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英雄が毒杯を賜った事により復讐する物語

作者: ユミヨシ
掲載日:2022/03/05

グラディラス・ホルデリュークは、ユリノウス皇帝から賜った毒杯を跪いたまま、両手に持っていた。


その銀色の杯の中に注がれた液体は血のような赤い色をしている。

この帝国で有名な毒の花、アレジュラスの毒だ。内臓を破壊する猛毒である。


思わず唾をごくりと飲み込む。

今まで色々な修羅場をくぐって来た。

だが…さすがにこの毒を飲んだら、命はないだろう。


脂ぎった中年の男ユリノウス皇帝と、その隣にいる皇帝の娘、ラリア皇女。そして、ザルノフ宰相。


皇帝は帝国の英雄であるグラディラスを見下しながら、冷たい口調で、


「帝国は其方の活躍で平和になった。隣国と平和条約を結び、もう戦は終わったのだ。

これからの時代、必要なのは英雄ではない。国を統べる我が皇族こそ、帝国民の全てで無くてはならない。」


ラリア皇女はホホホと笑って、


「貴方様がいけないのですわ。わたくしとの婚姻を断ったのですから。」


ザルノフ宰相がにやりと笑い、


「さぁ、皇帝の命ですぞ。毒杯を。」




グラディラスは黒髪碧眼の美しい男性だった。

まだ若く黒髪碧眼の美男で知られる彼は帝国民の女性なら誰しも憧れる。


歳は27歳。


帝国の為にひたすら働いた。


隣国との戦いが国境で行われた時に、馬を駆り先頭になって戦い、隣国を何度も退けた。

海から海賊が攻めてきた時も、上陸しようとした海賊を騎士団と共に果敢に攻撃をし、海賊を退けたのである。


戦が終わった今も彼は忙しく帝国中を飛び回っている。

騎士団と協力し、帝国民の為に森の木を伐採し、畑を開墾し、精力的に働いた。

水害が起きた時も、率先だってその場所に向かい、民達を助けた。


そんな彼は帝国民の人気者である。


グラディラスは思った。


ユリノウス皇帝としては、グラディラスが生きていては邪魔なのであろう。

ラリア皇女との婚姻も断った。

黒髪でエメラルドの瞳を持つ美しいラリア皇女。しかし贅沢好きの我儘で有名であった。

男性関係も激しく、色々な男性と噂があった。


許せない事がある。

精力的に働いていたグラディラスも、少し休みを取りたくなった。

さすがに無理をしすぎたのだ。だから、帝国銀行へ預けておいた金を下ろして、地方に籠り静養しようと思った。

銀行へいざ行けば預けておいたお金が一銭も無くなっていた。


ラリア皇女が勝手にグラディラスの銀行に預けておいた預貯金を引き出し、大きな屋敷やドレスや宝石を買いまくったのだ。

銀行もラリア皇女の命とあれば、断る事が出来ない。


さすがのグラディラスもラリア皇女に苦情を言いに行った。


「あのお金は俺の物です。お返し願いませんか?」


ラリア皇女はオホホホと笑って、


「わたくしが使って差しあげたのです。返すつもりはありませんわ。貴方、皇族に逆らう気?」


「逆らうも何も…」


この帝国には皇族が好き勝手やっても誰もそれを咎める事が出来ない。


グラディラスは諦めるしかなかったのだ。


まだまだ働かないと。一文無しになったのである。

休む事も出来ない。

しかし、皇宮へ呼び出されて、お金を返されるどころか、毒杯を賜った。


これが今まで帝国の為に働いて来た自分への仕打ちか?

