砂丘に咲く浜昼顔は、黄金色に輝く薔薇に愛されている事に気付かない!
駄目駄目シスターズの長女のお話です。こちらも次女ミルフェーヌ同様にほっこりしていると思います。婚約者のライオネスが健気でいじらしくなると思います。読んで頂けると嬉しいです。
「貴女、婚約破棄しなさいよ」
お茶の時間に、突然イオーリア王国第一王女のメラニーは、末っ子のサララ王女とともに、一つ年下の妹にこう言った。
「いや、私と婚約解消したらお姉様がその後釜狙っているのが分かってて、解消なんかできないわ。姉妹揃って婚約解消したら、いくらなんでも王家として格好がつかないでしょ」
第二王女のミルフェーヌはゆっくりとジンジャーティーを飲みながら言った。
そう、姉のメラニー王女にはケンプトン公爵家の嫡男ライオネスという、立派な婚約者がいるのだ。しかもこのライオネスは王太子である兄のマクシミリアンと同じ年の幼馴染みで側近。その上金髪碧眼でスタイル抜群。これこそザ・王子って感じの美青年だ。
しかしメラニーはこの美青年を苦手としている。何故彼を避けようとしているのかといえば、彼は野性的イケメンの妹の婚約者オーリィーとは違って、女性的な美しさのため、平凡顔の彼女は酷くコンプレックスを刺激されるのだ。
ライオネスは神殿に描かれている美の女神のように美しい顔の持ち主。
しかも美しいだけではなく、天才と名高い兄の王太子に匹敵するほど優秀で、武術も優れている完璧な男だ。
その上性格もいいし真面目だ。
せめて見た目に反して性格がいまいちだったら、どんなに救われただろう。
欠点のない婚約者には、何一つ文句を言えないどころか、妹達のように相手を庇ったり励ましたりする事も出来ない。彼はそんなもの必要としていないから。
もしナルシストだったり傲慢な男であったら、手放しで褒め讃える事も出来ただろうが、彼はそんな事を望んではいなかった。
顔には表さなかったが、賛美の言葉はあまり好きではないようだった。それでは嫌がらせにわざと褒めてやろうかな、などと考えた事もあったが、それはそれで虚しくなりそうなので実行には移せなかった。
末の妹のサララが生まれる以前から、王家では同じ年齢くらいの子供達のいる貴族を万遍なく招待していた。しかし、王家の四人の子供達と厳しい討論をして一方的に論破された子供達は、そのうちに徐々に姿を現さなくなった。
その結果、その後も王家の招待に応じるようになったのは、ケンプトン公爵家、オルディード侯爵家、トンソン公爵家、サザーランド伯爵家の四つの家になっていた。
しかもそれは同じ家の兄弟でも皆が共に招待に応じた訳ではない。ライオネスの二つ年下の弟などは、マクシミリアンとベンジャミン兄弟にこてんぱんにディベートでやっつけられて大泣きし、プライドが異常に高い公爵家の次男は、二度と王宮にはやって来なかった。
何故彼が王子達の集中砲火を受けたのかと言えば、メラニーを見下すような事を言ったからだったが、メラニーがそれを知ったのは、大分後になってからだ。
ケンプトン公爵家の次男は兄ほどではないが恵まれた容姿をしていた。それ故に彼はその家柄の良さと相まって周りからちやほやされ、無駄にプライドの高い、嫌味な子供だったのだ。
ライオネスはメラニーと婚約してから、絶対に自分の弟を彼女に近づかせなかった。自分の大切な婚約者を貶め傷付ける者は、たとえ弟であろうが許せなかったのだ。
そしてその後弟は、都から遠い辺境伯の跡取り娘と婚約させられた。辺境伯になれるのだから、申し分のない縁組だったのだが、派手好きで社交好きの彼にとっては望まない婚約だった。
しかし、彼が王太子殿下達に嫌われている事は半ば公然の秘密で、彼を婿にしたい高位貴族はいなかったのである。
もし彼が失敗をした後でも、反省し、謙遜とか人を敬う精神を持つようになっていれば、きっと未来は変わっていたであろうに。
彼は王子達に嫌われただけでなく、温和でまるで女神のようだと評されていた優しい兄からも見放されてしまったのだ。
