四話 再会
開拓村を作り始めてから三ヶ月が経った。ゴーレムの不眠不休の建設で自宅兼役場が出来上がり、俺は屋上から村全体が眺めている。一階から三階までが役場、四階が執務室と私室で屋上にはバリスタと矢置きが置かれている。
木こり組と採石組、狩り組は四体一組、輸送隊は三体一組と馬型。上級一体と下級で構成されているが村の建設隊は細かい作業などが必要だから全部上級で揃えてる。
魔物から住民を守る外壁や内外の道の整備も完了しているが住民の合わせて、住居などは建設しようと考えている為、道以外は何も建っていない。
「村からいろいろな音が聞こえてくるが人の話し声は一切聞こえてこない。十五年間、師匠やグラハム様、マリアが側に居たから流石にこたえるな」
アリシャス川の橋を渡ってくる馬車の一団が居る。怪しいな。ダニエル商会が来るのは半月先だ。村から森までの魔物を減らす為に狩り組は全て出払っている。上級を作るだけの魔石は無い。
「突然の訪問、申し訳ございません! 私めはスレッド奴隷商会のスレッドと申します! 我々はダニエル殿から紹介を受けて、参りました」
「今、行く。少し待たれよ」
奴隷商だと。前回ダニエル商会が来た時には紹介などの話は聞いていない。グラハム伯爵領は奴隷売買への税金が高く、滅多に奴隷商は伯爵領には来ない。しかし、来訪者を断るわけにはいかない。出来たばっかりの開拓村が商人を選べる立場では無いしな。
「こんな辺鄙な場所によくいらっしゃいました。村長のアルトでございます。申し訳ありませんが紹介状などはありますか?」
「村長自らの出迎え、恐れ入ります。こちらがダニエル殿の紹介状とグラハム様からのお手紙でございます」
紹介状は確かにダニエル商会の紋章で蝋封されている。疑いの余地が無い。更にはグラハム伯爵家の公式の書簡に使われている紋章付きの羊皮紙だ。ダニエル商会の紋章を偽っても関係の悪化で済むが貴族の紋章を偽装するのは重罪になる。
「なるほど。ダニエル殿は村を発展させる為の奴隷を使うのが良いと考えて、この村に貴方を呼んだのですね」
「ダニエル殿から最初にアルト様のお話を聞いた時は無謀な復讐に燃える悲しい若者だと思いましたがこの半年で貴方様の情報とこの村を見て、私の勘違いであったと実感させられました。この村はこの規模では収まらないでしょう。将来の為にも投資させていただきます」
「そこまで評価して頂くのは嬉しいですね。さて、これからは商売の話と行きましょう」
「そうですね」
荷馬車も多いが奴隷も多い。珍しく檻付きの馬車が一台いる。通常、奴隷は歩かせるが戦争で捕虜した敵軍の高官や王族、貴族が奴隷になった場合は馬車に乗せる。あまり勘ぐるのは止めとこう。
「アルト様は勘がよろしいですね。アルト様におすすめしたい品物はあちらでございます。出来れば、部屋にてお話を」
「了解いたしました。何もありませんがどうぞ」
檻から出てきたのは四人。体格から男が三人に女が一人。足以外見えないように上から袋を被されているが男たちの足の筋肉は発達おり、訓練されている軍人かもしれない。女は貴族のような装飾されている靴を履いている。うん、嫌だ。断りたい。
「これは小さな砦ですね。外壁もしっかりしておりますが内壁は魔法陣を使い、硬さは鉄を超えていますね」
「よく分かりましたね、外壁までは手が出ていないのでまだですが全ての防壁に硬化の魔法陣を使う予定です」
「私も戦場を渡り歩く商人の一人ですので城や砦の防壁はよく見るのでだいたいは分かります」
辛い。女が躓いた時に一番体格の良い男が姫と呼んでいた。奴隷と護衛を引き連れて、ぞろぞろと歩いてきたが部屋を目の前にして、気が重すぎる。扉を開けたくない。
「さて、先ずは奴隷たちを紹介して欲しいです」
「かしこまりました。先ずは最近、連邦と終戦したのはご存知でしょうか?」
「北部公爵領軍が大活躍されて、我が国に有利な条件で条約を締結しと伯爵様から聞いております」