なんて酷い…なんて…なんの為に自分は生きてきたのか。



毒杯のグラスの中は、猛毒のアレジュラスの赤い液体で満たされている。


グラディラスは覚悟を決めて、その杯の液体を飲み干した。



喉が焼け、胃が焼け、思わずその液体を吐き出す。


熱いっ…痛い痛い痛いっ…苦しい…


猛烈にせき込んで、床に大量の血を吐き出した。


そして、そのままグラディラスは意識を手放した。







「起きなさいよ。ちょっと貴方…」


「寝起きが悪いのう。叩いていいかの?」


誰かが話している。

眠い…たまらなく眠い…


んんん…誰が…


ハっと目が覚める。

自分を見ている数人の男女に、グラディラスは驚いた。


「目が覚めたのね。」


ひと際綺麗な、青白い肌をして金の髪の女性が身を屈めて、手を差し伸べる。


グラディラスが身を起こし、あたりを見渡せばそこは墓地である事に驚いた。

そして、自分が横たわっていた場所が棺である事にもっと驚いた。


グラディラスはその女性に向かって、


「俺は?どうして棺に?」


女性はホホホと笑って、


「貴方はこの帝国を守った英雄として葬られたのよ。気の毒に。急病で亡くなるだなんて。まだお若かったんでしょうに。」


年寄りの髭を蓄えた男性が、


「本当にのう。帝国民、皆が嘆き悲しんでおったぞ。そこへ皇帝陛下が、英雄は亡くなったが、これからはこのユリノウス皇帝が、帝国を明るい未来へ導くと力強く言っておったわ。」


金の髪の女性が自己紹介をする。


「わたくしが貴方の魂を呼び戻しましたのよ。わたくしは、レイリア。ラーゼスベルグ公爵家の娘でしたわ。ラリア皇女様の機嫌を損ねて、殺されましたの。表向きは自殺と言う事で片付けられましたわ。」


年寄りの男性も自己紹介をする。


「わしは、政敵に陥れられ、馬車に細工をされ殺された元宰相ラッテル・ライノテラスじゃ。そこにいる連中は皆、皇帝陛下や皇女や宰相に殺された連中なのじゃ。」


数人の男女達は口々に、


「恨めしい。もっと生きたかった。」

「皇帝陛下の機嫌を損ねたばかりに…」

「悔しい…」


グラディラスは、皆に向かって、


「復讐をと言う事だな。それで俺を生き返らせた。」


レイリアはにっこり微笑んで、、


「でも、死人だから、出来る事は限られているのですわ。死霊の掟、この冊子を読んでみて。」


「え???死霊の掟?」


どうも自分は生き返った訳ではなく、死霊らしい。

渡された冊子を読んでみれば、


頭が痛くなった…


すごく地味な復讐しか出来そうもないのだ。


しかし、周りの皆は真剣そのものだった。


レイリアが励ますように、


「頑張りましょう。とりあえず、ユリノウス皇帝は貴方とわたくしと、ラッテル様の担当ですから。」


「解った。」


死霊の掟に従って復讐する事にしたのだ。



贅沢三昧をしているせいか、でっぷりと太っているユリノウス皇帝が豪華なベッドで寝ている。

隣には黒髪でそれはもう美しい愛妾のマリアが寝ているのだが、二人とも素っ裸である。

非常に嫌な光景だ。

レイリアがグラディラスとラッテルに、


「まずは、金縛りを体験させましょう。」


ラッテルも頷く。


「そうじゃの。」


金縛り…ユリノウス皇帝の身体を押さえつけて、動けなくするのだ。

そして、耳元で恨み言を囁くと言う復讐なのだが。


しかし、死霊の言葉が聞こえるのか?ともかく、何か言わないと気が済まない。

聞えなくても押さえつけながら囁く事にした。


眉をひそめながらレイリアが、


「素っ裸の男性なんてわたくし、押さえつけたくありませんわ。」


ラッテルも、


「わしも嫌じゃ。わしが復讐したいのは政敵ザルノフじゃからの。」


グラディラスは再び頭が痛くなった。


自分だって皇帝を押さえつけたくなんて無い。特にでっぷりと太った男をである。


しかし、英雄として、この皇帝に毒杯を賜った自分がやらねばなるまい。


素っ裸の皇帝の上に、のしかかり、その身体を押さえつける。

あああ…どうせなら女性を押さえつけたかった…

グラディラス、没年27歳。剣技一筋、童〇である。


押さえつけながら、ユリノウス皇帝の耳元で囁く。


「俺はお前に毒杯を飲まされて殺されたのだ。恨んでも恨み切れない。」


ユリノウス皇帝はうなされる。


「ううううん…身体が重い…身体が動かん…」


「俺はお前の事を…」


「きゃあああああっーーー。皇帝陛下の上に男性がっーーー。ええええっ??何で何でっ??」


隣に寝ていたマリアが頬を赤らめて、叫んでいる。


いや、ここは皇帝を暗殺しようとした犯人を見て、悲鳴をあげるところだろうっ?