このように、ライオネスは婚約者のメラニーを心から愛していた。しかし、残念な事に彼女にはほとんど伝わっていなかったが。
さて、それはともかく、王妃がわざわざ政治的見識を持ってチョイスをせずとも、子供達の将来の側近達は子供達の手で着々と選ばれていった。もちろん、子供達はただ遊んでいただけで、大人達の思惑など気にもしていなかったのだが。
ところがだ。王家には空気の読めない人物がたった一人だけいた。
メラニーが七歳になったある日、王家のホームパーティーに珍しく参加していた国王である父親が、目に入れても痛くないと公言している愛娘のメラニーに向かってこう言ったのだ。
「かわいいメラニー。今日はお前の婚約者を選ぶぞ。今ここにおる子供達は、いずれこの国をお前の兄と共に支えていく者達ばかりだ。さぁ好きに選んでもいいぞ。どの者を選んでも安心だからな」
「「「陛下!!!」」」
いつもお淑やかで落ち着いている王妃や、側室であるメラニーの母親、そして招待を受けて訪れていたご夫人達が思わず声をあげた。
王宮の庭園で遊んでいた子供達もぎょっとして国王とメラニー王女を見て固まった。
するとメラニーは庭園にいる子供達を見回しながらこう言った。
…オルディード侯爵家の一番上のお兄様は、お年が少し離れているので、パスです
…二番目のオーリィー様はご次男だし、乱暴だし、私よりずっと小さいから嫌です
…三番目の末っ子のローリィー様は、爵位無しですし、泣き虫で怠け者だから問題外です
…トンソン公爵家のロジャー様はお母様の言いなりで、何でも人にやってもらっているような人なので尊敬できません
…サザーランド伯爵家のブラッドリー様は真面目で優しそうですが、個性がないので、ちょっとです
…ケンプトン公爵家のライオネス様は・・・私同様に庭園に咲く薔薇のようで、私にぴったりだと思います・・・
「「「・・・・・」」」
その場が凍った。
メラニーの父親である国王が頭を抱えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時を戻せるものならば、十年前のあのホームパーティーの日に戻りたい。いや、色々と心づもりも必要だから、それより少し前の方がいいかしら。
メラニーはあの当時大変な勘違いをしていた。彼女はそんな自分に忠告というか、真実を突き付けてやりたい。
国王である父親はとにかくメラニーを溺愛していた。
最初の子である嫡男マクシミリアンが、しっかり者の妻(正妻)にそっくりで、見目麗しいが頭が切れすぎるので、少し苦手にしていたせいもあるのだろう。まあ、王の後継者としては申し分ないと満足はしていたのだが。
それに比べて側室が生んだ娘は自分にそっくり、瓜二つだった。燃えるような赤い髪、濃い緑色の瞳、真っ白な肌、愛らしい小さくてぷっくりとした唇。
父親は娘を抱きしめて、かわいい、かわいい、お前は庭園に咲く高貴な赤い薔薇の花のようだと、毎日耳元で囁き続けた。これで勘違いしない子供がいるだろうか、いや、いないだろう。
いくら賢婦として名高い妻達でも、愛する娘にお父上のおっしゃっている事は勘違いで、貴女は平凡な地味顔なのよ、とはとても言えなかった。
いくら毒舌兄弟とはいえ、大切な妹(姉)に真実は教えられなかった。
その上メラニーの一つ半下の妹は、そもそも人や物の美醜に全く拘らない上に、姉大好きっ子だったので、
「お父上様のおっしゃる通り、お姉様はお庭の真っ赤な薔薇のお花のようですわ」
と、心からそう思って言っていた。父親と妹はけして嘘などはついていなかった。しかし真っ赤な薔薇のようだとは言ったが、美しいとか綺麗だとか一言も言っていなかったのだ。それでもそれはメラニーに誤解させるには十分だった。
父親は優良物件を他所に取られる前に、早くメラニーの婚約者を決めてしまいたかったのだろうが、それは大間違いだった。この事により彼は、愛する娘から恨まれ続ける事になったのだから。
