ココちゃんとアユムくんの脱出作戦
夏休みにボートで釣りをしていたココちゃんとアユムくんだが、釣りを終えて港に戻ろうとしたらエンジンが始動しないことに気が付いた。風に流されどんどん岸から遠ざかっていくのを2人はただ眺めることしかできなかったのだ。そして、翌朝目を覚ますと、ボートは小さな無人島の暗礁に乗り上げていた。
~旅の始まり~
「アユムくん、ここどこなの?」
「わかんない。」
2人が乗ってきたボートは岩に衝突したせいか、浸水していた。
「ねぇねぇココちゃん、このボートはもう使えそうにないから新しい船作らなきゃいけないみたいだね。」
「え~! でも、どうやって作るの?」
「わかんないよ。とりあえずボートの中の荷物出そうよ。」
「うん。」
ボートの中には、穴の開いたブルーシート、古びたロープ、バケツ、調理用具箱、釣り竿2本と釣り用具キットがあった。
荷物を全部運びだし終えるとココちゃんが言った。
「私たちこのまま島から出られないのかな…」
「そんなことないよ、なんとかなるさ。」
「でもさ、これだけじゃぁ何もできないじゃん?」
「う~ん。」
2人は困ってしまった。
「ココちゃん、とりあえず今夜寝るところ一緒に探しに行こう。」
「うん、そうね。」
海岸の先には断崖がそびえ立っていた。
~崖の上の洞窟~
「じゃぁ、ココちゃん登るよ。」
「うん。」
「けっこう急斜面だな。」
「アユムくん、ちょっと待って。怖いよ。」
「下見ちゃダメだよ。」
「でも…。」
「ほら、そこの岩つかんで、右足であそこの岩を踏んで…。」
「うわぁー!」
ころん、ころん、ころころ、ガシャン!
ちょうどココちゃんがつかんだ岩が取れて転がり落ちてった。
「落ちそうで怖いよ~。」
「下見ちゃダメ! ほら、こっち見て。」
「うん。」
「あともう少しだから。もうちょっとで着くから。」
「うん、がんばる…。」
ひゅ~、ひゅ~
「うわぁー、風で揺れるよ。」
「大丈夫、大丈夫。ほら、こっち側おいで。」
「うん。」
数分後、2人は無事に断崖を登ることに成功した。
「ふぅ~、疲れた~。」
「ほんと大変だったね。」
「うん、途中で落ちて死んじゃうかと思ったわ。」
「ココちゃん、よく頑張ったね。えらい、えらい!」
「もぉ~、アユムくんってば…。」
「あっ、あそこに洞窟があるよ。」
「ほんとだ、覗いてみよう!」
そこはワンルームくらいの広さの小さな洞窟であった。
「ここなら雨風を凌げるし、ここを寝床にしない?」
「いいよ! 私たちの基地だね!」
「そうだね!」
「あ、でもさ、地面岩だらけでデコボコしてるよ。これだと寝れないよ~。」
「う~ん、困ったな…。」
~草原の先には~
2人は持ってきた荷物を洞窟の入り口に置き、少し休憩をした。
洞窟の後ろには草原が広がっている。
「ねぇ、アユムくん、なんか喉乾かない?」
「たしかに。」
そう、2人は今日1日何も口にしていないのだ。
「向こうの方に水源あるかもしれんから、飲み水探しに行こう!」
「うん、わかった。」
そして、2人は草原に入っていった。
「うわぁー。」
「え、どしたん?」
「蜂、蜂がいる。」
「ココちゃん、大丈夫よ。あの蜂は刺さんやつだから。」
「でも…。」
「ほら、こっちおいで。」
「うん。」
2人は炎天下の中、30分近く歩き続けていた。
「あ、あれ見て。」
「ん?」
ココちゃんが指さす方を見ると、
「あ、小川だ!」
次の瞬間には、2人は小川に向かって走っていた。
「やったー、水だ!」
「これ飲めるかね?」
「ちょっと待ってて、川の中覗いてくるわ。」
そう言ってアユムくんは水の中に顔を突っ込んだ。
「あ、大丈夫よ。ここの水めっちゃ綺麗だよ!」
「え、やったー。」