その前になんで自分の姿が見えるんだ?死霊である自分は見えないはずである。


ふと、周りを見渡せば一緒に来ていた連中は、さっさと逃げたらしく誰もいない。


マリアに抱き着かれて、


「どうせ襲うなら私にしてっーーー。なんてイイ男っ。」


「離さんかっーーー。」


ユリノウス皇帝が目を覚まして、


「な、なんじゃ何が起きておるっ?」


「復讐しに来たのだ。覚悟しろ。」


しかし、死霊の掟の冊子に、


- 死人は生きた人間に大きな危害は加える事は出来ない。-


と書いてあった…出来る事は制限されているのだ。


ふたたび、ユリノウス皇帝を押し倒して、


「金縛りをし続けてやるっ。そして耳元で呪いの言葉をっーー。」


「うううっーー。身体が重いっ??マリアッ…どうにかっ…」


「襲うなら私にしてーーー。」


「???」





その様子を窓の外から覗いている、レイリアとラッテル…


「修羅場ですわね。」


「わしが回収してこようか?」



グラディラスはラッテルに肩をぽんと叩かれて、


「今夜は撤収じゃ。」


「解った…」



マリアが叫ぶ。


「あああんっ…イイ男っ。又いらしてね。」


その言葉を背に受けながら、急いで撤収する。


3人は墓地へ戻った。


他の連中も上手くいかなかったらしく、落ち込んでいる。

ラリア皇女とザルノフ宰相の元へ行ったのだが、

思うようにいかなかったようだ。


「ザルノフ宰相は女とお楽しみ中だった…」

「ラリア皇女は、男二人を引き込んでおったぞ…」


それにしても…

グラディラスはレイリアに聞いてみる。


「俺達の姿は相手から見えないはずだが、何故?マリアと言う女は俺の姿が見えたのだ?」


「霊感が強いのですわ。そういう人間ってまれにおりますから。」


「霊感が強い…何だかな…」


男にのしかかる自分…凄く嫌な光景を見られたような気がする。


レイリアが改めて、冊子を手にして、


「さぁ復讐を考えないと。」


冊子をめくりながら、


「窓の外に人魂を飛ばす…復讐にしては弱いわ。」


ラッテルも冊子を見ながら、


「これなんかどうかのう。鏡の中からじいいいっと見つめる。鏡を通してなら、見えるのじゃろう?」


グラディラスは頭が痛くなった。


なんて地味な復讐なのだろう。


ここは派手に恨みを晴らせないものか。



ともかく、人魂を飛ばす事にした。


釣竿を持ち、糸に火の玉をつけて振り回すのである。


窓の外で皆でそれをやっていたら、マリアと言う例の女が窓を開けて声をかけてきた。


「なに??これってお祭り?お祭りなの???」


グラディラスが釣竿を振り回しながら、


「どこが祭りだ?どこがっーーー。人を呼んで来い。人魂を見たって言いふらすがいい。」


「えええええ?どこが人魂よ。火の玉を振り回しているだけじゃない。面白いわ。」


「ああああっ…」





失敗した。なんだ?あのマリアって言う女は…皇帝の愛妾とか言ったな…




次に試したのはポルターガイストとか言う物が飛ぶ現象なのだが、


ユリノウス皇帝の部屋にある本やら、カップやらを皆で投げ合ったり、手でカタカタとテーブルを揺らしたりしていたら、マリアがまた現れて、クスクスと笑われた。


「何やっているのかしら。面白いわーー。幽霊さん達が物を動かして遊んでいるわ。」


「ああああっーーー。」



復讐をするつもりが、ことごとくあの愛妾のせいで失敗をする。


皆で墓地でため息をついていると、そのマリアがランタンを手に、現れた。



「幽霊は墓地に集まるっていうけれども本当ね。」


グラディラスは、マリアを睨みつける。


「お前は何故、俺達の姿が見える?」


「さぁ、霊感が強いのかしら。わたしが、いえわたくしが貴方達の復讐に協力してもいいのよ。」



マリアは墓石の上に腰かけた。


「皇族は守護の力が強いの。毒は弾くし、刃は無効化する。わたくしは高位の貴族令嬢だったのよ。それを無理やり愛妾にされた。お父様もお母様も殺されたのよ。」


レイリアが目を見開く。


「マリア…貴方の本当のお名前は…」


「マリアーテよ。レイリア。貴方とはお会いした事はないけれども、ラグノア公爵家と言えば聞いた事はなくて?」


「聞いた事はあるわ。あそこの家は罪を犯して取り潰された…5年前に…禁止されていた麻薬を扱っていたとか言う罪だったわね。」


「そうよ。わたくしは、復讐したい。皇族を守っている守護の力を無効化すれば、ユリノウス皇帝を殺す事が出来る。彼をもっと弱らせないと…無効化するのは無理だわ。そこで、貴方達、金縛りを毎日続けて欲しいの。朝昼彼に取り憑いて、彼の体力が弱れば、守護の力が弱まると思うわ。」


