六話 村づくり②
「さて、クレア様は夜更けに話とは?」
「はい、願いがございます」
うん、確実に厄介事ですね。謀略でご両親の復讐か政敵に奪われた領地を回復か。どちらかだろう。
「私の父上達の仇討やヴァンフリート領の回復ではありません」
えっ、そうなの。口に出しそうになったよ。
「私をアルト様の計画に加えて頂きたいのです。内容はグラハムおじ様から聞いております。私もこの地を支配してきた強者たちが出来なかった大森林の開拓。
ここに点在している開拓村の殆どは我が国の土地を超える広大な大森林を開拓し、我らの土地にする気は無く、恩恵に甘んじているだけです。
アルト様の計画を教えて頂き、私は感動いたしました。流石はハルモニア村、いえ、勝利のハルモニア傭兵団の最後の弟子です。
どうか、私を計画に参加のお許しを!」
えっえっナニコレ。
「ちょっと近いです。離れましょうね」
なるほどね。政争や戦争で死ぬことが当たり前のこの世の中、過去にある程度、区切りをつけて前を見てるんだ。強いな、俺には無理だな。
グラハム様もこれから増えていく村人を統制する上で優秀な文官で必要だと言っていたし、その為に計画を教えたんだろうな。今回の四人はこの村の文武を司ることになると思うけど、グラハム様に恩を感じている部分もあるし、純粋な自分の配下が欲しいな。
「いいですよ、グラハム様がお伝えしているなら信用します」
「ありがとうございます! 私は感謝の念が尽きません! これでお金が沢山、私の下に集まる!」
なんかボソッと大事なことを言ったような気がするが聞き取れなかった。仲間になったわけだし、様付けで無くていいか。しかし、一つ訂正しないと。
「クレア殿。一つ訂正させていただきます。私は金儲けや開拓地を増やすことが目標ではありません。家族やハルモニア村の皆を殺した大森林の消滅と魔人の殺害です。
確かにハルモニア傭兵団は南部公爵との契約を守り、テラスキマからの盾になり死んで逝きましたが私のとっては関係ありません。奴らを殺し、奴らの四肢を金に換え、人と装備を整え、侵略し、奴らを殲滅するのです。
私は護国の希望などでありません。ただの魔物を恨む復讐者です」
「復讐の先には何も残りませんよ」
「それでいいのです。私はきっとその為にあの惨劇から逃がされて、生き残ったんですよ」
久しぶりだ、この感覚。最近、村の発展に注力していたから気が抜けいた気がする。クレア殿の手が震えてるな。勘違いして欲しくないから丁度良かった。
「さて、お話も終わりましたし、夜も更けましたのでお部屋にお戻りくださいませ」
震える手を抑えながら、部屋を出ていったな。この興奮を解消しないと寝れないな。少し森に行くか。
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う~ん、製粉所をどこに作ろうかな。出来れば内部に作りたいな。馬車の移動を考えると西の商店街の出入口付近の用水路だな。歩道しかないから建設するか。家具や木工職人が欲しいな。大森林から上質の木材は取れるし丸太を売るだけでじゃあなくて、加工工場を作って輸出したな。そっちのほうが儲かるし、村人の雇用に繋がる。
支店をグラハム領に開店したと言っていたし、グラハム様に報告するついでに奴隷の要望を言いに行ってみよう。村人たちは畑仕事に精を出しているし、俺は浄水場を見に行くか。
村から西に十ダルに大森林から伸びる大きな川がある。村から五ダルの位置のため池まで川から水路を通して、更にため池の近くに沈砂池、スライムろ過池×二つで水を綺麗にして、村の中にある配水池に貯めてそこから公衆浴場と公衆便所。井戸に配水管を通して、届けられているらしい。下水は沈砂池とスライムろ過池×五つで浄化して海に繋がってる川に流している。
俺は王都から派遣され来た技術者の言われた通りに作っただけだから正直、仕組みについては分からん。最初の沈砂池以外は戦闘のことを考えて、埋めている。一番、納得が出来なかったのはスライムが一匹千ジルしたことだ。魔石を売っても百五十ジル程度にしかならないスライムが一匹千ジル。あり得ない。まぁ、腹を下したり、糞尿が垂れ流しの村にするくらいなら安い。しかし、解せない。
ゴーレムをフル稼働した為、一か月で水路や上下水道は出来上がった。町も同時進行で作って二ヶ月で防壁とは役場出来たし、ゴーレムの性能は異常だな。
げっ、役場の屋上に赤の旗が立ってる。至急の帰還の合図だ。何事だよ。急いでいこうか。