メラニーはライオネスと婚約して間もなく、幼年学園へ入学した。そして初めて自分が美人のカテゴリーには入らない事を察した。そして、ライオネスとは全く釣り合わないという事を。
『月とスッポン』
『雲泥の差』
『大人と子供の差』
これらの諺は婚約者と自分の為にある言葉ではないかと、メラニーはしみじみと思った。
誰からも面と向かっては何も言われはしなかった。メラニーは王女だったし、妹思いのマクシミリアンが恐ろしい目で睨みを利かせていたので。しかし、周りの様子や雰囲気で元々頭のいいメラニーは何となく察した。
そしてそんなメラニーに最終通告を突き付けて、完全に思い知らせたのは、まだ三歳だった末っ子の妹の言葉だった。
「メラニーお姉様は、絵本の中の赤い野薔薇に似ていますね。
それにお顔がお父上にそっくりですよね!」
ー王宮の庭園に咲く真紅の薔薇ではなく、野生の赤い野薔薇・・・
ー赤鬼と評される国王である父親にそっくり・・・
これは王宮のみならず、貴族社会、幼年学園では禁句だった。しかし、まだ三歳の幼女の口までは防げはしなかった。その末っ子の口を両手で覆った愛妾である彼女の母親は、真っ青になってその場に蹲ってしまったのだった。
自己認識が出来てからだったら、絶対にライオネスを婚約者などには選ばなかった。サザーランド伯爵家の、自分と同じ地味なブラッドリーを選んでいただろう。
いや、それはブラッドリーに失礼だわ、とメラニーは思う。彼は今や学園の生徒会長として活躍し、将来有望な青年となり、多くの後輩達から尊敬の念を抱かれているのだから。
「今の兄がいるのはメラニー様のおかげですわ。十年前のあの日、パーティーで王女様に失恋してから、兄はとても奮起しましたの。
それにトンソン公爵家のロジャー様も今ではとてもご立派になられて、アンリエット様も、もうご実家の心配はいらなくなった、肩の荷がおりたとほっとされていらっしゃいましたよ。これで安心してマクシミリアン殿下の元に嫁げる。これもみなメラニー様のおかげたと」
ブラッドリーの年子の妹で、メラニーの親友。そして弟のベンジャミンの婚約者で、未来の義妹になる予定のジョアンナにそう言われた時、メラニーの顔が引きつった。十年前の事なのにあの場に居た誰もが、あの日の事を今だに忘れてはくれないのだ。
いや、彼らだけではない。あの日の事を父親がよりによって宰相に相談してしまった為に、その話が外に漏れてしまった。そのために、メラニー王女は頭自体は良いのに、大きな勘違いをしている残念な駄目駄目王女だ、と社交界で噂されるようになったのだ。
そう。メラニーの憂鬱の全ての元凶は、あの父親だったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ライオネスは本当に最高で立派な婚約者だった。社交場では必ず優しくエスコートしてくれて、ファーストダンスの後も、最低限の社交をした後は出来る限りメラニーの側に居ようとしてくれた。
会う度に彼女を褒め、優しく愛を囁いてくれた。そしてまめにプレゼントを贈ってくれ、忙しい中度々デートにも誘ってくれた。
その上、絶えず面倒事を起こすメラニーの後始末まで嫌な顔一つしないでやってくれた。幼い頃から正義感が強いメラニーは、あちらこちらで揉め事を起こしていたのである。それをライオネスがメラニーの味方になり、上手く周りをおさめてくれていたのだ。
メラニーは駄目駄目王女とは言われていたが、けして人から嫌われて馬鹿にされていたわけではない。寧ろ愛されていた。
しかしそれは婚約者のライオネスのフォローがあったからなのだ。彼が居なければ、たとえメラニーが正しい事を主張していたとしても、それはただの壊し屋。トラブルメーカーと言われただけだったろう。
そしてメラニーが間違った時、人を傷付けるような事や失礼な事を言った時は、ちゃんと諌めてくれた。