グラディラスは頷いて、


「解った。マリアーテ。ここは手を取り合って、まずはユリノウス皇帝を。我らの復讐を。」


「共に頑張りましょう。」


こうして、マリアこと、マリアーテの力を借りて、まずはユリノウス皇帝に復讐する事にした。


ユリノウス皇帝に朝昼晩、前から抱き着いて、後ろからおぶさって、

女性や他の幽霊たちは嫌がるので、グラディラスとラッテル二人がやる事になった。


マリアから見たら滑稽な光景であろう。だが、抱き着く事で守護が弱まるなら、いくらでも抱き着いてやろう。おぶさってやろう。なんとしてもユリノウス皇帝をまずは殺すのだ。


前からグラディラスがしがみつき、後ろからラッテルがおぶさって、二人がかりでユリノウス皇帝の身体をギリギリと締め上げる。


「最近、身体が重くてのう…食欲も湧かぬ…」


毎日抱き着き、おぶさりを続けていたら、ユリノウス皇帝は元気がなくなっていった。

マリアが心配するように、


「疲れているのですわ。少し、公務をお休みになったら如何。」


「そうは言ってものう。」


そこへラリア皇女がやって来た。

グラディラスは憎しみが蘇る。


あの女は好き勝手して、自分の預貯金を使い切ったのだ。

苦労して貯めたお金を…


あああ…首を絞めてやりたい。

出来る事が限られているのだ。金縛りや、抱き着いて徐々に弱らせる事しか出来ない。

死霊の掟の冊子が恨めしい。


「父上。父上はお年なのですから。少し、愛妾との夜がお盛んなのでは?」


「それはそうじゃが…マリアの身体がよくてのう。」


「そうですの。それはそうと、わたくしの結婚の相手は決まりましたの?あの小生意気な英雄もおとなしくわたくしと結婚していれば、女帝の伴侶として生きる事が出来たというもの。それなのに、どうしようもない愚かな男。」


グラディラスはユリノウス皇帝から離れて、ラリア皇女の首に手をかけ、両手でぎりぎりと締め付けた。


ラリア皇女は首筋に手をやって、


「あら、首が痛いわ…わたくしも疲れたのかしら。リュート。いらっしゃい。わたくしの首の付け根を揉んでちょうだい。お部屋へいきましょう。」


ラリア皇女はリュートと言う警護騎士と共に、部屋の方へ歩いて行ってしまった。


ああ…殺したい…ラリアが憎い…


ラッテルにポンと肩を叩かれる。


「わしらは死霊じゃからのう。まずはユリノウス皇帝からじゃ。」


「解っている。」



それからもひたすら、二人はユリノウス皇帝に抱き着き、おぶさった。

そしてついに、ユリノウス皇帝が病に倒れたのだ。


病の床でもグラディラスが上から押さえつけて、身動き取れないようにし続けた。


憎い憎い憎い…なんとしてもこのユリノウス皇帝を殺さないと…


日に日に弱っていくユリノウス皇帝。

原因不明の病と言われ、今日か明日か…と言う死の床について。


マリアは医者や立ち合いの人々に向かって、


「愛する皇帝陛下と少し二人きりにして下さいませんか。募る思いを語りたいと存じます。」


マリアは王妃亡き後、唯一寵愛されてきた愛妾である。


ザルノフ宰相が、


「では、30分だけ、時間をやろう。」


マリアは二人きりにしてもらった。



ユリノウス皇帝が瞼を開けて、


「ハァハァ…苦しい…わしはもう…長くはない…」


「そうね。長くはないわね。」


ユリノウス皇帝の耳元で囁く。


「わたくしが貴方様を憎んでいないとでも?我が公爵家を無実の罪で裁いて。父と母は無実だったはず…貴方様がわたくしを手に入れる為に、仕組んだとわたくしが知らないとでも?いい気味だわ。苦しんで苦しんで死ぬがいい。」


