一話 初めの一歩
「これが開拓許可証になります。明日、役所の係りの者が開拓予定地までお連れいたします」
「ありがとうございます。質問、よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「村人を何人集めたら、税金を納めなければならないでしょうか?」
「一律で貴方様を含め四人になりますと収税官が派遣され、収める税が決まり、翌年から税を納めて頂くこととなります。また、奴隷や家畜などは頭数に含まれませんので初期の開拓に利用することを推奨いたします」
「ありがとうございます」
故郷の村を魔物に破壊され、師匠に拾われて五年。そして、免許皆伝を貰って、この町で冒険者になって既に十年、やっと開拓許可証を買うことが出来た。これからはB級冒険者では無く、第五七九開拓村の村長として生きていく。俺は開拓許可証を魔法袋にしまい、新たな気持ちで冒険者ギルドを出ていった。
「ドールマスターは本当に開拓許可証を買っていきましたね。このまま、続けて行けばS級には届かないにしてもA級になれるだけの素質はあるのにもったいないですよね、ギルマス?」
「儂も随分、引き止めたんだが自称ドールマスター専属受付嬢が『彼の夢を阻むならギルドマスターだろうと城門にその首を吊ってみせます』と言われたら止めきれなかったよ。今、泣くなよ。奴が居る時に泣いとけば、引き止められてだろうによ。相も変わらず、お前は不器用だな」
「私が不器用なことは一番、私が理解しています。私の感情で彼が十数年以上願い続けた夢を邪魔するわけにいかないのです。私は待ち続けます、彼が私を必要としてくれる日を」
開拓許可証を手に入れることに必死になっていた俺は彼女の気持ちに気付いておらず、この後に彼女の執念に驚きながらも助けられることとなる。
「久しぶりやね~ 今日も干し肉かい?」
「はい。でも、今日は樽で頂きたいんです」
「また、迷宮に引きこもるんかい?」
「やっと、開拓許可証を買うことが出来たんですよ。明日からは村長として、開拓予定地に行くのでこの町に戻ってくることは少なくなるので大量に買うことにしたんです」
「……そうかい。寂しくなるね。放棄申請をすれば、開拓を止められるんだから命を大切するんだよ」
「はい! ありがとうございます」
ここの肉屋のおばちゃんには駆け出しの時からお世話になっていて、いつも安い干し肉しか買えてなかったが開拓が成功したなら売り上げに貢献したい。切実に。
「持っていけ、真っ直ぐ野郎。女の不幸と共に。銀貨三枚だ」
「ありがとうございます。あの真っ直ぐ野郎と女の不幸はどういう意味ですか?」
「それが分からないなら、尚更教えることは出来ないね。他のお客さんが居るから早く場所をあけな」
代金を払い、追い出されるように肉屋を後にした。女性とは生まれてから縁が無く、独り身であったから女性を不幸にしたことなんてないと思いながらお世話になっていた店で回りつつ、買い出しをしていたら他の店でも同じようにことを言われてた。最後に寄った服屋で店主の娘から急にビンタされて、赤くなっている頬を抑えながら俺は宿に戻った。
「よう、ドールマスター。今日は珍しく酒を飲んでやがるな」
「火剣じゃないか。今日は俺にとって、新たな門出の日だからな。酒だって飲みたくなる」
「アリス嬢とやっと付き合い出したのか!?」
「アリスさんはギルドの受付嬢だろ? そんな優秀な人が俺みたいな孤児と付き合う訳ないだろう。寝言は寝てから言えよ」
あちこちからため息が聞こえてくる。なんで今日はこんな雰囲気になりやすいんだ。宿で最後の日だからオーク肉のステーキと酒を飲んでいたら絡まれた挙句にため息をつかれ、憐みの目で見られないといけないんだ。
「今からでも遅くないと思うぞ。その開拓許可証を返して、冒険者を続けようぜ。そしたら、ここに居る全員がハッ」
「ごめんね。ジルはオークの巣を掃討することが出来たから気分が良くて、お酒を沢山飲み過ぎたみたい。気を悪くしないでね。僕たちは君の夢を応援しているから協力出来ることがあったら気にせずに言ってね」
火剣ことジルは同じパーティーの僕っ子に気絶させられ、引きずられて消えて行った。
「我々の友であるドールマスターことアルトの新たな門出に乾杯しようでないか! では、アルトの活躍を祈って、乾杯!」
「「「「乾杯ッ!」」」
仕事が終わったあろうギルドマスターが乱入して、何故か俺と殴り合いの喧嘩になったが冒険者らしく荒っぽい別れになったが楽しかった。今夜は数の少ない良い思い出でなった。