お姉ちゃんがオナホになってあげようか?
暮凍寒は目が覚めると、1ヶのオナホールに変身していた。名前は【股内】。
自分の身体がどうなっているのか、とか、一晩の間に何が起きたのか、など、理解が追い着かぬ寒であるが、それよりも強く『そういう意味で言ったんじゃないんだけど……』が先んじる。
身体を動かそうにも指一つ無く、歩こうにも足も生えておらず、ただ自分が箱入りオナホなのだと、事実だけがそこにあった。
「寒姉ちゃん居るー?」
件の少年が寒のアパートの扉をノックした。
少年と呼ぶには歳があり、歳のわりには幼く見えるその男の子は、先日彼女にこっぴどくフラれたばかりで痛く傷心していた。
──お姉さんがオナホになってあげようか?
悪魔染みた笑みを浮かべからかった末の変貌に、寒の心に後悔と懺悔の念が生まれ始めた。
「寒姉、居ないのー?」
心配よりも好奇心が上回った少年は、遂に抑えが効かずにドアノブに手を掛けてしまった。鍵が掛かっていない不用心な扉はすんなりと開き、重苦しい摩擦音で彼を出迎えた。
「寒姉……?」
ゆっくりと、より静かに。少年の足音が続いた。
まじまじと部屋を見た少年は、満足げにベッドへ腰を掛けた。
──ベコッ。
寒は不意に訪れた衝撃に耐えきれず、箱が潰れてしまった。
「やべっ! なんか踏んだ……」
少年がそっと布をめくると、そこには箱が破けて核が露わになった寒が居た。
「なんだこれ?」
少年が寒を手に取った。そして、それが何なのかを理解出来ぬままに、ベタ付いた手を思わず払ってしまった。
「うわっ! きったね!!」
振り払われた寒自身は放物線を描き、たまたま空いていた窓から落ちていった。着地時に箱から飛び出し、それを見ていたカラスが寒をくわえて飛び立った。
巣に持ち帰られた寒の中に、カラスがタマゴを産んだ。
このまま死ぬよりはいいだろう。この子達の誕生を見守るのも悪くない。寒は薄れゆく意識の中、そう呟こうとした。