だから、先日メラニーが妹のミルフェーヌに婚約者のオーリィーと婚約解消しろと言ったと後で知った時は、ライオネスは珍しくその美しい眉を釣り上げた。
「どういう意味で言ったの?」
「本気じゃないわ。あの子が身を引こうなんて馬鹿な事ばかり言っているから、つい腹がたったのよ。誰が見たってあんなにお似合いのカップルはいないというのに」
「そうだね、あの二人は本当にお似合いだ。それじゃあ、私達はどうかな?」
ライオネスが厳しい顔をしたままこう聞いてきた。
メラニーは答えられなかった。
ミルフェーヌとオーリィーはお互いに足りない物を補いながら助け合っている。
しかし、メラニーはライオネスに助けて貰っているばかりで、彼の為にしてあげられるものが何もない。それが彼女には辛かったし、惨めだった。
確かに彼女は自分の容姿に強いコンプレックスを持っていて、ライオネスと並び立つのが辛い事は本当だが、もしも自分がライオネスの役に立てるような人間だったなら、もっと堂々といられたのかもしれない。彼からの愛の言葉も素直に受け入れられていたのかもしれない。
「お願いだから正直に答えて欲しい。貴女の本当の気持ちを知りたいんだ。
私はまだ貴女が幼い頃からずっと好きだった。だから十年前のあの日、貴女が私を選んでくれた時はとても嬉しかったんだ。
それなのに、幼年学園に入ってからは、貴女はあまり私の顔を見てくれなくなった。そして側にいるとすぐにそわそわし出すし、私の側に一緒に居るのも嫌がって見えたし、正直傷付いていた」
ライオネスの思いがけない告白にメラニーは驚いた。
婚約してからライオネスは絶えず好きだと伝えてくれていたが、それは単なる婚約者としての儀礼的な、そう、挨拶のようなものだと思っていたのだ。
さすがに嫌われているとは思わなかったが、婚約する前から自分の事を好きだったとは思いもしなかった。
それに、ライオネスの顔を直視出来なかったり、側にいるとそわそわするのを嫌われていると傷付いていたなんて。
「最初は、小さな貴女がまだよちよち歩きの弟と妹の手を優しく握って王宮を散歩しているのを見て、なんてかわいらしくて優しい子なんだろうって思ったんですよ。
具合が悪くなったミルフェーヌ様のそばで優しい声で子守り歌を歌っているのを聞いた時は、私の心も一緒に癒やされました。
そしてお二人の妹君だけでなく、宮仕えの人や、学園の生徒が理不尽な目に会うと、貴女はいつも盾になって守ろうとしていましたね。
私も以前からそうしたかったのに、なかなかその勇気が持てなかったというのに。
だから、貴女の婚約者になってから貴女の勇気を少し分けて貰えるようになって、私もようやく弱い自分と戦えるようになりました。それがとても嬉しくて幸せだったんですよ」
「こんな私でもライオネス様のお役に立てていたのですか?」
「もちろんですとも」
ライオネスの言葉に、メラニーはハラハラと涙をこぼした。婚約者の前で泣くのは初めてだった。もちろん悔し涙以外でという事だが。
「そんな事を言って頂けるなんて思ってもみませんでした。ありがとうございます。とても嬉しいです。
そして今まで本当にごめんなさい。まさかそんなにライオネス様を傷付けていたなんて思いもしませんでした。だって、普通の事ですもの。ライオネス様のお顔を直視できる女子なんてこの世にはいませんもの」
「はあ? 何故?」
「眩しすぎて目が潰れてしまいますもの。それに、お側にいるだけでドキドキして心臓が破れてしまいそうで怖いんです」
「・・・・・・
婚約してもう十年たつのですが」
「好きな人の側にいればドキドキするのは当然じゃありませんか」
愛する婚約者から初めて好きと言われたライオネスは、今まで以上に眩しい笑顔を浮かべた。しかしメラニーは自分の心臓が破れてしまうと大変なので、すぐさまライオネスの胸に顔を埋めた。すると彼女は強く抱きしめられ過ぎて、今度は呼吸が思うようにできなくなって苦しくなった。しかしそれでも彼女は幸せだった。
