いつか相手は諦めるだろうと思っていた矢先、相手は距離を取りだし口元が不気味に光り出す。すかさず相模も弁当箱のような木箱から拳銃を取り出した。そして引き金を引く……がまたも弾は出ない。
「またかよおおおお」
射撃の前準備を何もしてないのだから当然だが気付く余裕はなかった。これ幸いとばかりに相手も呪文の詠唱を終える。口から火が出て相模の周りは炎に包まれたのだ。相手は勝利を確信してその場から立ち去ろうとしたが……
「ガウ!」
「見た目に反して……しょぼいんだね……」
狼の足に弾丸が刺さる。燃え盛る炎の隙間からは満身創痍の相模はテケテケのように匍匐で這って出てきた。右手には拳銃、左手には片手剣を持って。
「この銃はレバーを二つ共下ろすのが正解か。なんか無意識に剣も持っちゃったけど」
理解できない!という表情で狼は相模を見る。だがすぐに次の行動に移った。相模は腹ばい状態で撃つが弾は届かない。
「外した?……それが話に聞いた壁の魔法?」
弾は外れたのではなく狼の目前で不自然に潰れたのちに落ちた。.45ACP弾すら防ぐ見えない壁が確かにそこにある。このまま撃っても無意味と判断した相模は拳銃を置き背中のライフルに手を伸ばす。大きさ以外は普通のこの銃の使い方は今までに見た映像や写真でおおよそ予想がついていた。適当にボルトをガチャガチャといじる。その間に狼もまた呪文の詠唱を始めた。
「これで片す!」
銃床を肩に当て止めとばかりに引き金を引く相模。
「!……」
だが右肩を脱臼した。折れてはないが激痛で声すら出せない。本来は銃身根元からはえている二本の棒、バイポッドと呼ばれる二脚を地面に刺して衝撃を逃すのだが使わずに撃ったため反動をモロにうけてしまったのだ。だが相手も自慢の防御魔法を文字通り破られた挙句吹っ飛ばされ動かなくなっていた。
「脳震盪?なら今だ……」
上体を起こし左手で拳銃を発砲する。だが当たらない。口径が大きく反動の大きい.45ACP弾と利き手でない左手の組み合わせで命中率が悲惨なものになったからだ。FPSゲームならNOOBと罵られること間違いなしだろう。
「……弾切れ?」
遂に装弾数の10+1発を撃ち尽くしさっきまで元気に前後へ動いていたパーツは後ろに下がった状態で固定され空の弾倉を見せびらかしている。装填するにはクリップや挿弾子と呼ばれる金属部品で縦一列に5発をまとめたものを弾倉に刺し指で弾を押し込む作業を2度繰り返すか一発ずつ弾倉内のばねに抗いながら指で押し込むしかない。だが片手では難しいうえそもそもやり方を知らない相模には今すぐできるものではなかった。
「……」
狼は一切動かない。完全に気絶しているのか確かめようと匍匐で近寄ってみる。
「いや?……死んでる……?」
よく見ると狼の頭の一部は吹き飛んでおり即死していた。
「こんなに……威力が?」
対戦車ライフルの威力にあっけらかんとしているとまた足音が聞こえる。奥からは人影が。この世界に来て会う初の人間だ。
「大丈夫か?」
「ええ?……まあ辛うじて」
やって来たのは槍を携えた少女だった。
「爆発音がしたので来てみたがこれは……まさか」
「襲って来た狼を返り討ちにした名残だよ」
「あの化けm……生き物を倒しただと……」
「言い直す必要あった?」
「まさかこの場所を知らないのか?」
「今落とされたばかりだもん」
「落とされた?まあいい。一応言っておくとあの狼らは神聖なものとして手出しが禁じられている」
「え?あんな凶暴なのが?」
「過去に地元の宗教と合体して神聖視されたらしく」
「奈良の鹿かよ……」
「ナラ?聞いたことのない地名だ」
「私のいた世界の地名だからね」
「いた世界……」
するといきなり少女は相模に関節技を決め首筋に短刀を当てた。
「イダーーーーー」
「余所者?……武装解除しろ。何が目的だ?」
相模は余りの痛さに手にしていた武器を手放した。
「イタタダダダッ!右肩脱臼じでるんだよお!」
「脱臼?ならこうか?」
ボキッ!
小気味よい音を体から発した相模はみるみる顔が青くなっていく。表情も痛みや苦しみを超越して悟ったようになってしまった。
「ん!?まちがったかな……」
「腕の骨が折れた」
「え?」
「アッ……ワァ……」
「おい!気を確かにしろ!」
もう相模に意識は残っていなかった。
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