10. 撃て! 迫り来る足音
「痛で!」
「相変わらず着地が下手だな」
「まともに運動してなかった人間を舐めるな……」
「これでは魔獣に狩られる側になるぞ」
「なる?……もうなってる」
「……」
二人は街に向かうため獣道を掻き進んでいく。
「この辺りもたまに出るから注意しろ」
「街の近くもか……」
「もし出会ったら返り討ちにして換金だ」
「え?売れるの?」
「ああ」
金など相模には無縁なものだったので心が踊った。
「じゃあむしろこっちから探して借り尽せば」
「理論上は。素人には無理さ」
「……そりゃそうだ」
二人はさらに進んでいく。だが変な金属音が少しずつ、だが着実に大きくなっていくのを聞き逃さなかった。いや、聞き逃せなかった。
「何この音!」
「自然の音とは思えない。だが明らかに近づいてる」
「逃げ切れるかな?」
そう思った矢先目の前に振動とは別の集団が見えてきた。
「動く死体?さては後処理を忘れたな死霊術師め!」
「怒るとこそこ?」
「良くあるからつい……」
「恐ろしい世界だ」
相手集団も二人に気づき近づいてくる。だが動きは怠慢。足を挫いた人間と同等の速さでしか走れたいなかった。
「弱くない?早歩きで躱せる……」
「術者の力不足かはたまた時間切れか。道中の駄賃にしよう」
「へ?」
フランは集団に躊躇なく近づき慣れてるような手つきで小物や売れそうなものを取り外した。
「副葬品に手をつけるとは……恐ろしい子!」
「死者の再利用は合法。なんでもありさ」
「どういうこと……」
「生命再利用推進法というものがあって」
「もう嫌だこの世界!」
一通り使えそうな物をとったフランはあることに気がついた。攻撃してこないのだ。
「ただ近づくだけ?」
「……指示待ち状態?なら……過去の命令はすべて取り消し!先ほどまで何の命令を受けてた?」
フランが声を張り上げて言うと亡者の一人が答える。自動人形の討伐だと。
「では指揮者は何処に?」
別の亡者が答えた。背後から別の人間に刺されて死んだと。
「二手に分かれて挟み撃ちをしたのか」
「じゃあこの足音も気をひくための揺動?」
「なら音と反対歩行に……借りるぞ!」
フランは茂みに向かい拳銃を発砲する。当然当たるわけもないが隠れていた人影は姿を現した。
「よく分かったな」
「そこの亡者に聞いた」
「聞いた!?亡者に主人の識別をさせないとか……とんだ三流術師だ」
「君が自動人形の操者か」
「帝都からこんなに離れてもまだ来んのかよ」
「?」
二人は会話が噛み合わなくなってきた。それに加えて世界情勢に疎い相模は全く追いついていけない。
「とぼけても無駄だ。勝手に弄ったうえ殺されてたまるか!」
男は薬物でも使っているのか思い込みが激しいのか二人の言い訳を聞こうともしなかった。そして足音の正体が現れる。
「これは……」
「人?」
二人の前に現れたのは銅色の金属でできた人型だった。
「研究室の地下から連れてきた。さあそいつらを倒せ!」
男は逃げ出した。
「サガミ……いい的だ。その銃にはうってつけだな」
「はあぁ?無理無理無理!」
「私はあの男を捕まえて止めさせる。それまで時間を稼げ!」
「人の話を聞けーーー!」
フランは相模から剣を抜き取り男を追いかけていった。
「……」
「……」
「……」
サガミ、亡者、金属の人、皆無言になってしまった。サガミが持っている武器は対戦車ライフルにサブマシンガンのみ。相手は外から見た限りでは何も持っていない。
「取り敢えず頭!」
サガミの発砲を合図にその人型も動き出した。弾を外すことはなかったが弾は潰れ穴を開けることはなかった。
「硬!何製だよこいつ!」
「青銅か……」
「神話の再現か……」
「我らと同じ紛い物か……」
「無駄にコンビネーションいいな君たち!」
相手の殴る蹴るをほうほうのていになりつつ相模は避ける。見物人と化した亡者達は相模の質問に答えた。その間も隙があれば銃を撃ち込んでいたがまともに狙う余裕などなく掠りもしない。
「君たちもなんか助けてよ!なんか奢るからさ!」
「倒す手段がない……」
「助ける義理などない……」
「我らに欲するものもない……」
幾らかいる亡者のうち明らかに強そうな三体が答えた。他と違い目は虚ではなく一人は剣、二人は槍を身につけている。
「じゃあなんで召喚されてるのさ!」
「……死霊魔術を知らないのか」
「我らに拒否権などはない」
「あれは片務的な術だ」
「……」
相模は返す言葉も失った。おまけに敵の攻撃から逃げるのに精一杯ととなっている。だが体力が続かないのは目に見えていた。
「一つ試すか?」
「やつは世間知らずだ……」
「だからこそ使えるかもしれない……」
「なんで皆からバカにされるんだ!」
相模は愚痴と嘆きが混じった声で返答した。既に身体は限界。何発か撃った弾丸も効いているようには見えなかった。
「このライフルでも歯が立たないの!?」
「効いている……」
「動きも怠慢だな……」
「早く弱点を破壊しろ……」
「弱点!どこ?」
相模は食いつく。完全無敵と思っていたのだから無理もない話だ。そして三人の亡者もそれを見越していた。
「やつの動力は霊液」
「触れれば生者は即死の劇物」
「弁を壊し液を出せば終わりだ……神話通りなら」
「弁……あれか!」
相模は即座に狙い撃つが一発では壊れない。すると人形の全身が赤熱し始めたのだ。倒すか倒されるか。相模も臆することなくこの機会を使わざるを得ない。
「かかってこい!相手になってやる!」
さながら一騎打ちのような状況となる。そして走ってくるなり相模は発砲。名状し難い液体が噴出し金属の塊はその場で動かなくなった。そして相模は銃を構えつつ地べたに倒れる。銃声の爆音もあり既に立つのも精一杯だったのだ。
「本当に霊液か」
「神話を再現とは馬鹿だ」
「それに賭けた我らも同じだがな」
相模を馬鹿にもしつた助言もした三人が金塊の横に集まっていた。だがものすごい蒸気でよく見えない。
「君たち……何してるの?」
「伝承ではこの液は不死者のもの」
「生者では触れることができないという」
「なら一度死に、契約の主人も失った我らはどうなる?」
相模の理解は全く追いつかない。
「えっと……つまりどういうこと?」
「復活した」
「何をしようか?」
「もう一度勇者に挑むか?」
「勇者」
この単語を聞き相模は忘れかけていた目的を思い出した。
「勇者って誰?」
「異世界からの来訪者……」
「探し物をしつつ魔王を倒した……」
「名前は何個もあった……一つはペレスヴェート」
「そいつだ!探してたんだよ!どこで会った?」
いきなりの豹変に三人は困惑した。
「二百年も前だ」
「生きてるとは思えん」
「この時代に勇者はいないのか?」
「……」
微かな希望を見てすぐ否定された相模のメンタルは粉微塵となった。
「おーい!サガミー!生きてるかー!」
「来るのが……遅いよ!」
「おお!元気そうでなにより」
「てっきり逃げたかと……何その格好?」
フランは能天気に戻ってくる。だが全身は血まみれで手には何かの頭部を持っていた。
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