「マ…マリア??」


「ほら、貴方には見えないでしょうけれども。貴方に殺された人たちが貴方に取り憑いているわ。皆、憎い憎いって…恨み言を言っているわよ。」


グラディラスはユリノウス皇帝の身体を思いっきり力を籠めてベッドに押さえつける。


他の死霊達も、その様子を見守っていた。


ユリノウス皇帝は真っ青な顔をして、


「か、身体が重い…マ、マリア助けてくれ…」


「わたくしはマリアではない。貴方がマリアにしたのよ。わたくしの名はマリアーテ。貴方の愛妾になっていても、マリアーテの…公爵家の娘の誇りは忘れてはいないわ。」


「ハァハァ…」


ユリノウス皇帝は、ついに力尽きたように息絶えた。


グラディラスはそっとその身体から離れる。


復讐をやり遂げたのだ。


レイリアが息絶えたユリノウス皇帝を睨みつけながら。


「まずは一人…」


ラッテルも頷いて、


「後はラリア皇女とザルノフ宰相じゃな…」


グラディラスはマリアに礼を言う。


「有難う。マリア。いやマリアーテ。君のお陰だ。」



マリアは黙って首を振ってから、外に向かって叫んだ。


「きゃぁああああ。皇帝陛下が息をしていませんわ。ああ…皇帝陛下がっ…」


大勢の人たちが飛び込んで来て、こうしてユリノウス皇帝は亡くなったのであった。




ユリノウス皇帝の葬儀が盛大に行われて、ラリア皇女がラリア女帝となった。


あのラリアをそして、ザルノフ宰相を殺さなければ、グラディラスの復讐は、他の皆の復讐は終わった事にはならない。



マリアは皇宮から、僅かばかりのお金を貰い、出て行くことになった。

出る支度をしているマリアにグラディラスは会いに行く。


「君のお陰で復讐をすることが出来た。有難う。」


「いえ。わたくしこそ有難う。貴方様の事は存じておりましたわ。英雄ですもの。急病で亡くなったと聞いた時はとても悲しかった。お会い出来た時は嬉しくて嬉しくて。」


「そうだったのか…」


「こんな形では無くて、公爵家の娘として、貴方様の結婚相手としてお会いしたかった。」


マリアはホホホと笑って、


「世迷い事よ。私は皇帝陛下の愛妾だったマリア。淫らな女よ。貴方みたいなイイ男と寝たかったわ。頑張って頂戴。それでは私は行くわ。」


マリアの後姿を見送るグラディラス。


次なる標的、ラリア女帝をそして、ザルノフ宰相を倒すのだ。






皆で墓地で相談する。


さすがにラリア皇女に抱き着いてと言う復讐はグラディラスは嫌だった。

憎い女である。

触りたくもない。


何とか別の方法はないものか。

皇族の罪を声高らかに叫びたい。


ラッテルが変な生き物を抱っこしていた。


グラディラスが聞いてみる。


「どうした?その生き物は?」


レイリアがきゃぁと声をあげて。


「可愛いわ。ピヨピヨ精霊ね?もう、この人間界にはいないと思っていたのだけれども。まだいたのね。」


ラッテルはレイリアにピヨピヨ精霊を手渡す。


レイリアは抱っこする。

目はつぶらで、嘴がついていて、小さな羽がついている精霊である。

ぴよぴよと鳴いてレイリアに甘えている。


グラディラスはふと思いついた。


「ピヨピヨ精霊は女神様が人間界から回収したと聞いた事がある。人間がピヨピヨ精霊の森を焼き払おうとした事件があった。それを守る為に女神レティナが神殿へピヨピヨ精霊達を回収したと…女神レティナに頼めないものか。俺達が少しの期間でもいい。人間に戻って復讐できないかと。」