「ちょっと飲んでみてよ?」
「うん。」
ゴクゴク、ゴクゴク
「ふゎ~、生き返ったわ!」
こうして2人は思う存分水を飲んだ。
「じゃぁ、そろそろ戻ろっか。」
「そうだね。」
「そういえば、寝床どうするん? 地面デコボコだったじゃん?」
「う~ん。」
雨風に襲われたり、獣に襲われたりする危険性があるから、野外でテント無しで寝る訳にもいかない。
その時、アユムくんが口を開いた。
「あ、めっちゃ良い方法思いついた!」
~水平線に浮かぶ光~
日がだんだんと傾いてきている。2人は小走りに洞窟に向かった。
「ねぇねぇ、良い方法って何?」
「崖の下に砂浜あったじゃん? あの砂を洞窟の中に運ぶんだよ。」
「え、でもどうやって? あの崖登るのめっちゃ時間かかるよ。」
「バケツあったでしょ? バケツにロープ結んで引っ張り上げたらすぐよ。」
「あ、なるほど! アユムくんめっちゃ頭いいじゃん!」
「でしょ~」
「もぉ~、すぐ調子乗らないの…。」
2人が洞窟についた頃にはすっかり夕方になっていた。
「じゃぁ、先に下まで降りてくるわ。」
「うん、気をつけてね。」
「はーい。」
アユムくんが崖を下ってる間に、ココちゃんは古びたロープをバケツに結んだ。
「ココちゃ~ん、降りたよ~。」
「は~い、じゃぁ、投げるね~。」
ココちゃんはバケツを投げ落とした。
落ちてきたバケツにアユムくんは海岸の砂を敷き詰めた。
「砂入れたよ~。持ち上げて~。」
「は~い。」
そして、ココちゃんは持ち上げたバケツの砂を洞窟の地面に敷いた。
しかし、全然砂が足りない。
それから1時間が経過した。そろそろ日が沈みかけてきた。
「アユムく~ん、もう大丈夫だよ~。」
アユムくんが崖を登ってくると、洞窟の地面は砂で敷き詰められ、きれいに平らになっていた。
すると、アユムくんは穴の開いたブルーシートを半分に折って、砂の敷布団の上に置いた。
「このブルーシートの間に入ったら寝れるね。」
「そうだね。」
辺りはもう、すっかり真っ暗になっていた。
そして、2人は寝床に入った。
「ねぇ、あれ見て…。」
ココちゃんが指さす方を見ると、水平線の向こうに赤い光が点滅していた。
「ココちゃん、あの光ってもしかして…。」
「うん、隣町の灯台の光だよ。」
気がつくと、2人ともぐっすり寝入っていた。
~メバルの争奪戦~
2人が目覚めた頃には、既に太陽が出ていた。今日も快晴で暑そうである。
「ココちゃん、おはよう。」
「おはよう、良い天気だね。」
「うん、そういえば、昨日から何も食べてないよね?」
「そうだね、なんかめっちゃお腹空いてる。」
「よし、食料調達しに行こう!」
「うん、でもどうやって?」
「ほら、釣り竿あるじゃん? 2本あるからココちゃんも一緒に釣ろう!」
「うん、わかった。」
2人は釣り用具キットから、仕掛けとルアーを取り出し、釣り竿にセットした。
それから崖を下り、海岸へと向かった。
すると、ココちゃんが海辺を指さして言った。
「あれ、あそこに何かある?」
「なんかの箱みたいだね。」
「昨日は無かったから、夜のうちに漂流してきたんかな。」
「開けてみようよ。」
開けてみると、それは工具箱だった。
中には、小さなノコギリと曲がった釘が数本入っていた。
「これ使えそうだから保管しておこう。」
「わかった。」
「そっか、今ちょうど満潮だね。たくさん釣れるといいね。」
「うん、がんばる!」
2人は海に仕掛けを投げ入れた。
数分後、アユムくんの釣り竿に手応えがあった。
「お、なんか来てる。」
アユムくんは思いっきりリールを巻いた。
「あぁ、逃げられた。」
しばらくすると、再び釣り竿に反応があった。
「よし、次こそは。」
「あ、なんか釣れてる。」
「やったー」
