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1. はじまりは、死んでから

 相模が目を覚ますと見知らぬ光景がそこにはあった。小物が置いてある以外は手抜き工事かと見紛う白一色の壁と天井。そして変わった服装の人がいた。


相模(さがみ)。君が今回選ばれた(いけ)に……じゃなかった候補者ですね」

「今生贄って言いかけたよね?大丈夫ここ?」


 明らかに普通では無い状況に相模は戸惑っている。


「大丈夫です。あなたはもう死にましたから」

「何も大丈夫じゃない!」

「覚えていないのですか?……まあ些細なことです」

「どこが?文字通り人生終わったんだよ?」

「元の世界で生き返らせますので。無論こちらの世界の問題を片付けられたらですが」

「まさかのなろうの異世界系!それにもうブームが去り始めてるタイプの!」

「……いや?生き返れる機会。少しはテンションは上がりませんか?」

「いきなり一般人が別世界行っても言葉は通じず盗賊に身ぐるみ剥がされて終わりでしょ?」

「自動翻訳と情報が大まかにわかるスキルは既に授けました」

「え?そうなの?」

「そもそも私は日本語を話せません。スキルを無効にすると…… ■■■■■■■■■■, ■■■■■?」

「分かった。分かったから」


 すると相模は少し考えてから喋りを再開した。


「でも元の世界では普通に時間が進んでるんでしょ?」

「ええ」

「じゃあ意味ないよ」

「なぜでしょう?」

「私の住んでた日本は死んで数週間経つと火葬しちゃうから。おまけに保険証の裏も特に考えず○しちゃったし」

「???」

「私の世界に詳しくない感じ?」

「時代が違いますので」

「要は死体はさっさと焼却されるし身体が綺麗に残ってたら移植用に抜かれるんだよ。その状態で生き返っても即死じゃん?」


 やっと相模の言っていることを理解したようだ。


「そこまで考えられるとは厄……頭の回転が速いようですね」

「その反応!絶対に悪徳でしょ!」

「いやいや、私が目指すはアットホームな世界。悪徳なんて……」

「ブラック企業の売り文句じゃん!もういい!私帰る!」

「帰る?どうやって?」


 すると相模は壁の方へ歩いて行った。


「もう一度死ねばいいんじゃない?」


 そういうと壁に掛けてあった剣を手に取り首に刺した。


「あれ?何で?」


 相模は間髪入れずに肋骨の間や口の中を刺し直すが何も起きなかった。


「死んだまま死ぬことは出来ませんよ」

「今は無敵時間か……じゃあこいつはどう?」


 そういうとその場にあった箱から拾った銃を撃った。


「人に向けて撃つとは一体どんな育ちを?」

「死んだのに勝手に連れてこられたんだ。一発程度なら誤射しても許されるでしょ?」


 だがその間も銃声は鳴り止まない。


「流石に止めていただけますか!?」

「止め方が分からない……」

「引き金を離してください」


 その前に弾切れで銃は止まった。そしてここではそもそも攻撃の意味が無いと相模は更なる小物の物色を始めた。


「一体何をする気ですか?」

「もう死んだんだ。ここには法律もない。ゲームの勇者みたいに勝手にタンスを開けて壺を割ってやるぜ!」

「任務を頼む相手を間違えた気がしてきました」

「任務?何を?」


 多少とはいえ話に興味を持ってもらえたからか落ち着き払って説明を始めた。


「私がかつて送り込み勇者と言われた者を見つけて欲しいのです」

「なんで?」

「私の力が奪われたままなので」

「逆にどうしたら奪えるの?」

「力を一時的に授けたのですが目的を果たした後に行方不明となりまして」

「それでも自分の力でしょ?」

「それが……感知できないほど与えすぎたのか……」

「少しは自重しようよ」


 相模はあきれている。


「じゃあ自分で地上にでて探せばいいんじゃないの?」

「正直かったるいです」

「ただの怠け者かよ!」

「ここから出るだけで力使うので探索は夢のまた夢なんですよ」

「他人を生き返らせるより自分で探す方がはるかに楽では!?」

「今はそんな力もありません。取り戻してからの話ですから。この状態で探すとなると……考えるのも無駄ですね」

「ただの引きこもりじゃん!」

「今まではここでのんびりして偶に勇者をくれと言われたら適当に見繕って別世界から送ればいいだけでしたので」

「人材派遣業かよ!」


 すると相模は黙り考え込んだ。最悪な理由が思い浮かんだからだ。


「もしかして……私が死んだ理由って良さげな人見っけ!みたいなノリじゃないよね?」

「……ご想像にお任せします」

「この悪徳業者!さっさともとに戻せ!」

「流石に冗談です。今の私に別世界へ介入する力は無いですよ」

「怪しいものだな……」


 胡散臭そうに相模は見つめる。


「選ばれた理由は偶々死んだ者の中で適正があると判断された。それだけです」

「え?私に?無いないそんなの」

「こればかりは実際にやらないと分かりません。ではどうしますか?このまま終わらせるか僅かな可能性に賭けるのか」

「やっぱり僅かじゃん!」


 相模は叫んだ。


「それは勿論。勇者の方が力は上です。何度も強力なスキルを授けて同じことをしてもらいましたが……皆死にました」

「何度も?」

「ええ、その都度様々な力を分け合えましたがなぜか回収も出来ず」

「……力が弱まった理由は何度も繰り返したのが原因じゃ?」


 図星だ。


「そうです。私が馬鹿でした……途中からはやめた方がいいと思いましたが今までの損失を考えるとズルズルと……」

「あー……ギャンブルとかやっちゃダメなタイプだったかぁ……」

「憐れむような目で私を見ないでください」


 もはや立場は逆転していた。


「じゃあ私にくれるスキルはもうほとんど無い訳だ」

「便利な戦闘関連はもう……だから低ランクとはいえ分析スキルにしたんです」

「低ランク?」

「ええ、ですから『全部お見通しだ!』とはいきません。ちょっとした情報が見えて来る感じです」

「ビミョー……」

「まあ実際に試してみましょう」


 そういうと武器の入った箱を引き寄せて話を続けた。


「この武器は今までの戦いで使われものです」

「ということは……遺品……?」

「そうなります」

「うわぁ……なんか呪われてそう……」

「?……別に呪いの装備ではありませんよ?」

「そういう意味じゃないんだけど。まあ続けて」

「能力の体験も兼ねてこの武器を調べてください」

「はぁ……」


 相模は適当に一つ武器を手にした。両刃の典型的な両手剣だ。


「えっと……どうすれば?」

「情報を得ようと頑張ってください」

「アバウトすぎる!」


 だが色々試してみるといきなり相模の脳内に情報が叩き込まれる。


「聖剣、聖属性と自動修復付与済……なにこの脳に直接来る気持ち悪い感触!」

「それがその能力です。勝手に最低限の情報を得ることができます。詳細はランクが上がらないと無理ですが」

「ランク?どうやって上げられるの?」

「基本的に運です」

「じゃあないね」

「諦めるのが早すぎます」

「運なんてここにいる段階で見放されてるよ」


 剣をマジマジとみつつある疑問が甘い浮かんだ。


「ねえ?聖剣って強そうだけどどうなの?」

「一目置かれるでしょうね。かつて魔王を倒したのですし」

「はあ!何でそんなのあるの!」

「魔王は倒しても倒しても復活するので大して珍しくもありません」

「え?そんなに?」

「数百年おきでしょうか?」

「完全に長寿な生き物のセリフだよ……」

「私は不老になってしまったので」


 相模は目の前の人物とは根本的に考えが違うと悟った。

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