ラッテルも他の皆も頷いて、


「それじゃのう。最後の一花咲かせてみるか。」


レイリアも頷いて、


「そうですわね。そう致したいですわ。」


グラディラスはレイリアからピヨピヨ精霊を受け取って、天に掲げる。


「女神レティナよ。ここにピヨピヨ精霊がいる。降りて来てほしい。そして我らの願い、叶えたまえ。」



空から一筋の光が差して、金色に光りながら女神レティナが降りて来た。


「わたくしを呼ぶのは貴方?まぁ、この子、まだ人間界にいたのね。さぁおいで。仲間達の元へ連れていってあげるわ。」


「ぴぃよーーー。」


ピヨピヨ精霊は女神レティナの元へ飛んで行った。


レティナはグラディラスに、


「礼を言います。有難う。この子の事を知らせてくれて。」


グラディラスは跪いて、


「どうか、我らの願いを。復讐をやり遂げたいのです。少しの間だけ人間に戻りたい。ラリアを…ザルノフをっ。願いを叶えて下さいませんか。」


「解りました。10日間だけ、願いを叶えましょう。その間に貴方達のやりたい事をやりなさい。」


「有難うございます。」



その10日間とは、ラリア女帝が、伴侶を選ぶ皇宮のパーティの前、10日間にしてもらった。

ラリアをその場で断罪し殺すのだ。ザルノフ宰相も共に。


その為に人間に戻ったグラディラスは昔の知り合いを訪ねる事にした。


騎士団長ガリストに会いに行った。

ガリストとは隣国の戦いの時、海賊との戦いの時、そして森を開墾し畑を作る事をしていた時に騎士団を率いて協力してくれた。


人相は悪くて口も悪いが、根はよい騎士団長である。


騎士団事務所前で待ち伏せをする。馬車に乗り込もうとした所をとっ捕まえた。

フードを取って顔を見せる。


「何だお前生きていたのか?」


ガリストは驚くも無く、平然と聞いて来た。そして、


「まぁ、不思議ではあるまい。お前は図太い奴だからな。病ごときで死ぬようなタマじゃあるまい。ともかく馬車に乗れ。」


馬車に乗せて貰って正面に座り、ガリストと久しぶりに話をする。


グラディラスは懐かしさを感じながら、


「相変わらずだな。俺は毒杯を賜って死んだんだ。信じられないようだが。10日後にその復讐をする。」


「ん?俺は帝国を守る騎士団長だ。そんな俺に言っていい事か?」


「俺が皇帝を殺したと言ったらどうする?」


「皇帝陛下は病で亡くなったんだろう?お前も急病で亡くなったと聞いた。これって…」


「だから、毒杯を賜ったって言っただろう。皇帝陛下に。俺はその復讐の為に皇帝陛下に取り憑いて殺したんだ。」


ガリストは首を捻って、


「お前、幽霊に見えないが…」


「10日間だけの命だ。協力して欲しい。あのラリア女帝とザルノフ宰相を断罪したい。お前だって皇族のやりようには頭に来ていたじゃないか。」


「それは確かに。お前の貯金がすっからかんになった時は頭にきたが。だが、俺にも家族がある。お前の事を全て信じた訳ではない。」


「それはそうだ。それならば、俺のやる事を邪魔しないで欲しい。いいな。」


「約束は出来ないが…」


馬車から降ろして貰う。


時間がない。知り合いを回り、協力を仰ぐのだ。もしくは邪魔しないで欲しいと頼むのだ。


レイリアもラッテルも他の皆も動いているはず。


ラッテルは昔の仲間に頼んで、ザルノフ宰相の不正の証拠を集めているとの事。


やれるだけの事はやろう。



そして、決行の日の前日、レイリアが声をかけてきた。


「お父様お母様にこっそりと会いましたわ。二人ともわたくしの事を信じてくれて。わたくしは二人の前に逝かなくてはならないなんて、なんて親不孝な娘なんでしょう。」


グラディラスは頷いて、


「そうだな。レイリアのご両親の気持ちを考えると、とても胸が痛む。俺は天涯孤独だから悲しむ両親もいないが。」


「ご両親がいないのですの?グラディラス様は。」


「ああ。幼い頃に亡くなって祖父母に育てられた。その祖父母もとっくの昔に亡くなったな。全てが終わったら、亡くなった人たちに会えるのだろうか…それとも無に戻るのだろうか。」


レイリアが手を握り締めてくれて、


「きっと会えますわ。会えるように願っております。わたくし、短い間でしたけれども貴方様にお会い出来てとても幸せでしたの。生きている間に貴方様とお会いして、エスコートして頂きたかった。ダンスを踊りたかったですわ。わたくし、ダンスがとても得意なんですのよ。」