こうして十年たって、ようやく婚約者と思いが通じあったメラニーは、その一月後にライオネスから髪飾りを贈られた。
「出来ればいつも身に付けていて欲しい」
と言う言葉と共に。
それは浜昼顔の淡いピンク色をした花を三つ繋げた、とても愛らしい優しい髪飾りだった。
「どうしてこの花を? もしかしてミルフェーヌからお聞きになりましたの?」
メラニーが驚いて尋ねると、ライオネスは首を横に振った。
メラニーが妹に婚約破棄をしろと言ったと聞いて、ライオネスがミルフェーヌに謝りに行くと、姉が本気じゃない事くらいわかっていますから、と言われた。
その時、ミルフェーヌとオーリィーがあまりにも仲睦まじいので、思わず羨ましいとこぼしてしまった。
すると彼らは、上手くいく方法を実体験をもとに教えてくれたのだ。
「ライオネス様、ただ愛していると言うだけでは女性には伝わらないようですよ。具体的にこういうところが好きだ!とわかってもらわないと」
「特に私やお姉様みたいに自己肯定感が低いと言われる者には、愛していると言われても、社交辞令だと受け止めてしまうのです」
「えっ?」
「ライオネス様はお姉様の事をいつも園庭に咲く赤い薔薇のようだとおっしゃっていますが、それは正直言って、姉は喜んではいないと思いますわ。
ええ、わかっています。ライオネス様が心から本当に姉の事をそのように思って下さっている事は。かつて私もそう思っていましたから。
でも、姉は植物図鑑を見るのが大好きで、薔薇以外のお気に入りの花を見つけたようなんです。そのお花を見た時、私もお姉様のような花だなと思って大好きになりました。
男の方はあまりお花に興味が無いかも知れませんが、一度図鑑をご覧になってはいかがでしょうか」
そう言ってミルフェーヌはライオネスに一冊の植物図鑑を手渡してくれた。しかし、いくらなんでもこの膨大な図鑑の中からメラニーの好きな花を探すのは無理だと言おうとした時、図鑑に栞がはさんである事に気が付いた。
ライオネスが屋敷に戻って、自室で図鑑の栞のはさんであるページを開いてみた。するとそこは海辺にはえる植物という目次だった。
海岸近くは塩害の影響で植物はすぐに枯れてしまうので、植物が育つのにはあまり適さない。クロマツなどの一部の植物のみが生息していると書かれてあった。
そして次のページをめくってライオネスは瞠目した。広い砂浜に咲き乱れる淡いピンクの花の群れの写真に。
笑ったメラニーがいる・・・
ライオネスにはそう見えた。
塩分を含む雨風に絶えず晒され、足元の砂地は安定せずに動いてく。そんな環境でも地に根を伸ばして、淡く可憐な花を咲かせる浜昼顔。朝のいっときだけではなく、昼の間ずっと咲き続けてくれる・・・
なんて綺麗なんだろう。なんて力強いんだろう。なんてしなやかなんだろう。私はあの浜昼顔を強い海風から守りたい。あの凛々しいクロマツのように。
「私はクロマツのように、愛する浜昼顔の花を守りたいと思っている。どうかいつまでも私のそばで元気に逞しく咲いていて欲しい」
ライオネスの言葉にメラニーは驚いて瞳を大きく見開いたが、すぐに幸せそうに微笑んだ。
元気で逞しくだなんて、淑女に向かって言う言葉じゃない。そして神々しい女神のような男が口にする言葉とも思えなかった。しかしメラニーはそれがかえって嬉しかった。婚約者の真の心の声に聞こえたから。
メラニーは髪飾りを大切に握りしめると、ライオネスに思い切り抱きついたのだった。
その後、メラニーから浜昼顔の刺繍入りのハンカチを贈られたライオネスは、黄金色の光を放ち続けたので、メラニーは眩しすぎて、ずっと顔を婚約者の胸に埋め続けなければならなくなったとか・・・
このお話を読んで、詳しい兄弟関係が気になった方は、
【 防波堤どころか波消しブロックにもならないけれど、愛する貴女を守りたい! 】
の方を読んで頂けると、わかって頂けると思います。
読んで頂いてありがとうございます。