「はい。我が軍は最終的には大勝利いたしましたが初戦にて、大敗しました。その際に指揮をしていた東部連合軍の一部が逃亡しました。男たちはその逃亡した軍の副官と部隊長でございます」
なるほど。連邦との戦争は北部と東部の公爵家が共同で防衛していると聞いていたが初戦が大敗していたのは初めて知った。男たちは分かったが女は何者だ。
「聡明なアルト様ならお分かりだろうと思いますがこちらの女奴隷は逃亡した貴族家の娘でございます」
「なるほど。敵前逃亡の罪に問われて、家が取り潰しになったということですね」
男が女を姫と呼んだいうことは仕えていた貴族の娘ということか。女を雑に扱ったら寝首を狙われるな。
「そろそろ、奴隷達の顔を見せて頂きたい」
「かしこまりました。布をとりなさい」
火種を抱え込むわけにはいかない、買わない方向で話をもっていこう。さて、最後に姫君と騎士たちのご尊顔を拝むとするか。
なんだと
「あり得ないぞ! あり得ない! クレア様! 東方公爵家の筆頭分家であるヴァンフリート家の令嬢が奴隷に落ちているのですが!? ギアス様! かの東方の守護神と言われる貴方が敵前逃亡など嘘だと言ってくだされ!」
「落ち着いてくだされ、アルト殿。これから事情を説明いたします。先ずはグラハム様からの書簡をお読みください」
隷属魔法でクレア様やギアス様も声が出ないようになっているのか俺を悲しい顔で見てる。
先ずはグラハム様の手紙を読まなければ、この事態にヴァンフリート家と親しいグラハム様が何かお考えなのだろう。
「なんと、東部公爵家内で継承権争いとは。偽りの伝令が原因で撤退したヴァンフリート領軍は敵前逃亡の罪を着せられ、強制的に矢避けに使われ壊滅。ヴァンフリート家は貴族位を剥奪。戦闘中に東部公爵家嫡男を見殺したとして、ヴァンフリート伯爵、伯爵夫人は処刑された。あぁ、ギルバード様も戦死されたのですね。戦争を生き残ったギアス様とアレス殿、アレスター殿は奴隷落ち。クレア様は処刑はされなかったが同じく奴隷落ちとは何ということだ」
ヴァンフリート家とグラハム家は長年の交流関係にあった。ヴァンフリート一家は冬の一月から三月にかけて、王国南部に属してるグラハム家に避寒していた。昨年までは年も近いということで俺とクレア様、マリアと一緒に遊んでいた。
手紙にはヴァンフリート家が今回の防衛戦で公爵家内の敵派閥の策略に嵌り、クレア様以外は亡くなって精強であった領軍はギアス様達以外は戦死し、本人たちは再起させないように奴隷落ちにしたと。
クレア様たちが競売にかけられることを知ったグラハム様はスレッド殿を使い、四人を保護したがそのことが黒幕にバレて、追手を撒くためにここまで移動させたのか。こんな辺境だと口封じの刺客も見つかりやすく、軍を送るにも南部公爵家やグラハム家の領地を通らないといけない為、移動を阻止できる。
「しかし、危険だ。魔物は高位なもの多い。しかも、冒険者に紛れ込まれて刺客を送られては対応が出来ない」
「グラハム様は南部公爵様を頼ることも考えておられましたがアルト様を頼られることを選ばれました。更に言いますとこれはクレア様方の希望でもありますし、この方々を村に受け入れるのはグラハム伯爵から第五七九開拓村村長に対する命令でございます」
「命令だということは領内に住む者としては拒否は出来ない。しかし、クレア様たちはここで解放するのですか?」
「いいえ。このまま、奴隷の身分で働くと全員が希望しており、グラハム様も了承されております」
「なるほど、了解いたしました」
それからはすぐに四人の権利譲渡の儀式を行って、グラハム様からの詫びの品なのか五十人の農民奴隷と三ヶ月分の食料の受け取りに記名した。するとスレッドは良かったですと言い、他の開拓村に向けてその日の内に出発した。
「アルト君。いえ、アルト様。これからよろしくお願いいたしますわ」
「あっはい」
出来れば、別の形で再会したかったが命が無事で良かったと話しながら夜更けまで五人で話した。