「残念だ。俺はダンスの心得が無くて。」


「それならば、今だけ、こうしていたい…お願いですから。」


レイリアが抱き着いて来た。


グラディラスは思わす抱き締めてしまう。


- 生きている間にこのような令嬢と恋したかったな。-


グラディラス、没年27歳。剣技一筋、童〇である。


何とも言えない思いを抱きながら、夜は深けていくのであった。




そして翌日、伴侶選びのパーティが始まった。思いっきり着飾ったラリア女帝が会場に現れた。

高位貴族の令息達が姿を現す。

婚約者がいながら、泣く泣くパーティに出席する高位貴族達も多かった。


ラリア女帝の命は絶対である。


そこへ、グラディラスはレイリアをエスコートして現れた。レイリアがドレスを着たいと言うので、彼女は豪華な春色のドレスを着て思いっきり着飾っている。ラッテルや他の死霊達も着飾って現れる。勿論グラディラスも黒一色の貴族服で着飾っていた。

皆、最後の一花咲かせる今日と言う日を華やかに着飾ると決めてきたのだ。


ラリアはグラディラス達を見て驚いた。他の貴族達も驚く。

亡くなった連中が現れたのだ。


「お前達、死んだはずではなかったの?」


グラディラスはラリアを睨みつけて、


「墓の中から生き返って来たのだ。俺はお前達皇族に毒杯を命じられて殺された。」


レイリアも叫ぶ。


「わたくしも、ラリア様の機嫌を損ねたと言うだけで、暗殺者に毒を飲まされたのですわ。」


ラッテルも、


「わしはザルノフに、陥れられて、お前の部下に馬車に細工をされて殺されたのじゃ。」


ザルノフ宰相は首を振り、


「わしは知らんぞ。」


「お前は宰相になりたかったのと同時に不正を暴かれるのが怖かったのじゃろう。これが不正の証拠じゃ。」


ラッテルが集めた書類をばらまく。慌ててザルノフ宰相が見れば真っ青になる。


自分がやってきた不正が暴かれた書類だからだ。


他の死霊達も口々に、自分を殺した犯人、ラリアやザルノフの事を口にする。



グラディラスは腰の剣を抜いて、


「俺は帝国の為、ラリアを女帝と認めない。ここで英雄グラディラスの名において、ラリアを処刑する。」


ラリアは騎士達に命じる。


「グラディラス達を殺しなさい。」


騎士達は誰も動かない。


騎士団長ガリストがラリア女帝に向かって、


「貴方様のやってきた事は英雄グラディラスに対してあまりに非道な事。命令は聞きかねます。」


他の騎士達も口々に、


「私も同じく、命令を拒否します。」


「私もです。」


グラディラスはガリストや騎士達に感謝をする。


レイリアの両親の顔が見える。二人とも泣いているようだ。


グラディラスは何としてもラリアとザルノフを倒さないとと二人に迫る。


「ラリア、ザルノフ、覚悟しろ。」




「許してっ。わたくしは悪気はなかったのよ。」


「わしもじゃっ。」



グラディラスは、鮮やかな剣裁きでまず、ザルノフの首を跳ね飛ばす。

ラリアの首を跳ね飛ばそうとして、刀が弾き返された。


皇族の守護の力が働いたのだ。


どうする??このままラリアを殺すことが出来なければ…

なんて愚かな…なんて自分は馬鹿なんだ。


ラリアがホホホと声高らかに笑って、


「今なら許します。ガリスト騎士団長、騎士団、この男を、この男と共にいる連中を殺しなさい。」


誰かが金色の鈴をラリアに向かって投げつけた。


その金の鈴がラリアの首に当たった時、グラディラスは感じた。


守護の力が弱まった。


「覚悟しろ。ラリアっ。」


再び剣をラリアの首に向かって振るう。


今度こそラリアの首が跳ね飛ばされた。




刎ねた途端、グラディラスと他の人達は死霊に戻ってしまう。


首を刎ねられたラリアとザルノフも死霊になってしまった。


女帝と宰相がグラディラスに殺されたのだ。人々が悲鳴をあげる。


グラディラスと共にいた連中は消えてしまった。





死霊になって震えながらグラディラス達を見るラリアとザルノフ。


グラディラスは二人に向かって、



「お前達の魂ごと、破壊してくれる。」


いつの間にか、皆、墓地に立っていた。



スっと女神レティナが現れてグラディラスの背後から声をかける。


「ここからは、闇の神の領域よ。」