「これ、何ていう魚なん?」
「これはアジだね。」
「良いじゃん!」
3時間後、アユムくんはメバル1匹とアジ4匹を釣り、ココちゃんはアジ2匹釣った。
「結構釣れたからそろそろ終わりにするか。」
「そうだね。じゃぁ、アジ3匹ずつで良い?」
「うん。メバルどうする?」
「私メバル食べたい。」
「え~、じゃぁ、勝負だね。何する?」
「それじゃあ、あそこの岩のところまで走って戻ってくるっていうのはどう?」
「わかった。じゃぁ、競争ね。」
「行くよ! よ~い、どん!」
2人が走り出した直後、1羽のカモメが降りてきた。
そして、メバルを加えて飛び立っていった。
「あ、アユムくんあれ見て。」
「え、何?」
「カモメにメバル奪われた。」
「え~。」
仕方なく2人はとぼとぼと歩いて戻った。
しばらく2人とも無言だったが、ココちゃんが言った。
「そういえば、このアジ、どうやって食べるの? 生のままだと食べれなくない?」
「あ、たしかに…。」
~アジの味~
「あ、そうだ、良いこと考えた。」
「どうしたの?」
「ココちゃん、ちょっと調理用具箱を取ってくるから、カモメが来ないように見張りながら待ってて。」
「うん、わかった。」
アユムくんは調理用具箱を持ってくると、中からアルミホイルを取り出した。
「ココちゃん、ちょっと落ち葉集めてきて欲しい。」
「はーい。」
そして、アユムくんはアルミホイルを正方形に切って、太陽に向けて並べ始めた。
すると、各アルミホイルに反射した太陽光が1点に集まった。
「アユムくん、落ち葉集めてきたよ。」
「ココちゃん、ありがとう。ここに置いてくれる?」
そして、ココちゃんは太陽光の集まる先に落ち葉を置いた。
「え、これで火が付くの?」
「うん、光が当たった中心部分が熱くなって火が付くんよ。」
「へー」
「ココちゃん、ちょっと小枝集めてくるね。」
「うん、わかった。」
しばらくすると、落ち葉から煙が出てきた。
ココちゃんは調理用具箱からナイフを取り出して、アジの内臓を取り出した。
そして、箸を取り出して、アジを串刺しにした。
「小枝持ってきたよ。」
そう言ってアユムくんは小枝を落ち葉の上に並べた。
落ち葉の火が小枝に燃え移り、だんだん火が大きくなった。
「ココちゃん、料理できる?」
「うん、できるよ。料理は得意だから任せて!」
「じゃぁ、頼んだ。」
しばらくするとアジが焼きあがった。
「ねぇねぇ、アユムくん、できたよ!」
「お、いい感じじゃん。じゃぁ、食べよっか。」
「うん。」
「あぁ~、久しぶりの食事だ。」
「なんか、薄味だね。」
「そうだね。」
「薄味というか、味付けてないからね。」
「アジだけに?」
「もう、アユムくんってば。」
どうやら、2人は空腹を満たすことができたようだ。
しかし、彼らの旅はまだ続く。
~小川を越えて~
「アユムくん、飲み水汲みに行こう。」
「うん、ついでにこの工具箱持っていくわ。」
「じゃぁ、私はバケツ持ってくね。」
2人は草原に入っていた。
昨日通った所が、小川までの小道になっていた。
「あ、蛇いる。」
「え、どこ?」
「あそこ、あそこ。」
「ほんとだ、いる。」
「どうする?」
「よし、そのまま走って突っ切ろう。」
「えっ?」
「ほら、行くよ。」
「いや、待って。」
すると、アユムくんはココちゃんの手をつかんで走り出した。
2人が小川にたどり着いたときには、もう蛇の姿は無かった。
水分補給をした後にアユムくんが言った。
「小川の向こうに竹林あるから行こうよ。」
「竹って水に浮くんだよね。」
「うん、いくつか竹を集めればイカダができるはず。」
そう言うと、2人は小川を超えて竹林に入っていった。
「ココちゃん、太くて頑丈そうな竹あったら教えて~」
