七話 懐かしい場所
村から至急、戻るようにと指示が出たが何が起きてるんだ。村に近づくが外壁や畑仕事をしている村人にも問題はなさそうだ。
役場の方から凄い人数の魔力を感じる。ちょいまて、東側にもかなりの人数がいるじゃないか。しかも、目の前の内壁から人が溢れている、この人たちは一体なんだ。
「アルト様。急に呼び立てしまい、申し訳ありません」
「事情を詳しく教えてくれ、ギアス殿」
人をかき分けて、役所の中央まで来たらギアス殿が中年の男と話をしていたが俺を見るとこちらに近づいてきた。
後ろから中年の男も来たが見覚えが全くない。確かに武人の感じはするが荒々しい感じは無く、品がある感じだ。
「クレア様が生存していると分かった元ヴァンフリート領の親衛隊とクレア様を慕う領民とその守備隊がここまで移住してまいりました」
「それは領主の承認はあるのですか?」
「それがですな。親衛隊と守備隊はお暇を出して、承認を待たずにこちらに移動。領民達も家財を所持しないことを条件にここまで流れ着いたようです」
「いや、非常に不味いですね。このまま、お帰り願いたいですな」
領民は領主の物。税収の元だ。それが大量に領内から居なくなったら税収は下がるし、防衛能力も下がる。よく、領民の移動を認めたものだ。更には高度な教育を受けた親衛隊や守備隊が抜けたのは問題なるだろうな。
「親衛隊や守備隊の人数と村人の人数は?」
「親衛隊が五十、守備隊は二百。村人は五百」
「へっ? 五百? 合計、守備隊と村人だけで七百名なんて無理でしょ。今、資材や食料も百名がギリギリだよ? 連絡、なかったの? そこにいる隊長さんかな、連絡という言葉を知らないのかな? アンタ、貴族出身でしょ。食料とかは無から出てわけじゃないんだよ? 理解している?」
もう無理だ。建材を集めるのはゴーレムに任せればいいが食料が問題だ。いきなり七百人の食料を準備するは無理だ。住民が増えることを見越して、過剰に準備はしていたけど七倍は無理だ。横でギアス殿も頷いているし、目の前の男は人が常に不足している開拓村で必要だと考えて連れてきたんだろうと思うけど、限度がある。
来た者はしょうがない。当分は保存している食料を出して、全て混ぜこんで嵩増しして誤魔化すしかないな。グラハム様の所に行くか。
「先に言っとく。全兵はギアス殿の指揮下に入ること。現在、畑仕事をしているのは奴隷だが扱いは平民と一緒だ。もし、勝手に手を出したら覚悟しとけ。殺して野に晒してやる。住民の登録をクレア殿に任せる。アレスター殿はクレア殿の補佐。アレス殿は俺と一緒に着いて来てくれ。
食料は全て煮込み料理にして、嵩増しを。出来るだけ早めに戻る。解散」
借りを作りたくはないが行くしかない。
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三日で魔物と盗賊を駆除しつつ、グラハム領領都アトラスに到着した。半年の振りのアトラスは何も変わらず、活気がある。既にグラハム様には謁見をお願いしていて、時間が決まりしだい、宿に使いが来るようになっている。
アレス殿には宿に待機して貰って、俺は町で顔出しをしている。
「おぉ、久しぶりじゃないか。ドールマスター。開拓村はどうした?」
「ギルマスかぁ。会いたくない人に会ったわ」
「何だと!?」
「まぁ、トラブル続きで大変だけど楽しいよ。そういえば、ギルドの出張所の条件を満たせそう」
「はぁ、人口が五百人を超えないと申請すら出来んぞ」
「それが超えたから言ってるし、そのせいで計画がおかしくなってここに居るんだよ」
本当、何もなければここに来ることはなかった。報告する為に来る可能性もあったが俺とグラハム様が会うことは必要ない。
「そうか。時間があるならギルドにも顔を出せよ。申請書は後から送る」
「よろしく頼みます」
やはり、きつい。戦争も起きていないから食料の在庫も少ない。ここで買占めしてしまったら人々の営みに影響が出る。食料を取り扱う商会に食料を定期村に運んで貰うように依頼した。
長期的な問題は一応の解決かね。あのクソ兵隊どもは大森林の魔物の狩らせて、資金にしないとな。そろそろ、宿に戻るか。
「アルト様、使いが参りました。明日の朝一に迎えを出すということです」
「了解した。それまではゆっくりしていてくれ。何なら歓楽街に行くか?」
「……勘弁してください」
アレス殿は年も近い為、話しやすく貴族の出で初心だ。俺の予想が正しくければ、わざと奴隷になってる。目的は色々と考えられるが今はわからん。
「今日は寝ます。アルト様もほどほどにして、おやすみになってください」
「はいはい、休み」
この町の夜は静かな村に慣れた俺には騒がしく感じる。たった三日しか離れてないのに村が恋しいのは愛着が出てきたんだな。まぁ、明日の謁見が終われば帰れるしな我慢して寝るか。