ラリアとザルノフの魂を真っ黒なフードを被った顔が見えない男がひっつかむ。


「ひいいいいっーーー。」

「助けてくれっーーー。」


二人の魂は青い炎となって、男の手に握られており、


「こやつらの魂、貰っていくぞ。地獄の裁きを受けねばならぬ。」


女神レティナは微笑んで、


「グラディラス。これで満足したでしょう。ユリノウス皇帝も、この二人も、これから地獄の裁きを受ける。貴方達の復讐も終わったのよ。」


グラディラスもレイリアも皆、頭を下げる。


「有難うございました。これで、俺も安心して眠る事が出来ます。」


レイリアも頭を下げ、


「わたくしも、これで安心して…本当に有難うございました。」


ラッテルも他の皆も頭を下げ、女神レティナに礼を言う。



女神レティナは皆に向かって、


「貴方達に頼みたい事があるの。わたくしと一緒に来てくれないかしら?」








「ぴよぴよぴよぴよぴよぴよーーーー。」

「ぴいいいよーーーー。」

「ぴよぴよーーーーーっ」



そして、今、グラディラス達は沢山のピヨピヨ精霊達と暮らしている。

女神レティナの神殿に住むピヨピヨ精霊達の世話をしているのだ。


女神レティナの伴侶のレオンシードはハチミツの壺にハチミツを入れ、他の使用人達と共に、ピヨピヨ精霊達に与えている。


ピヨピヨ精霊達は争奪戦を繰り広げて、ハチミツを高速で食べまくっているのだ。


レオンシードはグラディラスに、


「人手不足で君達が来てくれて助かった。ピヨピヨ精霊達を追い立てて運動させてやってくれ。皆、神殿でゴロゴロしていて太り気味なんだ。」



グラディラスはこうして、ゴロゴロしているピヨピヨ精霊達を追い立てて、運動させる生活をするようになった。


「びよびよびよーーー。びよっーーーー。」

「びよびよびびびよっーーー。」

「びよびよびよーーー。」


ピヨピヨ精霊達は不満気に鳴きながら、神殿の中で運動している。

女神様の神殿は広いのだ。だがピヨピヨ精霊達が住んでいた森と比べれば狭い。

美味しいハチミツを腹一杯食べたらゴロゴロしてしまう。

頑張って運動させないと。ともかく動かさないと。


レイリアがグラディラスと共にピヨピヨ精霊を追い立てながら、


「こういう平和な生活も良いですわね。」


グラディラスもピヨピヨ精霊達を追い立てながら、


「そうだな。レイリア。その…俺は君の事を…」


「わたくしも貴方様の事を…」


グラディラスがレイリアの顔を見ればレイリアは真っ赤になって、


「ちゃんと言って下さいませ。」


「俺はレイリアと結婚したい。いいかな…」


「勿論ですわ。」


グラディラスはレイリアをぎゅっと抱きしめた。




女神レティナの神殿で、グラディラスはレイリアと結婚し、幸せに暮らした。

他の死霊達も神殿で幸せに暮らしている。


ふと、あの時、金の鈴を投げて自分を助けてくれた人物は誰だったのか思い出す。

鮮やかな黒髪。見覚えのある顔…あれは…

彼女が助けてくれたのだ。

今、彼女はどうしているだろうか。幸せだとグラディラスは信じる事にした。




今日も、ピヨピヨ精霊達を追い立てて、太り過ぎないように運動させる日々。

グラディラスは幸せを満喫し、レイリアと共に天から差し込む光を見上げながら、女神レティナに感謝するのであった。




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[良い点] 面白かったです! 『死霊の掟、この冊子を読んでみて』って(笑) 熟読してる様を想像して楽しかったです。 そしてピヨピヨ精霊たち(笑) ピヨピヨ精霊が出てくるとハッピーエンドの前振り感がすご…
[気になる点] この後マリアーテが幸せになったのか?それが気になって仕方ないです。 [一言] とにかくマリアーテさんが幸せになりますように。。。。!
[一言] ピヨピヨ精霊いい仕事した…。 怖い話のはずなのに、背中に乗っかるしか出来ない皆さんが努力してる姿が毎日仕事してるサラリーマンのようでした。 復讐譚の話なのに、プロジェクト推進記録みたいな朗ら…
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