15. 劣悪な宿! 無宿人の定め
大通りに辿り着くと二人は宿を探した。
「お金はあるしまあまあの宿は泊まれるかな?」
「いや、まともなところは身分証を求められる。今のサガミには無理だ」
「無駄にセキュリティ意識が高い!」
「選ばなければあるが……」
「一泊千円台の激安宿的な感じかな……ノミやシラミやばそう……」
だがフランが相模に見せた光景はその二歩ほど先のものだった。壁一つない最高の解放感あふれる場所だった。
「え?何ここ?」
「一番安い宿屋だ」
「建物すらないけど?あるのはポールだけ……」
すると縄を持った人がポール間を縄で張った。
「???」
「この縄にもたれて寝るんだ」
「いやいやいや!何かの冗談でしょ?そうでしょ?いくら文化が違うからって揶揄うのはよして……」
すると何人かのボロボロの服を着た人たちが小銭を支払い持たれ始めた。
「……」
相模は言葉を失った。
「初心者にはキツすぎたか……少し上級なのにしよう」
相模は次のホテルに連れて行かれた。
「ここは?集団墓地?」
そこには墓跡も十字架も三日月もない。ただ棺桶が辺り一面に広がっていた。
「それともお化け屋敷かな?」
「あの棺桶の中で寝る。それだけだ」
「どうなってるのこの世界!」
自身のいた世界とのギャップに相模は追いつくことができない。
「まあさっきの紐よりはマシだけど……」
サガミは渋々とここに泊まることとした。
「暇だ……」
することなど他に何もなくただ時間だけがすぎてゆく。そこでサガミはガラクタに手を伸ばした。
「イヤホンがついてるから音を聞くやつのはず……」
耳にイヤホンを刺すが何も聞こえない。
「付け方が悪いのかな?」
適当に触っていると僅かながら音が聞こえた。
《その……は……?》
《……だ》
調節を間違えたラジオの如く雑音が酷く聞き取りにくいが人の会話が聞こえた。
「フラン……起きてる?」
「ZZzz……」
返事がない。フランは熟眠しているようだ。
「この世界にラジオあるの?」
相模はガラクタを弄り倒して何とか聞くに堪えるほどの音量を確保することに成功。受信する声を色々変えてみた。
《明日の特売品は何?》
《確か卵じゃなかったか?》
「家族の会話かな?次……」
《宝石強盗は来週決行だ》
「治安悪いな……次」
色々な会話を相模はぼんやりと聞いていた。誰も自分自身には関係の無いもの。だが一つ気になる会話が流れた。
《何かが召喚された?》
《その翌日には貨物も襲われた。警備用の魔法陣を全て突破されたらしい》
相模は青ざめフランを叩き起こした。
「フラン!起きて!」
「ウ……?」
相模はみぞおちに一発与えたうえでフランの耳にイヤホンを刺した。
「音が……聞こえる?」
「聞いて」
《本部より各員へ。今日の列車強盗と前日の召喚は関連する可能性がある。付近の捜索に当たれ》
《了解。捜索は第六管区にさせる》
「……は……」
フランは小声にして話を始めた。
「憲兵団か内務省の魔術通信?聞いただけで死罪かな?」
「え?そんなに」
「そもそも魔術通信は高度な暗号化がなされている。なぜ聞ける?」
「いや……多分ラジオの電波そのまま……」
「らじを?なんだそれは?」
相模は元の世界との技術体系の違いを改めて知った。
「魔法を使わない技術だよ」
「そちらの世界には魔法がなく、そちらの技術はこちらでも使えるのか」
「……そうだね」
フランは不気味に笑い話を続けた。
「このことは内密に」
「まあ治安部隊とは戦いたく無いしね……」
「秘密の会話が筒抜けなんだ!常に先手が取れる!使わない手はない!」
「え?そっち?」
フランには元より機密漏洩でどうこうされる気はなかったようだ。
「うれしそうでなにより……」
「これなら盗聴以外は合法的に色々できる」
危険なおもちゃを教えてしまったと相模は思い知った。