「あ、この竹良さそうじゃない?」
すると、アユムくんは工具箱から小さなノコギリを取り出した。
ギゴギゴ、ギゴギゴ
しばらくすると、竹が切れて倒れてきた。
そして、その竹を4mの大きさに切って、運べるようにした。
その後もいくつか竹を切り、4mの竹を10本集めることができた。
「ココちゃん、この竹を海岸まで運ぶから手伝って。」
「うん、これ1本ずつしか運べないね。」
仕方なく2人は、竹を運ぶために10往復することとなった。
10本すべて運び終えた頃には、すっかり夕方になっていた。
ふと空を見上げると、さっきまで見えていた青空は黒くて大きな雨雲に覆い隠されていた。
~長い夜~
2人はそのまま寝る用意をした。
しばらくすると、急にあたりが暗くなって雨が降ってきた。
だんだん風が強くなってきて、遠くから雷の音も聞こえてきた。
ピカッ
「あ、光った。」
ゴロゴロゴロ
「うわぁー。」
「ココちゃん、大丈夫?」
「うん、ちょっと怖かった。」
すると、雨水が洞窟内に入ってきた。
地面は海岸から運んできた土なので、たちまちドロドロになってしまった。
すると、ココちゃんが言った。
「あれ、雨水が洞窟の奥に入っていくよ?」
「ほんとだ。」
アユムくんが奥の岩を蹴ったら、ガシャンという音ともに洞窟の奥が開けた。
でも、中は真っ暗で見えない。
ピカッ
「あ、あそこ…。」
ゴロゴロゴロ
「あ~、びっくりした。」
「今見えたよね?」
洞窟の奥は意外にも平らで、少し高くなっていた。
そこで、2人は高くなっているところまで、手探りで移動した。
どうやら、さらに奥にある岩の隙間から水が流れ出ているようだった。
2人は乾いた場所を確保したが、雨風の音がうるさくて中々眠りにつけなかった。
長い夜はまだまだ続く。
~ひまわり号~
翌朝2人が目を覚ますと、昨日の嵐が嘘のように青空が広がっていた。
でも、まだ強風が吹いていた。
「雨やんだね。」
「うん、良かったね。」
「良かったね。」
「じゃぁ、この竹でイカダ作るか。」
そう言うと、アユムくんは古びたロープで竹同士を結び始めた。
そして、10本の竹を結び終えると、立派なイカダが完成していた。
「それじゃぁ、飲み水汲みに行こう。」
「わかった。」
雨がたくさん降ったせいで、草原の道は泥沼状態になっていた。
「あ、アユムくん見て、ひまわり咲いてる。」
「ほんとだ。昨日は咲いてなかったから、今朝咲いたんかね?」
「このひまわり持って帰りたい。」
「え?」
すると、ココちゃんはひまわりを収穫した。
その後、2人は小川でバケツ一杯に飲み水を汲んだ。
アユムくんは小川の近くで、強風で折れた枝を見つけ、それを持って帰ることにした。
イカダの場所まで行くと、アユムくんは拾ってきた枝を竹の間に差し込んだ。
そして、古びたロープで縛り付けて固定した。
「ココちゃん、洞窟からブルーシート持ってきて。」
「わかった。」
アユムくんが取り付けた木の枝は途中でTの字に枝分かれしていた。
「持ってきたよ。」
「ココちゃん、ブルーシート持って枝の前に立ってて。」
「うん。」
すると、アユムくんは工具箱から曲がった釘を取り出した。
そして、海岸にあった岩をトンカチ代わりにして、ブルーシートを枝に釘で固定した。
「よし、これで帆の完成だ。」
その時、ココちゃんが持ってきたひまわりの花を枝の先端に突き刺した。
「お、良いじゃん!」
「それじゃぁ、この船の名前はひまわり号だね。」
「そうだね。」
そして、2人はひまわり号を海まで押し出した。
すると、2人がひまわり号に乗った途端、強風に煽られてひまわり号はまっすぐ進んで行った。
前方に隣町の灯台が赤く点滅しているのがかすかに見えた。