11/35
想っての
21.最高音質の君の声。
「行く!」
教室にて。離れていても彼女の声が耳に入る。帰り道、一緒に歩いていると
「映画観てくる」
「話してたやつ?」
「聞いてたの?」
「声でかいから」
彼女は頬を膨らませた後に笑う。
「ほんとは聞き耳立ててたんでしょ」
「なわけ」
返答をしつつ心に思う。勝手に入ってくるんだ。君の声だけが。
22.甘過ぎるコーヒーで流し込む、苦い思い出。
ブラックコーヒーはあの日から飲めなくなった。
「甘そ」
砂糖を大量に入れていると彼は顔を顰める。
「前はブラック好きだったのになんで?」
——貴方が浮気現場で飲んでたのがブラックだったからよ。
そんなことを言って彼を手放す勇気もなく。
「なんとなく」
今日も私は、砂糖で自分の中の苦みを誤魔化す。